感情が理性を超えるとき

2012-04-27 07:18

去年の3月11日以来、「政府」「東京電力」とながつけば全てが隠蔽であり、捏造、という意見がまかり通るようになった。

ちゃんとしたソースを出せなくて恐縮だが、去年の夏、関東地方では電力事情が逼迫していた。日毎に供給可能量と、使用料のグラフが示されていた。その「供給可能量は不正確だ」としてNHKの全国ニュースでもやっていたように思う。

かくのごとく「正義の味方」は「悪」を叩き続ける。しかし「正義の味方」の側の隠蔽には知らんぷりだ。

再生可能エネルギーによる電力の買取価格を検討している経済産業省の「調達価格等算定委員会」は、2012年度の住宅用太陽光発電による余剰電力の買取価格を2011年度と同じ、1キロワット時あたり42円、買取期間10年とする方針であることを明らかにした。また太陽光発電所など10kW以上の非住宅用太陽光発電は1キロワット時あたり42円、風力発電は同23.1円で買取期間はいずれも20年、地熱発電は同27.3円、買取期間15年とした。

via: 再生可能エネルギーの買取価格の原案提示 経産省 | レスポンス (社会、行政のニュース)

経産省はどんな計算でこの値を出してきたのかはわからない。ソフトバンクの正義の味方、孫社長の意見とも合致していることは確かだ。

孫さんは以下のように語っています。

「(買取価格は)ヨーロッパの平均でも58円だということであります」

via: 蹴茶: 孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由 [2012.4.26]

そしてこの主張は最近の急激な情勢変化には目をつぶっている。

ドイツ 屋根 13.5ct 14.4円 1000kw~10MWまで グラフに手書きしてますが
地上13.5ct14.4円1000kw~10MWまで4/1にも引き下げられてます

via: 蹴茶: 孫さんが触れたくない事実 2009年のFITを引用する理由 [2012.4.26]

不思議な事だが、こうした「隠蔽」にはメディアは声を上げないようだ。
きっとこのニュースは多くの人の感情にアピールするということなのだろう。人間は所詮感情の生き物。昭和16年に採算のない「開戦論」が支持されたのと同じく、今は採算のない「エネルギーの転換」が支持される時代だ。

その結果昭和20年に日本は焼け野原となった。そしてこの政策の結果は

再生可能エネルギーの高額強制買い取り案がそのまま導入され、ボロもうけの機会を逃すまいと国の内外から寄生虫業者どもが集まってきて際限なく買い取りが行われるようになると、一般家庭の電気料金は何割も上がることになる。

via: 再生可能エネルギー強制買い取りによる負担をどう避けるか: 無指向な嗜好

ということになるだろう。仕方がない。それが「世論」であり「民意」というものだ。
太陽光発電をいくら増設したところで、安定した電力の供給はできない。つまり火力のかわりにも原子力の代わりにもならない。(安価な電力貯蔵技術が開発されれば別だが)しかしそうした事実には目をつぶり

「ススメ一億火の玉だ」

となるのはまあ我が国のお家芸だな。この状況を乗り切る唯一の手段は「濡れ手で粟をつかむ側」に回ることである。海外では暴落している太陽光発電パネルを高値で日本に売りつける。あるいは自分でメガソーラーを作ってもよい。おそらく孫社長は、そうした線を狙っているのだろう。

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我が国の事を書いていると気が滅入るので、隣国について書こう。北朝鮮は「衛星打ち上げ」を予告し、管制センターを公開までした。(誰もそれが管制センターだとは思っていないが)

今まで北朝鮮の「衛星打ち上げ」は成功したことがない。なのに今度は自転速度が使える東向きではなく、発射方向を南に変えた。エンジニアとしてみれば基地外沙汰である。しかし彼の国でも感情は理性を凌駕しているのだろう。

その「ロケット」だが既存の「労働」ミサイル4本を束ね一段目とする。そのうえに2段目を括りつけた代物だ。これらの「ミサイル」は旧ソ連の弾道ミサイルを元としたものが多い。とはいえ、

「一から設計するのと、改造するのは全く別物」

という工学の原理はここでも生きている。射程を伸ばそう。じゃあ火薬をもっと詰めよう、とやると空中でバラバラになるわけだ。湾岸戦争の時に使われたスカッドは、やたら空中でバラバラになり、それ故迎撃が難しかったと聞いている。

一度も成功したことがないロケットをさらに難条件で打ち上げる。全ては確率の問題だからもちろん成功することだってありえただろう。しかし予想通りロケットは空中分解した。

北朝鮮内部で何が起こっているかは誰にもわからない。しかし元ミサイル技術者としては、北朝鮮で担当しているエンジニアの身に同情せずにはいられない。

新しく「第一書記」の座についたとっちゃん坊やが演説する姿を見た。体をゆらし、落ち着かないその姿に国民の崇拝を集めることは難しかろう。普通に考えればだ。

1992年のことだ。潜在脅威として北朝鮮の弾道ミサイルを挙げたところ、外務省から

「北朝鮮はいつまで持つのかねえ」

という意見をもらった。不思議なことだが、そこから20年たった今も北朝鮮は北朝鮮のままである。

しかしおそらくこの20年間に内部では変化があったのだろう。つまり「最高指導者」を形骸化し、本当の権力は別のところに移されたのだ。それ故第一書記がどんな状態であれ、体制にはなんの影響もない。(ように見える。今のところは)

軍事パレードで雄々しく更新した「弾道ミサイルに見える何か」だが

According to Markus Schiller and Robert Schmucker--of Schmucker Technologies, a NATO advisor--"there's no doubt that these missiles were mock-up." Not only that, but they say that this is proof that North Korea is very far away from having a ICBM. According to them, was just "a dog and pony show."

via: Confirmed: Those North Korean Communist Assclowns Are Pathetic

"Dog and Pony show"なのだそうな。引用記事にあるように、国民が飢えで死んでいる時、貴重な予算を模型に費やす国を笑うことはできる。

しかし我が国もそれより「少しマシ」な状態でしかない。20年後日本全土に国民の貴重な財産(電力料金を通じて徴収された)で構築された多数の太陽光発電施設が作られるだろう。そしてそれらは電力事情の改善には何の役にもたたないだろう。

そしてそれは「政府と東京電力の犯罪」として糾弾されるのだろうな。


強大な敵に立ち向かうために

2012-04-26 07:24

今日は、まとまっていない内容をだらだら書くよ。
先日来「パラダイムの魔力」という本を読んでいる。

パラダイムとは「ゲームのルール」であり、新しいパラダイムを導入する、ということは「ゲームのルールを変える」ということである。

既存のルールを考えている限りにおいて、「とうてい叶わない」相手を打ち負かすにはどうすればよいか?孫子が解くところと、この本が解くところは一致しているすなわち

「ゲームのルールを変えること」

だ。我々はその実例を目の当たりにしている。

Microsoft ruled the PC market for decades with utter dominance. But today, as the future shifts toward mobile devices, things are not looking good for Microsoft.

via: Microsoft's Mobile Comeback Is Looking Terrible

今から7年前であれば、「スマホといえば、Symbian,Palm,そしてRIM(Blackberry)」であった。彼らのシェアは圧倒的であり、ゲームのルールを支配しているように見えた。

そこに新たに参入するにはどうしたらいいだろう?ゲームのルールを研究し、理解し、そしてその中で打ち勝つ方法を見つける、というのは一つのやり方だ。かくしてGoogleはAndroidという名の

「よりよりBlackberry」

を作ろうとした。それがこの図である。

Google-phone-2

The designs have surfaced in Oracle's case against Google over Java,

via: This was the original 'Google Phone' presented in 2006 | The Verge

しかしその直後、2007年の1月をもってゲームのルールは全く変わってしまった。私は当時の事をよく覚えている。「賢い人」は

「iPhoneのどこが新しいの?こんなの今までにあったじゃない」

といくつも例を挙げた。彼らは「既存のパラダイム」の中で生きる幸せな人達であった。
しかしGoogleはそれほど「賢く」はなかったようだ。ゲームが一夜にして変わったことを見て取った。詳細な経緯は不明だが、そこから大急ぎでAndroidを作りなおしたのだろう。

(余談だが、iPhoneのプレゼンテーションを見て唖然とした私は「これはドレッドノートだ」と思った。今にして思えばその感覚は当時自分が思っていたより正しかったと思う)

そしてこの「パラダイムシフト」はそれまでスマートフォンを全く持っていなかったアウトサイダー(Apple, Google)にとって有利に働いた。捨てるべきものがなく、身軽にシフトできたからである。結果は見ての通り。Palmは消え、RIM,Microsoftは「時々話題に登る」だけである。MajorityはAppleとAndroidだ。

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こうした「パラダイムシフト」はこれまで何度も起こってきた。

冒頭に挙げた本では、「パラダイムシフトを捕まえるのに非常に巧みな企業」として「日本企業」が挙げられている。クオーツという技術革新によるパラダイムシフトを捕まえたのは日本企業だった。ウォークマンというパラダイムシフトを創りだしたのはソニーだった。読んでいて悲しくなる。20年前は確かにそうだったのだ。

もう一つ例を挙げよう。日本軍はパラダイムシフトを起こした。日清戦争の黄海海戦は「大艦巨砲主義」に、快速で運動する艦に搭載された発射速度の早い速射砲が対抗しうることを示した。ちょんまげと刀から世界有数の軍隊を持つにいたった成長ぶりは確かに目覚ましかった。

しかし

そこから彼らは自分たちが作り上げたパラダイムのなかで生きるようになり、引いては

帝国陸軍を考えれば、彼らは彼ら自身が作り上げた「帝国陸軍像」に一体化することに対して最大の情熱を捧げていたように思える。現実が その「帝国陸 軍像」を拒否すればするほどかたくなにその幻想にしがみつこうとしたのではなかろうか。つまり彼らにとって一番大事なもの(つまり自分が一体化しているも の)は陸軍の軍人としてのメンツであり、「戦闘の勝利」ではなかったということだ。

via: 失敗の本質の一部

となったように思える。そして私は今の日の丸家電メーカーにも同じような雰囲気を感じるのだ。イノベーションを忘れ、組織内抗争に明け暮れ自滅していったソニーを筆頭として。

ではどうしたらいいのか?なにから学ぶことができるのか?

産物ではなく、プロセスに同一化すること、そして単に保持・所有するプロセスにではなく大胆に選択し、適応するプロセスに同一化することは、こ れまで集団的に実現することが難しかった。

共和国初期のローマ人、15世紀末から16世紀初頭のイタリア人、エリザベス女王時代のイギリス人は目的にとって有益だと判断された過去の遺産 の大部分を 保全しつつ、新しい機会を捉えることに非常に長けていたように思える。

「海上砲撃:イノベーションの事例研究」より

と文章だけ引用して今日は唐突におしまい。


Androidはプラットフォームではない。組み込みOSだ(しつこい)

2012-04-25 07:20

というわけで何度目かわからないが、とにかく主張し続けよう。未だに

「AndroidのシェアがiOSのシェアを抜いた。これでWindows V.S. Macの図式再現だな」

としたり顔で書く人間は後を絶たない。

しかし

Androidは単一のプラットフォームではない。組み込みOSだから、アプリを書いたところで動く動かないは、機種によるのだ。

それを端的に示しているのが、「技術のドコモ」がリリースした新しいメールアプリケーション。

 あまりにも評判が悪いことで有名な「SPモードメールアプリ」の後継として多大な期待をされていましたが、予想通り(!?)残念な結果になりました。というのも、SPモードメール非対応機種、利用不可能機種があまりにも多すぎます。以下、Google Playに掲載された機種の一覧を掲載します。

◆spモードメール非対応機種 
SC-02D, SC-01D, SC-02C, SC-01C*1, SC-02B*1, SH-04D, SH-13C, SH-12C, N-06C, N-04C*1, F-01D, F-12C, P-01D, P-07C, L-07C, SO-01D, SO-03C, SO-02C, SO-01C

◆利用不可機種 SC-04D, HT-03A, SH-10B, SH-03C, T-01C, L-04C, L-06C, SO-01B, Sony Tablet(TM) S, Sony Tablet(TM) P

  まさか、「Galaxy S2」を切り捨ててくるとは...。その他にも、Xperia acroやXperia arcなども非対応となっています。もちろん、あれほど大々的に宣伝した挙句に0円で投げ売りした「Galaxy Nexus」は利用自体が不可能です。

 キャリアによる手厚いサポートとは一体なんだったのでしょうか。これならグローバルモデルをそのまま出して頂きたいと愚痴も出てしまうほどです。

via: これは酷い 新SPモードアプリ「CommuniCase」が残念な結果に | ガジェット速報

Android OS 2.3.3以上でないと使えない。それはいいのだが、じゃあOS3とかOS4はどうかといえば、それもダメなのであった。正直に書くならば

「AndroidOS 2.3.3-2.3.7が動くもののうち一部で動作可能」

ということになる。動作不可能な機種には、世界のGalaxy S2,それに

携帯販売ランキングでは「Xperia acro HD」が好調だ。ドコモ版の「Xperia acro HD SO-03D」が初登場から3週連続でキャリア総合首位を獲得

via: 携帯販売ランキング(3月26日~4月1日):「Xperia」の快進撃続く 3週連続で首位 (1/4) - ITmedia +D モバイル

という「売れ行き絶好調」のXperia Acroも含まれる。

いや、しかしAndroid用アプリの開発って大変だねえ。。と思わず中の人達に同情してしまう。

NTT Docomoとしては、こういうスタンスのようだ。

AppleのiOSでは、おサイフケータイ用のモバイルFeliCaチップを搭載したり、我々のエリアメールに対応させたりというのが難しいと思いますので。

via: 新春インタビュー:"スマートフォン主流時代"にどう取り組むか――NTTドコモ 辻村副社長に聞く(前編) (3/3) - ITmedia +D モバイル

いや、Docomoが取り扱ってる機種ですら、エリアメールに対応してないじゃないですか。

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こうなると面白いのは

「Docomoはどこまで"ユーザエクスペリエンスはキャリアがコントロールする"という幻想にしがみつくのか」

という点である。Auは早々にこの路線を捨てた。土管として競う道を選んだわけだ。これは判断としては合理的である。成功するかどうかはわからないが。

Docomoも同じ道を通るのか、あるいは一発逆転がないかとひそかに期待している。つまり

「Androidをベースにした独自OSを開発して、Kindle Fire路線」

である。というか前述の幻想にしがみつこうと思えばそれしか手はないのではなかろうか。だって、これまでだってiアプリとかDojaとかそういうことやってたんだから。NTTの奴隷になってくれる携帯電話メーカーと組んで独自路線を突っ走りましょうよ。残るのは富士通、NECだけかな。。品質の悪い、高い端末を購入させることでdocomoへの忠誠心を試し、その「関門」をパスした人だけにdocomoの回線を使うことを許可する。素晴らしいじゃないですか。

中の人達には深く同情しつつも、野次馬としてはこれほど面白い話はない。がんばれドコモ!


孫子に書いてあること

2012-04-24 07:20

先日こんな記事を見つけた。

また、もちろん、「商品開発に戦略は必要ない」などと言うつもりはない。
商品開発にも「戦略」は必要だし、有効だ。

しかし、「ナウシカ」や「千と千尋の神隠し」がこれほどのブランドになったのは、
「正しい戦略」があったことが主因なんだろうか?

「ドラクエ」「Google検索」「twitter」「iPhone」がヒットしたのは、
「正しい戦略」があったことが主因なんだろうか?

via: 経営戦略よりも重要なこと - @fromdusktildawnの雑記帳

なぜこんなことを言い出したかといえば、この記事を読み返したからだ。

あのね、ま、言いづらい話なんですけど、
世の中には「頭のいい人になりたい人」というのが
すごくたくさんいてね、多くの場合、
その人たちが迷惑をかけるんですよ。
なぜかというと、頭のいい人になりたい人たちは、
すごく頭のいいことを考えて、
みんながそれに従えば
世の中がよくなると思ってるんです。
で、法律や、決まりや、
マニュアルをたくさんつくる。
それに従えば幸せがやってくると思って。
「1、こうするといいぞ」とか、書くんです。
でも、みんなは、頭のいい人の思惑を外れて、
「えっと、4番はなんでしたっけ?」とか、
「俺、じつは読んでないんですよ」とか、
「まぁ、いいじゃないですか」とか言うわけです。
そうすると、頭のいい人になりたい人たちは、
「どうして大衆ってバカなんだろう」って
もう、涙を流しながら思うんです。
「だから戦争が起こるんだ」とか言うんです。
でもね、彼らが言うようなことが、
世の中を変えたことは一度もないんですよ。
まあ、変える手伝いくらいにはなるにしても、
本当になにかを変えるようなものっていうのは、
「こっちのほうが美味しかったぞ」とか、
「つかってみたら便利で、もう戻れないや」とか、
そういう「事実が先に突っ走ったこと」ばかりで、
決まりやルールは、あとからできるんです。

via: 宮本茂さん、『Wii Fit』などを語る。

最近あまり読まないが、凋落し始めたころのソニーでは「パワーポッター」が大活躍していたのだそうな。戦略、商品の位置づけを弁舌さわやかに語り、印象深いパワーポイントにする人たちだ。

今でもソニーの人たちのインタビューを読むとそうした印象を持つことが多い。

タブレットデバイスは、新しいカテゴリーの製品だが、その普及にいたるまでの過程において、日本では最も早い段階で使い始める"Innovators"段階に続く"Early Adopoter"の段階にあり、本格的な普及段階にいたる"Early Majority"が使い始めるまでに、"普及の谷"と呼ばれる"Chasm"を乗り越える必要があるとする。

 Chasmを乗り越えてEarly Majorityを掘り起こすことで市場の拡大が必要と述べる松原氏は、一般ユーザーに幅広くアプローチするためには、従来のようなハードウェアスペックの訴求だけではなく、タブレットデバイスでなにが、そして、簡単にできるのかを示していくことが重要という。

via: "普通の人"にはスペックだけでは足りない:"ソニーらしい4つの特徴"でみんなのTabletに──「Sony Tablet」製品発表会 (2/3) - ITmedia +D モバイル

いや、実に見事な「戦略」であるが、肝心の商品がゴミではなんともならない。結果は明白。Sony Tabletは存在しないも同然だ。

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とか考えているうち、ぼんやりと「孫子」の事を思い出した。孫子には戦において冷徹な計算が必要な部分と、戦闘する個人の意識に関わること、それに「正と奇」という敵に姿をみせない部分と、見せて戦う部分のことがいずれの述べられている。

そう考えなおすと、やはり孫子は深い、という感を持つことになる。「奇」とは敵に姿をみせず、そして自軍に有利な状況を作り出すこと。ゲームのルールを変えることでもある。

iPhoneが最初に発表された時、多くの人が「日本ではうれない」と断言し、その理由をいくつも並べ立てた。

しかし私のような凡人には今にしてわかることだが、Appleはあの製品で、ゲームのルールを変えたのだ。携帯電話という市場で何の実績も販売網も持っていなかった会社が、「奇」により、ゲームのルールを変え、パラダイムをシフトさせた。

そしてそれを支えたのが、冷徹な計算に基づく、兵站であり、技術だったことも見逃すわけにはいかない。

などということを、帰りの電車の中、Gorotteをいじりながら考えていました、とさ。


Gorotteでみつけた不明な情報

2012-04-23 07:04

というわけで、iPhone上のGorotteであれこれやっている。

先日こんな文章に出会った。

肥満を宗教にできないか。
なぜやせないのか。こんなに努力しているのに。肥満は人が生まれながらにしてもった原罪です。
でも相撲取りが肥満してくれたので、我々は許されたのです。
このロジックの欠点は、肥満が計測できてしまう事だな。「あなたの罪は許された」と違って。

面白い。そう思って、Evernoteにマークした。

翌日「出所を調べよう」と元となったノートにアクセスしてみた。しかしURL情報がない。まさかこれを考えたのは自分?そんなはずはない。「相撲取り」のところが巧すぎる。

そう思ってGoogle先生に伺いを立てる。有り得なさそうなキーワードのコンビネーションでいけばいいだろう。

「肥満 原罪 相撲取り」

ところがでてくるのは

「肥満 現在 相撲取り」

で検索した結果ばかり。「もしかして」どころか「キーワードを変更しました」という表示もなしである。そりゃ、「現在」で検索する人のほうが多いだろうけどさ。

そこで原罪に引用符をつけてみる。すると意図どおりの検索ができた。

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今まで何度か「Google依存を下げるためにBingに」とトライしてみた。しかし数日後には必ずGoogleに戻る。やはり検索品質に差があるのだ。

しかしこうした「強制言い換え」はGoogleを使うがゆえの欠点かもしれない。我々は知らない間にGoogle先生の設定したフレームにはめられているのかもしれない。

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というわけだが冒頭に掲げた文章の出典は不明のままである。


モノ作り企業としてのApple

2012-04-20 07:09

2007年のことだが、某自動車部品メーカーの中で展示会をやった。そこでiPhone(当時は紙のモデルしかなかった)とSony のCLIE(最後期のもので、なんでもついているすごいやつ)を並べて

「なぜこんなに差がついたのでしょう」

と問いかけた。

一番大きかった答えは

「Appleのブランド力と、マーケティングの巧みさ。物は大したことないさ」

というものだった。ネット上の情報を見ていると今でも時々こうした意見を目にする。しかし今は断言できる。日本の製造業を壊滅させたのは、そういう人達です。

工場を持たないファブレスメーカーという印象が強いアップルだが、その設備投資額は実はソニーの2049億円をはるかに上回る。2011年は3320億円を注ぎ込んだ。2012年はさらに増額して、5893億円もの設備投資を行う計画だ。

 巨額の資金を活用し、同社は何千台という単位の大量の切削加工機やレーザー加工機を導入。これらを製造委託先の加工工場に貸し出すことで、1枚のアルミ板を削り出して形を作る「ユニボディー」構造など、これまでの常識では考えられなかったデザインを生み出した。実はアップルは新しいデザインを実現するために相当のリスクを負っているのだ。

 モノ作りの常識から考えると、製造委託先の工場や自社工場が持つ既存の生産設備に合わせた加工ができるようにデザインを行うのが当たり前だ。しかしアップルのアプローチは逆。実現したいデザインに合わせて、加工設備をゼロから工場に導入させるのだ。

 その代わりに生産設備のみならず検査機器までをアップルが用意する。これらをどのように使いこなせばアップルが求める品質のデザインが出来上がるか、というレシピも添えて設備をサプライヤーに貸与する。こうして安定して高い品質のモノ作りを行う態勢を整えている。あるサプライヤーの幹部によれば「アップルのモノ作りに対する知識は、生産の現場で働く工場の技術者よりも豊富だ」と言う。

via: 数字が語るアップル「デザイン経営」のすごみ 設備投資に5900億円 :日本経済新聞

ブランド力、ソフトウェア開発能力が足元にも及ばないのはわかっていたが、ハードの「モノ作り」においてもこれほどまでの差が開いているとはしらなかった。

遠い昔学生だったころ(当時日本は世界で一番の製品を作ると思われていた)

「日本の製造業が優秀なのは、現場で働く人達のおかげだ」

と思った。しかし今や問題はそこにはなくなっている。「デザインとブランドだけやってんじゃないの」と思いがちなAppleの設備投資額がSonyのそれを上回るのだ。これが現場の人達が努力して埋められる差ではない。

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付帯的なことだがもうひとつ面白いと思った情報

広告費 774億3900万円

 ソニーの広告費はアップルの約5倍の3964億2500万円だ

via: 数字が語るアップル「デザイン経営」のすごみ 設備投資に5900億円 :日本経済新聞

ソニーのほうが広告費が多いのは、確かに製品の種類が多いことにもよるだろう。しかしAppleが身を持って示したのは

「圧倒的な製品を作れば、メディア、ユーザが勝手に広告してくれる」

ことではなかろうか。

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さて、話はまたSteve Jobsに戻る。AppleはJobsのワンマンだとか、JobsがいなくなればAppleはだめになる、とかまあそういう意見も多い。

しかし

この「製造に関する革新」もJobsが行ったと思う人がいるだろうか?この20年でAppleは全く違う企業に生まれ変わった。

この「革新」は決して一人の力で推進できるものではない。Jobsが自分で言ったとおり

「とても有能な人たちが協力してすばらしい仕事をした」

結果なのだ。そう考えれば、Jobsの「優秀な人間を集め、力を振るわせる」能力には感嘆せざるをえない。

私はアイザクソンが書いた本(「スティーブ・ジョブズ I・II/ウォルター・アイザクソン著)は嫌いだ。あの本は、スティーブの人物像の"ひどい捉え方"をしたものだと思っている。スティーブはスターだから成功したかのように書いている部分があるが、そうではない。彼と働いたことがある人は、また彼と働きたいかと聞かれたら手を挙げるだろう。彼が成功したのは、製品を思い通りの形で実現する信念の強さのおかげだ。スティーブが怒るのは、その製品が彼の望む品質になっていないときくらいだよ。

 スターでなくても、独裁者でなくても、人を怖がらせることをしなくても、ものごとを思い通りにするために力強く進める力があれば、ものごとはうまくいくと思う。

via: 「ジョブズ・ウェイ」著者に聞く:「何よりも大事なことは情熱」――ジョブズ氏の師が語る"スティーブの素顔" (4/6) - ITmedia +D PC USER

彼の情熱は常に「最高の製品、最高のサービス」を実現することに向かっていた。エゴの実現や他人の攻撃は副次的なものだった。

そう考えれば、Appleの躍進と、Sonyの凋落はこの写真が撮られた時に既に明らかだったのかもしれない。(当時からそれは言われていたが、今日ほど明確にはなっていなかった。当時はまだ「ウォークマンがiPodを逆転する」と言う余地があったのだ)

image:

via: 拡大画像 007 | | マイナビニュース

Lumina900に関するいくつかの情報

2012-04-19 07:33

というわけでGoogle先生に「Lumina900しかも日本語でかかれた情報」と入力すると一ページ目の一番下にでてくる当ブログでございます。やったね。SEO大成功だ!

日本語ではこんな記事があった。

Nokia Lumia 900とiPhone、どちらが優れているか――。そんな記事がBusiness Insiderに掲載されている。ディスプレイの品質やデザイン、カメラの性能、動画や音楽のダウンロード環境、アプリ、バッテリーの持ち時間など11の項目をスライドショーっぽい対戦形式で紹介している。果たして勝者は?

via: 海外モバイルニュースピックアップ:Lumia 900とiPhone、どっちがスゴい? - ITmedia プロフェッショナル モバイル

結果は、、まあリンク先を見て下さい。おどろくべきことは、BOM(部品のコスト?)の推定値。Lumina900は$209なのだそうな。

The Lumia 900 carries a bill of materials (BOM) of $209, according to a preliminary IHS iSuppli Teardown Analysis.

via: Nokia 900 Carries Bill of Materials of $209 - IHS iSuppli's® Teardown portal provides deeper insights into bill of materials, BOM cost, photo analysis and graphical representation of electronics. To learn more, call us at 1-310-524-4007. at iSuppli

これは、OSとハードウェアの設計を統合することにより、例えばCPUをシングルコアに刷ることなどにより低く抑えられているとのこと。Lumina900と似たようなスペックのSamsung's S II Skyrocketは$236なのだそうな。

しかし

iPhone 4SのBOMはそれよりさらに低いのであった。

The baseline iPhone 4S model with 16 gigabytes (GB) of NAND flash memory carries a bill of materials (BOM) of $188.

via: iPhone 4S Carries BOM of $188, IHS iSuppli Teardown Analysis Reveals - IHS iSuppli's® Teardown portal provides deeper insights into bill of materials, BOM cost, photo analysis and graphical representation of electronics. To learn more, call us at 1-310-524-4007. at iSuppli

私がNokiaもしくはMicrosoftの担当社員であれば、血涙を絞るところである。というかそもそもWindows PhoneはiPhoneとまともに戦おうとはしていないのだと思うが。

こちらの記事を読むと、私が引用した別の記事にあったDeath by a thousand cutsが具体的に示されている。この記事に挙げられている欠点を見ると、逆にAppleがいかに細かいところまで気を使って「素晴らしいコンセプト」を「素晴らしい製品」にまで昇華させているかがわかる。

iLife,iWorkがAppleが直接作っている製品であることに注目した記事は少ない。しかしそれらはWindowsに対して明らかに劣勢なAppleにとって必要不可欠なものだったのだ。普通のことなら、こちらのプラットフォームのほうが楽しくできますよ、ということを身を持って示したのだ。

不幸にしてWindows Phoneはそうした「素晴らしいMicrosoft純正アプリ」を欠いている。そしてこんな情報も飛び交っている。

現在Windows Phoneのバージョンは7.5。ここまではカーネル(つまりはOSの中心部分)がWindows CEのものだったのそうな(誰かWindows CEって覚えてる?)

次のVer8ではそのカーネルが新しくなる。そしてソフトを作るのも容易になり、アプリも充実する、、とMicorsoftは主張している。

しかし例えば今Lumina900を買った人が、そのVer8にアップグレードできるかと言えば、よくわからない、というのが本当のところらしい。

Now, a trusted source close to Microsoft tells us that is absolutely not the case, that instead there will be no upgrade path from Mango to Apollo.

via: Sources: current Windows Phone devices will not get 'Apollo' upgrade | The Verge

いや、そもそもユーザはOSのアップグレードなんかに興味を持たないよという意見もあろう。姪たちはAndroid使ってるけど、そもそもIce cream Sandwitchが何かも知らないだろうし。

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というわけで、今のところLumina900の先行きはあまり明るくない。もちろんこんな記事もあるのだが。

Ten stores had run out of cyan entirely but had the black model available in limited quantities.

via: AT&T Stores Are Almost Completely Out of Lumia 900 Stock

日本で、Windows Phoneを使っている人を見かけたら多分その日はとても良い日になるのではないか、と思わざるをえない。それくらい見かけないのだ。

辻村氏 私どもの基本的な考え方は、「お客様が使いやすいカスタマイゼーションがいかにできるか」という部分にあります。今のスマートフォンの売れ行きを見ていても、日本市場に最適化された"全部入り"は強い。おサイフケータイや赤外線通信、ワンセグといった(日本市場のニーズの)部分は大多数のお客様に求められているのです。ですから、そういった日本市場向けの最適化がしっかりとできるのであれば、iOSやWindows Phoneを我々が拒否するところではない。そう考えています。

via: NTTドコモ、WindowsPhone投入を検討 「iPhoneはドコモ仕様に対応したら扱ってやる」 | ガジェット速報

逆に「古くからのAppleユーザ」にとっては現実とは思えないのが、電車の中でiPhone,iPadを使っている人の数だ。その昔Apple製品というのは

「ちょっと頭のおかしい人が、大枚払って購入し、みせびらかすもの」

だった。

しかし

信じられないことに、今や電車にのれば一両の中で何人もの人間がApple製品を手にしているのだ。若い人にとっては当然の光景かもしれないが、30年前を思い返し、現実を眺めると卒倒しそうになる。

「日本市場に最適化した製品」

がどうのこうのと言っている間に世の中はここまで変化した。今の状況を見るにMicrosoftとどこかのH/Wメーカーが「キャリアの意見を取り入れました!日本人ならワンセグ、オサイフケータイ、赤外線通信!」といったWindows Phoneを出し、それがDocomoから発売されるかもしれない。(我々の言うことを聞けば、拒まないよ、といっているのだから)

それが成功し、三国志が始まるのか、あるいはこのままiOSとAndroidの時代が続くのか。今の時点では後者の可能性が強くなっているように思える。


IKEAから新しいTVセットの提案

2012-04-18 06:57

少し前に「エコポイント」なるシステムがあった。それが付与される家電製品を買うと、変なおまけのようなものがもらえるしくみ。家庭内意思決定者が

「エコポイントがもらえるうちにTVを買う」

と声高らかに宣言する。その制度が終わった途端、TVはものすごい値崩れを起こした。リビングに鎮座しているTVと同じ物が今なら半額で買えるんだけどなあ。いや待て。

もう少し前にこれが発表されていたならなあ。

HDTV development and innovation has slowed over the last few years. Buyers are no longer shopping on specs as there is little visible difference between the high and low-end flatscreens. That's where Ikea, and perhaps Apple, can step in and offer more value alongside the pretty picture.

via: Watch Out, Best Buy, Ikea Will Soon Sell Their Own HDTV System And It's Awesome | TechCrunch

頭のおかしな評論家と家電メーカーの人を除き、誰も「画質がTVの命」などと思っていない。もはや素人には区別がつかないのだ。であれば家具メーカーであるIKEAがTVセットを販売するのは全く理にかなってる。TVは家具でもあるのだ。そしてパネル自体で差別化ができなくなっているのなら「家具として差別化」することは正しい方向性だと思う。

当家がリビングに設置するTVを買うのは何年後になるかわからないが、その時には今の家電メーカーではない企業が様々な提案をしてくれていることを期待しよう。


テレビとはそもそも何なのか

2012-04-17 07:09

テレビとはそもそも何なのか。その昔は「TV放送を受信し、表示する」ための装置だった。

しかし今や誰もテレビを見ない。欧米の映画では「TVがつけっぱなしになっている家庭」とは下流家庭の記号として扱われているように思える。我が家ではだらだらTVを見ているのは一名だけだ。そのことについて私は心底情けないと思っているが、これは個人的な話。

では今の「テレビ」とはそもそも何であるべきなのか。丁度4年前私はこう書いた。

お題は「新しいTVを考えましょう」というものだったと思う(うろ覚え)私の提案は、「TVは鏡であるべきだ」だった。


TVははPCでもなければ携帯でもない。PCや携帯にできることをしても勝ち目はないのだ。


ではTVの特徴は何か?



ここから「TVは鏡である」と考えた。今のTVにカメラを取り付け、ひたすらリビングルームの人の姿を撮影し続ける。それをそのまま画面に映し出せば本物の鏡だが、そこはそれ。こんなシナリオを考えてみよう。

via: ごんざれふ

既に「テレビ放送を受信するための機械」としての使命は終わっているのだ。ではなぜリビングルームに巨大なディスプレイとして鎮座しているのか。それを考えなくてはならない。

なぜこんなことを言い出したかというと、この記事を読んだから。

ミセク氏によると、アップルのテレビは「ディスプレイ、ゲームセンター、メディアハブ、コンピューター、ホームオートメーション機器」など、通常のテレビの枠に収まらない機能を持つものになりそうだという。

via: アップル製テレビの名前は「iPanel」:アナリストが予想 « WIRED.jp 世界最強の「テクノ」ジャーナリズム

「なりそう」ではなく、Appleがだすものであれば、既にApple TVをリリースしているAppleがだすものであれば、「通常のテレビの枠からはみ出したもの」でなくてはならないのだ。少なくともApple狂信者の私はそう考える。

いくら努力しても、レンタルDVDより遅くリリースされる作品を、より高い金でみせたところで商業的な成功には結びつかない。世界中で何度もそのことは確認されているし、Apple自身もわかっているはずだ。

ではどうするか。今や完全にコモディティと化したTVをAppleがリリースする意味はどこにあるのか。そうした問に対するAppleの回答を見ることが、、あるかな?ないかな?

Reinvent

されたTVとはなんなのだろう。


部品メーカーとしてのソニパスへの期待

2012-04-16 07:26

先日平井君が行ったソニーの説明会についてこのような意見がでている。

そう。ソニーの存在意義は「生活を製品によって、娯楽に「自分だけのやりこみ要素」という楽しさを提供してきたこと」です。だから、平井社長は「ソニーという会社がこれから、あなた方の生活をどう変えるか」ということを説明すべきだった。事業を黒字にする・どんな人を登用する・今ある資源(製品)をどう売るか・・・それらは消費者にはどうでもいい。投資家にも同じ。その「根拠」・・・「人々がソニーを通じてどう変わって行くか」が知りたかったのに、その説明が何一つ無い。

via: なぜソニーは敗北したのか?~「ニコ動が赤字でもイベントをする理由」こそ再建の鍵~ - とある青二才の斜方前進

この指摘には同感だ。そしておそらくは出井君が「成果主義。米国流(笑)企業統治」とかやりだしたところで、ソニーはこのことを忘れてしまったのだと思う。

私は上記のブログを書いている人より多分年をとっているので、同じことを感じながらも平井君の説明から別の可能性を感じ取った。

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もはやソニーは過去の「盛田、大賀のソニー」から決別すべきだと思う。彼らにはもう「人々の生活を変える提案」は作り出せないのだ。それは近年連発している

「すごいハードを作りました!皆さん使い方を考えてください!」

から明らかだ。(PS3,PSP Vita, Sony Tablet皆同じ)

だからそれはもう忘れよう。じゃあ何になるか。それはAppleやサムソンに使ってもらえる素晴らしい部品メーカーとしてのソニーだ。

平井君が説明の間何度も繰り返し言っていたことは

「プランをたて実行する。その結果を常にモニターし、間違っていれば断固として修正する。このあたりまえのことを当たり前に行う」

ということ。逆に言えば、今のソニーという会社はこの「当たり前」を当たり前に行うことができない組織なのだと思う。

少なくとも平井君の言葉からは断固として「当たり前のことを当たり前に行う」という決意が伝わってきた。

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オリンパスの「提携先」としてソニーの名前が見え隠れしていることに象徴的だが、ソニーは部品メーカとしてイメージングの分野で競争力を持ちうると思う。しかしその「ソニパス」(ソニーとオリンパスくっつけてみました)が発足したところで「当たり前のこと」が当たり前に行えない組織ではエルピーダの二の舞だ。

平井君の「改革」が実を結べば、すくなくとも

ソニパス・イメージング・コーポレーション

には期待が持てる。私はiPhone4Sのカメラ機能にすこぶる満足している是非この調子ですばらしいイメージング部品を作っていってもらいたい。期待してます。


かつてSteve Jobsがあこがれた日本企業があった

2012-04-13 07:46

かつてSteve Jobsがあこがれた日本企業があった

そしておそらく5年後(遅くとも10年後)には

「ソニー・オリンパス・イメージカンパニー」と「ソニー銀行」「ソニー生命」「ソニーピクチャーズ」だけが存続していることだろう。

デジタルイメージング、ゲーム、モバイルの3領域をコア事業に位置付け、エレクトロニクス事業の目標に掲げた「14年度に売上高6兆円・営業利益率5%(3000億円)」のうち、3分野によるコア事業で売上高の約70%・営業利益の約85%の創出を目指す。

via: 「ソニー復活を象徴するような製品を」──エレクトロニクス再建への道のりは - ITmedia ニュース

こう書くしかないことはわかるが「ゲーム、モバイル」をコア事業としているところは冗談としか思えない。

ゲーム事業で「すごいハードを作りました。皆さんソフトを作ってください」のPSP Vitaはとうとう一週間の国内売り上げが10,000台を割り込んだ。(ちなみに3DS は72,115台) そしてXperiaに競争力があると思っている人間はソニーの人間以外誰もいないだろう。

そもそも

またCNETでは、2011年10-12月期には、アップルとサムスンの2社がスマートフォン端末市場の利益の約95%を占めた--そのうちアップルが80%、サムスンが15%とした上で、2012年1-3月期にはこうした警告がさらに強まるとするウォークリー氏の見通しを紹介している。

via: アップルとサムスンで利益の95% - 寡頭化が進むスマートフォン市場 - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

スマートフォンを作って販売するのは結構だが、利益は「Appleとサムソンの残り5%を数社が奪い合う」状況だ。

その中で唯一光を放っているのが「部品」としてのカメラ事業。最近デジカメを買い替えようとあれこれ情報を調べている。そこで得た結論は

「たいていの撮影はスマホで十分。別にカメラを持ちたい人は一眼」

だ。つまり製品としてのデジカメに大幅な伸びは期待できないが、部品としてはまだまだのびる。iPhone 4Sのカメラはソニー製ということになっている。部品メーカーとしてのソニーにはまだまだ存在価値があるということだ。

いや、未来について語るときは慎重にしなければならない。Appleは今のソニーよりひどい状況から復活したのだ。同じようなことが起きないと誰がいえよう。

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今から20年前、日本の家電メーカーはその成功故にビジネスのケーススタディで取り上げられた。そして今後は凋落故に取り上げられることになるのだろう。

かつてはソニーの凋落だけが大きく取り上げられたが、日本の家電メーカーが横一列で凋落するとなると、問題は別のところにあるのかもしれない。盛田が、大賀が、という問題ではないのだ。

その分析は経営学の人たちに任せるとして、私はどうしたもんかね。


日の丸家電メーカーの運命

2012-04-12 06:53

この話題については何度も書いているが、不幸なことにネタがつきることはない。

今年のSuperbowlでこんなCMが流された

まあなんというか。。。SuperbowlのCMに関しては、日本企業も韓国企業にそう劣っていない。両方ともゴミである。

しかしこの製品はなかなか売れているようだ。少し前サムソンは「考えられるものを何でも製品化して出してくる」と揶揄されていたが、「下手な鉄砲」も数うてば本当にあたるらしい。

この間、GALAXY Noteは欧州、韓国、東南アジア、米国で発売され、3月末時点の累計販売数は500万台に達するという。そしてこの4月6日には、日本国内でも販売が始まった。

via: 開発陣に聞く「GALAXY Note」:紙ではなく"手帳"を再発明――「GALAXY Note」が開く新しい1ページ(前編) (1/2) - ITmedia +D モバイル

最初「スタイラスかよ」と思った物だが、なかなかどうしてその効果も見逃せないようだ。引用記事では、このペンに日本のワコムの技術が使われていると書いてある。今の日本企業にできるのは

「よい部品を作る、とほめてもらうこと」

くらいなのだろうか。

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その「よい部品をつくる企業」として生きていくしかない運命を端的に表しているのがシャープである。

(1)原因の1つは、日本のエレクトロニクス産業が、世界市場における最終消費者とのコミュニケーションができないばかりか、完成品メーカーとの条件交渉とか仕様決定などの複雑でスピーディなコミュニケーションもできなかったということだと思います。そうだとすれば、要するに非常にカチッとした仕様と、数量、条件だけのコミュニケーションで済む孫請けになるというのは宿命だったということになります。

via: 鴻海精密によるシャープ買収をどう考えるのか? | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

いわれたことをまじめに一生懸命やるのは、我が国のお家芸でもある。書いていて悲しくなってくるが、事実だから仕方がない。

(5)そもそも「ガラパゴス」などという自嘲的なネーミングで、未成熟な日本国内のタブレット市場に「ハード」で参入したあたりで、株主も社会も「タオルを投げる」べきでした。あれは、要するに「国際的な市場は分かりません」という宣言だったからです。

via: 鴻海精密によるシャープ買収をどう考えるのか? | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

今から考えれば「ガラパゴス」は「新しい市場を創造する」試みであったといえるかもしれない。しかししれはKindle Fireに比べれば

「スピード、規模、構想」

において比較にならないほど劣っていた。

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なーどと書いていてもなんともならない。今読んでいるのは福沢諭吉の「学問のすすめ」書かれたのは明治初期。まだ年数が一桁だった時代だ。

その中にこんな記述がでてくる。

「日本は本当に独立を保つことができるか怪しい物だ」

当時日本の「商人」は「外国人」にやられっぱなしだった。今もそうかもしれないが、当時の日本に比べれば、今のほうがマシに違いない。現状を悲しんでいる暇があれば、何かをなさなくては。


AndroidはOSであってプラットフォームではない(しつこい)

2012-04-11 07:09

と、こう主張するのが何度目か自分でも忘れたが、先日この意見を裏付けるような情報にでくわした。

この調査レポートは、1月半ばから2月の終わりまでの45日間のデータを元にしたもので、それによるとアップル「iTunes (App) Store」が100%に対し、アマゾン「Appstore」が89%、そしてグーグル「Google Play」(旧Android Market)が23%になったという。

アマゾンのAppstoreとグーグルのGoogle Playは、同じAndroidアプリを販売しているが、それでも売上に大きな差が生じている理由について、フルーリーでは両社の小売分野における力の差と分析。またユーザーにとっては同じアプリでも信頼のおけるAmazonのほうが購入しやすく、アプリ内課金も容易としている。

via: ユーザー1人あたりのアプリ売上、アマゾンがグーグルの3倍以上に(米調査) - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

つまりGoogle Play(Google様純正のApp Store)は機能していないということだ。そこでは誰もアプリを買ったりない。もし「プラットフォーム」を作りたいと考えるのであれば、自前で行わなくてはならない。その基盤OSとしてAndroidを使うのは悪くない選択肢だと考えられる。

Androidをプラットフォームとして考えると、うんざりするような断片化とつきあわなくてはならない。(というかまじめな話Androidアプリをリリースする人ってテストどうやってるんだろうね)そのうえ上がる収益は少ない。であれば誰がAndroidアプリを作るというのだろう。学校の演習で作るとか、あるいは実験用にお手軽に作るのにはとても向いていると思うけどね。

さらにはこんな記事も見つけた。

Google's Android device makers aren't happy. They're tired of making commodity devices that are merely vehicles for Google's Android OS, each indistinguishable from the other because of Google's rules about how Android can be implemented on them in order for them to qualify as "compatible."

via: Android Device Makers Are Mutinying, Says Insider - Technology Review

Androidは「Open sourceのようなもの」であり、自由に改変することができる。実際Kindle FireはAndroid2.3の改変版の上で動いて大成功している。その成功をみたとき、メーカー各社は考えるわけだ。Android Compatibleというラベルを貼りたいがためにGoogleの制約を受け入れるか、それとも独自の道を歩むか。

日本だとあれですかねえ。楽天ですかねえ。「楽天タブレット:この端末から購入するとポイント2倍!」とか華々しくうちあげてくれないかなあ。


自らを否定することができる経営者

2012-04-10 06:53

世の中には100円ショップという素晴らしいものがある、と知ったのは最近のことである。それからなんでも

「これは100円ショップに行けば安く手に入るに違いない」

と思うようになった。

先日その中の一つ、ダイソー社長のインタビューを読んだ。

でも、私の「進化」は「常識の範囲内の進化」に過ぎなかったんです。進化というのは、大きく自分を否定して、「このままじゃ生きられない」と心底感じて、完全に変わっていくことを指すんですね。

 キリンの首が進化の過程で長くなったのも、そうですよね。そうしなければ生き延びられなかったからでしょう?。大創産業の社員たちに、「このままではつぶれるかも分からん」という危機的な状態から自己否定、過去否定をしてもらい、変革を起こしてもらった。

 つまりは、急成長してきたセリアや、キャンドゥのおかげでまた「つぶれるかもしれない」と思えた。その危機感があったから持ち直すことが出来た。本当にありがたいことです。もうやめようかと思ったけれど、生きててよかった。大創産業という船が、ずるずると沈みかけたところでした。世の中の例でいくと、そのまま沈むのが常ですから。

via: 矢野博丈社長が語る「選ぶ面倒臭さが、波のように押し寄せてきた」:日経ビジネスDigital

以前にも書いたことがあるが、社長インタビューというのはほとんどの場合「俺はこうして成功した」の自慢話で全く面白くない。しかしダイソーの社長はどうも違うようだ。この社長ほど自分の限界を率直に語り、そしてそれを認めた上で語る人は珍しい。

これは塩野七生の「ローマ人の物語」からの受け売りだが、リーダーとは、「部下」たちに「私たちががんばらなければ」と思わせることができなくてはならない。そのやり方は様々だ。

最近子供のためにかった「漫画日本の歴史」を読み返している。それを読めば、暴君であった織田信長の家臣にいかに有能な人間が集まっていたかを知ることができる。あるいは同じく「暴君」であるSteve Jobsのもとに集まった人間もとびきり優秀である。

I asked him again about his tendency to be rough on people. "Look at the results," he replied. "These are all smart people I work with, and any of them could get a top job at another place if they were truly feeling brutalized. But they don't."

via: The Real Leadership Lessons of Steve Jobs - Harvard Business Review

Steve Jobsが語った通り、彼らの誰もがどこにいってもトップの地位を極めることができる人たちだ。しかし彼らは「暴君」Jobsのもとで働くことを選んだ。そしてJobsが去った今でもAppleの株価は上昇を続けている。

経営者にはいくつもの才能が必要だろうが、「自分より優秀な人間を雇い、かつ働き続けてもらう才能」というのはそのうちの重要なものの一つではなかろうか。

ダイソーの社長は、Steve Jobsとは全く違った形でその才能を発揮する人なのだと思う。この人のインタビューを読んでいると、

「じゃあちょっとダイソーに応募してみるか」

と考えたくなる。しかしどう考えても雇ってくれるとは思えないので、今は社長のこの言葉を胸に、日々の業務に邁進しよう。

日本人は人間、健康で文化的な生活できる権利があると当たり前のように思っているけれど、それは思い込みで、頑張った者に与えられるご褒美に過ぎません。以前から良く言いますが、そうした思い込みにとらわれるのは、恵まれる不幸せとでも言うのでしょうか。私の場合は、若い頃に恵まれなかったからこそ、今日があるのだろうと思っています。

via: 矢野博丈社長が語る「選ぶ面倒臭さが、波のように押し寄せてきた」:日経ビジネスDigital

ここだけ抜き出すと紋切り型の説教にしか聞こえない。しかし全文を通してみると「なるほど」と思わせるのはこの社長の力だと思う。


Google眼鏡にみるありがちな「駄目なコンセプトビデオ」

2012-04-09 07:09

Googleが長らく噂されていたヘッドマウントディスプレイについて情報を公開した。

そのニュースはちらちら目にしていたのだが、記事を読んでみようとは思わなかった。HUD(ヘッドマウントディスプレイ)についてはもう何年も「そのうちはやる」という言葉ばかり聞かされてきたからだ。でもって記事のヘッドラインからは

「とうとう商用化されうるものがでてきた」

ことが伺えなかったからだ。しかしこんな記事の見出しをみては読まずにはいられない。

彼は、実に正しく、こう指摘した。存在しない技術に関する派手なビデオを作るのは、最悪の会社だけだ。

via: Googleメガネを批判する人々

というわけでビデオを見てみた。

確かにこの批判は正しい。このビデオの中には「存在しない技術」がいくつもある。もちろんGoogleには賢い人がたくさんいるので、本当にこうした技術を実現してくれるかもしれない。ここではそれを具体的にあげておく。

・手を使わないで「クリック」する技術:これは何年もいろいろな人が取り組んでいるが、未だに解決方法が見つかっていない問題である。瞬きやら音声やらいろいろあるけどね。
しかしこのビデオではその「問題」をあっさり無視している。ユーザが欲しいとき(というかビデオの都合の良いとき)に「誰かが」システムをクリックして、ユーザの入力を確定し、ユーザに情報を提示してくれるのだ。

・ユーザが欲しいものを「ピンポイント」で指定する技術:このビデオの世界では、システムはユーザが求めるものを、ピンポイントで提示してくる。しかしこれにはいくつもの関門がある。システムがユーザの意図を推定する際の誤差。また仮にそれが推定できたとしても、それに適合する情報がない場合のエラー。例えば、Googleに検索キーワードを入力したとしても、一件目に必ず一番欲しい情報がくることはあり得ない。

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このように「重要な技術だとわかっているが、誰もが実現できずに苦労している技術」をあたかも「解決済み」としてコンセプトビデオを作るのはまあよくあることだ。

しかしそうした「コンセプトビデオ」が何も生み出さない、というのは過去数十年にわたり我々が何度も経験してきたことだ。ここ数年もう一つ明らかになった「失敗パターン」が存在する。それは

「難しい問題をネットに向かって丸投げする」

ことだ。これはソニー(というか日本の電機メーカー)がよくやることだが

「すごいハードを作りました!皆さん使い方を考えてください!」

というやつだ。PS3,PSP Vita, Sony Tablet(誰か覚えている?)みんな同じ道を辿っている。しかし不幸にして天才Googleはそれを学んでいないようだ。

We're sharing this information now because we want to start a conversation and learn from your valuable input.

via: Project Glass - Google+

「情報をこのように公開するのは、皆さんと会話し、貴重なインプットを得たいと思っているからだ」

残念ながらこの「誰か考えて下さい」はうまくいった試しがない。そして売れる製品を作ろうと思えば、その「問題に対する答え」は自分で作り上げ、そして製品として提示していかなければならない。

Well, if you're listening (watching?), Google Glass Team, I'll tell you what I want. I want you to take this Steve Jobs quote to heart:

People don't know what they want until you show it to them.

via: Google has finally "unveiled" Project Glass. I say... - Not Stolen. Permanently Borrowed.

こうした「情報の公開」は私が最近抱き始めた「Googleに対する漠然とした不安」を増大させるのだが。。


Windows Phoneの命運をかけた製品が発売されるぞ!(ただし米国で)

2012-04-06 08:05

というわけで、全く話題にもなっていないWIndows Phoneである。米国からこんなニュースが飛び込んできた。

米国で4月8日に発売されるNokiaのWindows Phone、Lumia 900。AT&Tが発表したその価格はなんと100ドル(約8200円)! 安い安い、これは安い! もちろん2年契約のしばりはありますが、それでもLTEスマートフォンが100ドルとは、驚愕の安さ。一体何があったのでしょうか。NokiaはかつてLumia 800を800ドル(約6万6000円)で発表したことがありましたが、今回のこの値段は破格

via: 米国Nokiaの新Windows Phoneがなんとたったの8000円! : ギズモード・ジャパン

口の悪い人にとっては

「MobileにおけるMicrosoftとNokiaの最後のチャンス」

なのだそうな。発売は4/8からだが、それに先立っていくつかのレビューが上がっている。例えばこんなのとか。

The problems with Windows Phone are myriad, many small. But it's a death by a thousand cuts. And all those little problems were once again immediately apparent to me the moment I started using the Lumia 900.

via: Lumia 900 review | The Verge
Windows Phoneの欠点はどれも小さなものだ。しかしそれは「何千もの切り傷による死」のようなもの。Lumina900を使い始めるとすぐに小さな欠点が目につくようになる。

あるいはこんなレビューも。

Bottom line: If you're looking for a $100, high-end smartphone, or are a Windows Phone fan who has been waiting for better hardware, the Lumia 900 is worth considering. But the phone had just too many drawbacks in my tests to best its chief competitors.

via: Personal Technology: Nokia Lumia 900 Review - Walt Mossberg - Personal Technology - AllThingsD
結論:もしあなたが$100でハイエンドのスマートフォンを買おうとしているか、あるいは「もっとましなハードはないのか」と思っていたWindows Phoneのファンだとしたら、Lumina900は検討に値する。しかし私が試験した限り、Lumina900にはあまりにもたくさの欠点がある。

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もちろんこれらのレビューとは別にLumina900が成功するチャンスはある。Kindle Fireも酷評を受けながら、その価格によって十分成功しているのだ。

しかしこれらのレビューは、あれほど見事にデザインされた(Metroのことだ)Windows Phoneがなぜいつまでたっても「成功する可能性のあるプラットフォーム」としてとどまっているかを説明してくれるように思える。

つまりMetroはすばらしいにしても、Windows Phoneには致命的ではないが小さな問題が無数に存在する。その結果としてiOSやAndroidに対する競争力がそがれているのだ。

この二人のレビューアーが挙げている欠点は小さなものだ。おまけに二人とも違う欠点を指摘している。ということは誰もが問題とする大きな欠点はない、ともいえる。しかし評価の結論は二人とも同じ。つまり

「iPhone,Samsungが出しているGalaxyシリーズと比べてLumina900には競争力はない」

考えてみれば、Microsoftは決して

「隅々までよく考えられた」

製品をリリースしたことはない。WindowsにしてもOfficeにしても無数の細かい欠点を挙げることができるだろう。しかしそれらは「標準」となっているため誰もそれ故競合製品を使うようなことはない。

しかし携帯電話とはそうしたオフィス用のソフトとは異なるゲームのようだ。

これらを考えたとき、Appleの「度を超した完璧主義」のことが頭に浮かぶ。Focusグループによる評価よりも

「この問題にユーザは気がつくに違いない」

という脅迫観念ともいえる考えにより、iOSは(もちろん欠点を指摘する人もいる)Windows Phone, Androidに対して優越したUser Experienceを提供するに至った。(もちろんすべての人がこの意見に同意するとは思わない)

"Death by a thousand cuts"

とは製品開発に関わる人が覚えておくべき言葉かもしれない。

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さてここで話はいきなり「そもそも比較の土俵にもあげてもらえない」我が国の製品のことに移る。

またCNETでは、2011年10-12月期には、アップルとサムスンの2社がスマートフォン端末市場の利益の約95%を占めた--そのうちアップルが80%、サムスンが15%とした上で、2012年1-3月期にはこうした警告がさらに強まるとするウォークリー氏の見通しを紹介している。

via: アップルとサムスンで利益の95% - 寡頭化が進むスマートフォン市場 - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

あまた存在するシャープ製やら富士通製やらソニー製のスマーフォトンは「その他大勢」でしかないのだ。少なくとも世界的な利益からみれば。

でもって「否定から始めよう!」のNOTTVがひどいことになっているらしい。

会社の部内でNOTTVのモニターに応募した人間が3名いたが、見れているのは1名だけ。2名の機器はアプリが立ち上がらず未だに見ることが出来ない。

via: 【終わりがおっぱじまった】あまりにもひどいNOTTVの惨状まとめ - NAVER まとめ

NOTTV is not TV. モニターで借りたSH-06D。シャープもドコモも、こげなもんを有料で世に出すのに社内の反対は無かったのか? 家の中では全く映らないので、町内散歩に持ち出して試験した。ほとんど映らず、電池残量は12分で35%➡5%に。

via: 【終わりがおっぱじまった】あまりにもひどいNOTTVの惨状まとめ - NAVER まとめ

これでもまだ「日本の強みは"ものづくり"」とか主張する人がいるのは、とても不思議に思える。ああ、「ものづくり」って機械工作限定ですか。

もちろん

お客様の声をしっかり受け止め、その期待を上回る会社に変わります。

via: 報道発表資料 : 新しいドコモブランドについて | お知らせ | NTTドコモ

という高い目標を掲げているDocomoグループだから、お客様の声に対してちゃんとアナウンスを出している。

AQUOS PHONE SH-06DでNOTTVアプリを起動しようとした際に、まれに正常に起動ができない場合がありますが、端末ソフトウェアを最新バージョンにアップデートすることで解消されますので、詳しくは「ドコモのホームページ」をご確認ください。

via: お知らせ|日本初スマホ向け放送局 NOTTV

「起動できないこと」は稀な事象であり、アップデートすれば万事解決なのだそうな。

NOTTVの中の人たちがどれほど努力し、そして今苦労しているか想像できるだけにこういうことを書くのはつらいが、しかし一消費者としてみたとき

「月420円」

というサービス料金は冗談としか思えない。などと伝聞でけなしているのもなんなので、さっそくモニターに申し込もうとしたが、携帯の電話番号がないとだめなのだそうな。

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これに比べれば、Microsoft+NokiaのLumina900は「まし」に思える。ということは、Microsoft+Nokiaが必ずしも「だめ」ということではないのだろう。Apple,Samsungが異常、ということもできないだろうか(そう定義したところでNokiaにとって何の慰めにもならないのだが)


才能とは(続き)

2012-04-04 07:33

といっても新しいことを書く訳じゃないよ。前回の補足。

「才能とは持続する意思のことである」

と書いた訳だが、それからいくつかにたような文言を見かけたのでまとめておく。

才能とは「繰り返し現れる思考、感情および行動パターンであり、何かを生み出す力をもつ資質」である。

さあ才能に目覚めよう p36



さすがに金をとるだけあって、こちらのほうが正確な定義である。持続する意思であっても「何も生み出さない」ものは才能とは呼ばんわな。

松浦:(質問が)もう一個、私、自分で作詞をまだ一度もしたことがなくって やっぱり、近い将来は自分で作詞というものを、やっていきたいなと。 今はつんく♂さんだったり、いろいろな方からいただいたものを 自分なりに消化をして、理解をし、納得をして歌っているんですけど なんかやっぱりこう、自分の思う気持ちっていうものを歌いたいなぁと思っているんですが。 松任谷:いやぁ、厳しいこと言うようだけど、妙にしない方がいいよ、作詞とか。 松浦:えぇ、そうなんですか? 松任谷:うん、その方がカッコいい。人が書いてきたものを、自分のものにしちゃって歌えるっていう方が素晴らしいと思う。 松浦:えー、そうですか? 松任谷:悪いけどなんか、あとで詞を書き出したんです、みたいな、で「アーティスト」みたいなふうに言われてる人のろくな詞ないもん。 松浦:(笑) 松任谷:だから、曲とか詞を書くっていうのは、もう生活、生理、いっしょだから、食事したり歩いたりすることと。 言われる前から書いてるのよ、人が止めようと、勧めようが、勧めまいが。自分の欲求として、もう幼い頃から作っちゃっている。 もちろん、ある日突然、書きたくなって、自分で書いたものを、自分の言葉を歌いたくなって ひらめいちゃって、ってことはあるかもしれないけど 書いて歌うようになりたいんです、って言っているようだったら、書かない方がいいと思う。

「近い将来」なんて言葉がつくものにろくな物はない。「近い将来」は永遠にやってこないのだ。

尤もこれには「現実からのフィードバックを受け止める」力がどうしても必要になる。自分にどれだけ「持続する意思」があろうと、フィードバックを受け止める力がなければ迷惑になるだけ。はっ、これは自分のことか。

「雇う」側からすれば「この人は才能を持った人なのか、才能を持っていると勘違いしている人なのか」を採用段階で見分けることが必要になる。

人の才能は永続的なものである。ということは、適切な人材を確保するには、かなりの時間と資金を費やしてでも最初の採用の段階で厳選しなければならないということだ。

さあ才能に目覚めよう p304

というわけで一番重要なのは採用ではないか、と思う今日この頃だ。採用をおざなりにし、教育に金をかける企業はとっても間違っている。

というかそういう企業が存在すること自体私にはとても不思議に思えるのだ。既婚者であれば、

「人間の質は変わりようがない」

ことは身を以て知っているはず。なのになぜ相手が「配偶者」ではなく「社員」だと教育で変えることができる、と錯覚するのだろう。などとあまり書いていると死にたくなるのでやめておこう。


暴君ならいいというわけじゃない

2012-04-03 07:32

というわけで、本日書くことは昨日の続き。情勢が混迷を極めるとき、

「みんなの意見」

で舵を取ることはとんでもない結果を招きかねない。こうしたときは人のいうことを聞かない暴君が必要とされる場合もある。

さて、先日某宴会でソニーの人と少し話した。御社はいかがですか?と聞くと相手は

「だめです。何もかも予算がきられて。CEOが変わる?中身をとっかえないとだめです」

といっていた。覚えている人は少ないだろうが、20年前、ソニーは世界が憧れる企業だったのだ。それがこの状態だ。

こうなると定期的にわいてくるのが久夛良木健待望論(最近は「久夛良木がCEOになっていれば」という仮想戦記的な内容だが)である。

やっぱハード&ソフトの設計はクタがいないとダメだな。

via: とりのまるやき PSVITAの設計はクタラギに任せるべきだったなorz

こういうのを床屋談義というのだろう。

今回も噂レベルの情報ながら、Cellアーキテクチャの廃止によって、その複雑な構造に苦戦した一部のデベロッパーには歓迎されるかもしれないとKotakuは指摘。同時に、今は一線を退いた久夛良木健氏のプロジェクトであり、PS3以外のソニー製デジタル家電などにも搭載されているCellをなくすのは、過ちを認めたかのように見なされる可能性があるとも言われています。

また、PS3の後継機でCellプロセッサが廃止された場合、後釜にはCPUとGPUを一体化したAMD Fusionが採用になる可能性も推測されています。

via: 噂: PS3の後継機ではCellプロセッサが廃止 - Game*Spark

結局Cellとはなんだったのか。最後の最後までその「スーパーコンピュータ並みのすごい演算性能」は見せてもらえないままだった。

これほどの「無能さ」をさらしても未だに「久夛良木がいれば」という人間がいるのには驚く。

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さて政治の世界に目を移してみよう。恥ずかしながら告白するが、私も自由党時代の小沢一郎には一時期待したことがあった。投票したい政党がないときは自由党に投票したこともあったのだ。

しかし

民主党が政権を取り、首相はルーピーだが実質的に小沢氏が政権の中枢にあったとき、彼が何をやったかは多くの人が覚えていると思う。議員をたくさんひきつれ中国に行った。収入を増やすめどもないのに、支出を莫大に増やした。すべての陳情は自分を通せと言い張った。その結果も多くの人はご存知だと思う。

それでも時々「小沢にやらせておけば」という声が聞こえるのは面白いところだ。おそらく彼が政権から離れれば離れるほどこうした床屋談義は増えるのだと思う。

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久夛良木も小沢も一種の暴君だと思う。暴君であることは必要条件かもしれないが十分条件とは何の関係もない。こうした集合の包含関係の間違いは人間がよくやることなのだが。
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よく知らないのだが、橋下という人が新たな「希望を集める暴君」として宣伝されているようだ。

彼がどんな人間か、その政策については知らないのでコメントしない。ただ一つだけいえることは

大阪維新の会が、次期衆院選の公約として策定を進めている「維新版・船中八策」の骨子が13日、判明した

via: 【激動!橋下維新】「船中八策」8つの柱、概要固まる(1/2ページ) - MSN産経west

「維新」だの、「船中八策」だの時代がかった言葉で自分を飾ろうとする人間にはろくなものがいたためしがない、ということだ。嘘だと思うなら過去に「昭和維新」を唱えた人がどんな人間だったか考えてみればいい。


今GoogleよりAmazonがおもしろい

2012-04-02 06:58

多少つり気味の題名だが、半分は本気である。

Amazonはネット上の書籍店舗からスタートした。しかし今やっていることをみれば



Amazonの活動を順に見ても、ジェフ・ベゾスが自分で述べているようにAmazonはサービスを5-7年かけてじっくりと粘り強くモノになっている印象があります。


via: Amazonが他のIT企業と違って5-7年先を見ることができる理由 - Future Insight

上二つはまあ「電子商取引の延長線上」と理解できるのだが、下二つがなかなかほかの会社の及ばないところだ。「楽天」と比べてみればそれは明白。

特にAWSは、Googleのサーバーサービスに比べて遥かに広く使われていると私には思える。仕事でもブログを読んでいてもAWSの話は半ば「当然」のように扱われているが、Googleのそれはいつまでたっても「プロトタイプ」のレベルが多いようだ。(自分も使っておいてこういうのもなんだが)

成功した今になってみれば「素晴らしい」ということだが、当然初めには批判が多かったのだと思う。

AmazonがAmazon Web Service(AWS)を開始した時のことを覚えている人は少ないかもしれません。Amazon.comのCEOであるジェフ・ベゾスがAWSの提供を開始したとき、このサービスに関して2006年11月のBusiness Weekでは、「ジェフの危険な賭け:ウォール街はジェフに小売業に専念してもらいたいと考えている」("CEO Jeff Bezos wants to run your business with his Web technology.Wall Street wishes he would just mind the store.")と辛辣な批判を受けています。

via: Amazonが他のIT企業と違って5-7年先を見ることができる理由 - Future Insight

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ジェフ ベゾスというのはなかなかユニークな人物らしい。ある人の言葉によれば

僕らはこれから、公衆の面前で、 Amazon で働きたけりゃ私に金を払えと言ってのける男について話すわけだからね。誰かが彼に反対したときは、彼は彼の名前入りの小さな黄色ポストイットを手渡して、誰が会社を動かしているかを常に忘れさせまいとする。思うに彼は全くの... Steve Jobs なのさ。ファッションデザインセンス抜きのね。 Bezos はとんでもなく頭が切れる。誤解しないで欲しい。彼の前じゃ、普通コントロールフリークなんてヤクが極まったヒッピーみたいなもんだよ。

via: Steve Yegge の Google とプラットフォームに関するぶっちゃけ話を訳した(前編)

こういう暴君のもとで働くのは楽しくないだろうが、端から見ていると大変面白い。結局のところ今必要とされているのは、こうした

「有能な暴君」

なのではなかろうかと考えるわけだ。Amazonについて調べてみることは、イノベーションをどのように金に結びつけるかの貴重な教訓を得る機会ではないかと思うのだが。

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とここまで書いたところで、いや、日本にも先見性のある暴君はいる、という人もいるだろう。クタラギとか政治の世界でいえば小沢とかだ。

というわけで次号は

「久夛良木=小沢一郎 無能な暴君の系譜」

ということでいつか書くのかもしれない。