題名:巡り巡って

五郎の入り口に戻る
日付:2025/10/14


心の性に関する機能的ネットワークの研究:埼玉県(2024/10/25)

Twitterをだらだらと見る。ふとある書き込みに目が止まる。研究に参加してくれる人募集とのこと。

内容をいい加減に読む。おそらくは生物学的な性と自認する性別が異なる人を対象にした調査なのではないか。となるとそもそも私は対象外か。こういう募集はとにかく当たらないものだが。

過去に治験に参加するサービスに登録していた。試験段階の薬を投与してもらいお金がもらえるという。これは素敵。と思ってかたっぱしから応募するのだが、ほとんどの場合最初に入力するアンケート画面で「ありがとうございました」とお断りを食う。私は生物学的には男だと思うし、その性別について疑問を抱いたことはない。なので、すぐお断りになるであろう、と軽い気持ちでリンクをクリックする。個人事業主になってから、毎日勤務しなくてもいいことに一年経過してようやく気がついた。であれば、いろいろ面白いことをやってみたい。面白いことの関門は狭いが、とりあえず打席に立たないことには何も始まらない。

というわけで表示されたアンケートに答える。私のような人はシスジェンダーというのだな、などと考えながらアンケートを記入する。そしてそのことをすっぱり忘れる。

ところがほどなくしてメールが返ってくる。とはいえきっと文面は「申込ありがとうございます。入力いただいた内容を慎重に検討いたしましたが、残念ながら今回は参加していただけないこととなりました」とかそんな文面だろう。内容を読んでみると、研究室への行き方まで事細かに書かれた案内のメールであった。をを、これはすごい。

今までMRIを用いた研究の話を何度も聞いた。そして

「MRIはうるさい。頭にバケツを被せられて、外からガンガン叩くような音がする」

と聞いていた。とうとう自分でその「バケツガンガン」を体験する機会が訪れたのではなかろうか。希望する日にちを連絡するとすぐ返答が来る。10/25 11時に早稲田大学所沢キャンパスに向かうらしい。

少し前のことになるが、大学がやたらと郊外に広大なキャンパスをつくることが流行った。早稲田は所沢にキャンパスをつくりスポーツ関連施設を作ったと聞いたが、他の学部もあるのだな。所沢と言えば、「飛んで埼玉」という映画で「一緒に行くか?所沢へ」というセリフに主人公が一歩引いていた場所。心躍るではないか。被験者として行くので大威張りでキャンパスにはいるし、ついでに生協でお昼ご飯でも食べよう。となれば、旅行記が書けるではないか。

などと無駄な期待ばかりが高まる。事前アンケートが2件あるので、さっさとすませてしまう。設問の中に何度か「自分の中にある自認とは違う性を感じたことはありますか」的な質問が出てくる。ぱっと問われると思いつかないがよくよく記憶を辿ると思春期にはそんなことも若干あったような気はするな、とか考えている間にぱっぱと答える。アンケートにも「あまり考えずに直感で」とか書いてあったし。さて、所沢キャンパスとはどうやって行くのか、そもそも何時間かかるのか、など調べながら当日を待つ。

前日にリマインダー的なメールが送られてくる。私は朝にコーヒーをがばがば飲む人なのだが、明日はカフェイン厳禁である。これは覚えておかなければ。直前アンケートも送られてくる。毎日飲んでいる薬を申告する。これ薬の名前だけ書けば相手はわかるものなのだろうか。そのあとに「ここ二週間の精神状態」について設問が並んでいる。「イライラすることはありますか」「自分の存在意義について疑問を持ち家族や周りの人にすまないと思うことはありますか」「消えてしまいたいと思いますか」と深刻な質問もならんでいる。私は時々鬱的な気分になるのだが、そういえばこの二週間はそれがないな。新しい仕事が決まりそうだからだろうか。こうやって自問しないと、精神状態がご機嫌なところで安定していることに気がつかない。自分の精神状態について考える時は不調の時。をを、何か自分がいいことに気がついたような気がするぞ。

などと言っている間に当日の朝を迎える。朝食を作る。この作業は寝ぼけて半自動的に進むので、時々へんなことをやる。卵を割ってボールにいれ、そのあとカラをゴミ入れにいれるのだが、卵を割ってゴミ入れにいれようとしたこともある。なぜこんなことを意識するかといえば、今日は朝いつも飲んでいる紅茶もコーヒーも飲めないからだ。口をつけ半分飲んだあたりで「しまった!」となるのはいやである。コーヒーの代わりに牛乳。牛乳にはきっとカフェインがはいっていないだろう。

などと無事朝食を終えると家を出る。奥様が見送ってくれる。「私がポーチの扉をちゃんと閉めたか」と見張ってから玄関の扉を閉める。乗り換えるといつもと違う電車に乗る。子供の学校に行くのによく使っていた路線だが今日はさらに先に行く。

埼玉には西武と東武鉄道が走っており、両方とも池袋を通っている。いまだに地理的にどういう関係になっているか知らないのだが、直通だわーいと思って間違った方に乗ってしまうと永遠に目的地に着けない。自分が乗った電車はネットで調べると東武らしい。今日は西武に乗らねばならんのだ。というわけで小竹向原という駅で降りる。さて、ここからどうしたものか。

西武線にホームで乗り換えられるのはいいのだが、どれに乗れば小手指につくのか。時刻表を眺めることしばらく、十分ほど待つ必要があることを知る。ホームの椅子に座り、のんびり文章など書く。まもなく到着した電車は、通勤とは反対方向に向かうので空いているのが素敵。

電車の行き先として表示されるため、名前だけは何度も聞いた小手指駅に初めて到着する。改札を出ると北口に向かう。階段をおり、さてバス停はとみれば、彼方にWASEDA UNIVERSITYと書いたバスがある。あれに違いない。「早稲田関係者のみ乗車可能、一般の人は乗車できません」と書いてあるが、今日は早稲田大学の研究で行くのだ。問題はあるまい。乗り込もうとしてふと気が付く。学生さんが列を作っている。はて、と思うがおそらく席に座りたいのだろう。私も大人しくその列に並ぶ。ほどなくして次のバスが来た。

真面目そうで地味な大学生が次々と乗ってくる。そのうちバスが出発。最初はよくある駅前の風景、次に典型的な郊外の広い道になったと思ったら田舎道になった。なるほど、これはバスを運行させるわけだ。ちょっと気分転換に大学まで歩いてみるとかそういう距離ではない。などと考えているうち進みが遅くなる。あれ、時間には余裕をもってきたはずだけどこれで間に合うだろうか、と不安になったところでバスが左折。そこが早稲田大学所沢キャンパスであった。

敷地に入ってもまだバスは進む。隣には大きな野球場も見える。野球というのはとにかく広大な面積を必要とするスポーツだなと感心しているうちに停車した。学生さんたちがぞろぞろおりる。「ありがとうございました」と運転手さんにお礼を言う人が何人もおり感心した。バスからでてあたりを見回す。さて、どうしよう。学生さんたちは主に二つの方向に分かれて歩いているがどちらに行けばよいのか。謎のこのような像も見える。

謎の像

勘に従いその像の方に歩いていく。すると幸いなことに地図がある。それをみてこちらと思った方向に進む。今日は不幸にして曇り空だが、晴れていればそろそろ紅葉が綺麗なことであろう。橋のような通路を渡る。するとスポーツなんちゃらの建物がある。スポーツだから関係ないかと思えば今日の目的地はその中にあるらしい。ジャージをきた一団の後についていき、その建物にはいる。

前方

これほど「土足厳禁」と書いてあるということは、よほどここに土足で上がる人間が多いのだろう。

さて、ここからどう進めばいいのだろうか。今回の案内メールに丁寧な写真つきの解説がついていたのだが、その理由がようやく理解できた。とにかく迷うポイントが多い。うろうろした結果、大きな運動用のエリアの隣を通って進む。

前方

すると指定された109号室がみえてくる。MRI室とも書いてありここだと思うのだが「使用中」という赤い文字が点灯している。入っていいものだろうか?入った瞬間に警報がなり強力放射線の照射を浴びるなんてことはないのだろうか。

案内のメールを再度読み返す。何も書いてない。ということはとにかくここを開けるしかないだろう。ノックしてみると中から声がする。どうやら放射線を浴びずにすむようだ。

時計を見れば指定された時間よりまだ三十分ほど前。相手は「あ、今日MRIの方ですよね」と言う。担当者はまだ来ていないのでどうぞお座りになって、と言った瞬間に担当とおぼしき人が来た。というわけであれこれ説明を受ける。途中で気がかわったらいつでも中止できますからと言われる。そうだよなあ。頭が悪いことや、性格が悪いことが世の中に公になっても、ってもうなってますか。はいはい、と聞き続ける。同意書にチェックをしてサインをする。謝礼金の受けとり情報を書こうとして、銀行口座を確認しようとする。スマホの電波が通じない。扉をあけ、廊下の端までいくと電波が通じる。情報を確認する。

検査室

部屋はこんな感じ。奥に鎮座しているのがかの有名なMRIであろう。床には「金属持ち込み禁止!」という文字が書かれている。そうとは知らずSWATが銃をもってこの部屋に突入し、銃が機械に衝突し弁償させられたとか何かで読んだな。あるいはいつかのターミネーターもこれで動けなくされていた記憶が。これまでMRIうけたことありますか?と聞かれるのでありませんと答える。とてもうるさいですし圧迫感があるので途中で中止したければいつでも中止できますと言われる。こちらはその有名なノイズを聴きに来たのです、とは言わない。直前アンケートをしてくださいと言われるので、再度部屋をでて廊下の端にいく。スマホを使ってぽちぽち回答する。

では着替えてください、ということで通路をはさんだ狭い部屋に行く。ロッカーの中にある検査着のようなものを指差し「これを使って、とにかく金属がない状態にしてください」と言われる。

着替え

シャツはそのまま。財布やサスペンサーがついたズボンを履き替え部屋に戻る。

すると金属探知機のようなものを使ってチェックをしてくれる。時々音がなる。おかしい、どう考えても金属は取り外したはずなのに。お腹のへんで鳴るのでシャツをめくり

「お腹がでてるんだけなんですけどねえ」

と言うと相手は笑ってくれる。私は知らない間に自分の体に金属が埋め込まれたのではないか、という妄想に襲われ始める。宇宙人に誘拐され、何かを埋め込まれたというのは典型的な妄想と聞くが、それが私の身に本当におこったのかもしれない。などと考えているうちにも検知器はピーピーなる。相手は

「結構誤検知ありますから」

ということでおしまいにしてくれる。

そこからは最初に応対してくれた女性があれこれ説明してくれる。最初の七分は寝てもよくて、そのあとの十五分は画面に映された十字をひたすら眺め、頭をからっぽにしてください。寝ないようにと言われる。その後の時間は頭の構造を撮影するので、寝ても大丈夫です。とにかく頭を動かすと像がぼやけるので頭を動かさないでください、とのこと。

耳栓を渡されるので耳に突っ込む。言われた通り、機器の上に寝そべる。すると小さなクッションのようなものをあてがい頭が固定される。顔の上に何か台のようなものがおかれ、目の前にある鏡を通してはるか頭の方向にあると思しきディスプレイがみえるようになる。

最初は目をつぶってくださいと言われる。多分小さな穴のようなところにはいっていくのを見ない方がいいということなのだろうか。ほどなく体の移動が止まる。じゃあいきますと言われる。

するとブザー音のようなものがなり始める。これが噂に聞く「うるさい音」か。バケツに頭を突っ込んで外から叩かれているような音と聞いたが、それよりは普通のブザー音だな、と思っているとその音がいろいろ変化する。そのうち音の変化が周期的になる。私は頭を動かさないようにと自分に言い聞かせながら寝転び続ける。

そのうち鼻がかゆくなってきた。しかしこの状態で鼻の頭をかくことはできない。ここは忍耐だ。私とて伊達に何年もマインドフルネス瞑想を続けているわけではない。かゆみは放っておけば消える。そう思っていると本当に消える。しかし今度は呼吸が苦しいような気がする。今までこうした閉鎖的な機器で圧迫感を感じたことはないが、とうとうその恐怖が襲ってきたのか?と不安になったが、単にちょっと風邪気味で喉に痰が絡んでいるだけだったような気がする。いずれにせよ呼吸をゆっくり大きくと自分に言い聞かせる。

最初に手に「ストップボタン」というべき何かを持たされたがそれは一旦手から離す。下手に握っていると何かの拍子にストップをしてしまいそうだ。

などと考えていると突然音が止まる。どうやら2番めのフェーズに移行らしい。画面に映った十字に集中し頭をからっぽにというやつだ。今までも十字は表示されていたので、私はそのまま画面を眺め続ける。ブザー音はさきほどより高く連続的になっている気がする。しかしそのうち網膜上にうつるその十時がぼやけることに気が付く。要するに眠いのだ。こちらが眠気に襲われると文字がぼやけ、頭の中に脈絡のない夢のような意識が浮かぶ。我に帰ると再び十字に集中する。そんなことを繰り返す。これだけうるさいから眠気が吹き飛ぶかと思えば、人間はあっというまに慣れてしまう。昔零戦で長距離飛行をしている人が途中で居眠りして墜落してしまったと聞いた。もちろんパイロットのすぐ前には轟音を発するエンジンがあるのだが、その音はパイロットにとっては轟音ではない、と。今の私も同じ状態らしい。

そのうちまた唐突に音が終わる。すると画面が切り替わり、今の眠気を7段階で表現すると?と表示される。スピーカから声でもそう聞かれるので、真ん中あたりと答える。

するとまた画面が変わり、ここからは脳の撮影です。頭を動かさないように、寝てもいいですよと書いてあるし声でも言われる。はあそうですか。再びブザー音が始まるが、先ほどより音が低い。後半少しうとうとした気がする。

轟音に慣れると、驚きは音が止まった時に訪れる。静かになった、と驚いていると、はいこれで終了ですといわれる。頭の上のカバーが外されるとほっとする。

部屋に戻ると「あとは着替えていただいて終了です」と言われる。先ほどの部屋に行き着替えをする。最後にもう一度部屋に顔だけだして挨拶すると検査は終了。私の頭のデータがどう使われるのか聴きたかった気もするが、気にしないことにしよう。とにかくお腹が減った。何か食べたいと思いながらきた道を戻り出す。

その瞬間私はいやな予感に囚われる。大学に行くのだから、久しぶりに学食で食べようと思っていたのだが、先ほどからそれらしき建物がない。さて、どうしたものかと考えていると、キッチンカーに気が付く。あれでいいことにしよう。ホットドックとポテトを買う。少し高い気もするが、ポテトは注文してから揚げてくれたものでとてもおいしい。そこらへんに座って食べる。学生さんがたまに歩いていく。

食べ終わると立ち上がる。バスで小手指に戻る。

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注釈