題名:沖縄

五郎の入り口に戻る

日付:2001/1/10

 出発 | 首里、海軍壕 | 戦跡に洞窟に基地 | 城に島 | 名護市 | 本島北部


名護市

しょうがない。とにかく次の行き先を考えよう。かわなびの地図を見るとどうやらこの半島にも城があるようだ。朝一つ見たばかりだが、まあいくつかみてもバチが当たるわけではあるまい。

そう思って着いてみるとここはどうやら朝行った所よりも観光地化しているらしい。たくさんの観光バスが止まって人がうじゃうじゃいる。あれこれの団体にまじってだらだら歩く。かなり広い城で周りを城壁のようなものが取り囲んでいる。母が言うには

「ガイドが”万里の長城に似ている”と解説したら”全然似てない”と文句がでた」

というような奴だが、私がTVで見た「辺鄙な地方の万里の長城」は確かにこんな形だ。城自体結構大規模だから、もし私が現地の観光協会にでも勤めていれば

「これはなんとか復元でもしてみようか」

と思うところだが、どうやら元々どうした形であったのか何も残っていないようだ。それどころか最初に誰が造ったかも解らないと言う。簡単な想像図は載っているが、それには小屋のようなものがいくつか立っているだけ。これでは復元のしがいもあるまい。少し歩くとなんだかわからないが「そこには女性しか入れなかった」というエリがの跡地がある。これだけ何もない場所でなぜそんな特殊エリアの存在場所だけがきちんと知られているのかわからないが、とにかく看板にはそう書いてある。

ちょっと高い所から、裏側を見てみる。断崖のような場所に繋がっており、こんなところから誰も攻めたいと思わないだろう。そうはいっても馬鹿な大将の下で従軍することになったら

「守りが手薄なあそこから攻めろ」

とか言われて「まったくうちの馬鹿大将は」とかぶつぶついいながら困ることになったのだろうか。いつの時代も下っ端はつらいやね。

しばしそんな感慨に耽ると車に戻りまた出発だ。とはいっても目的地は慎重に考えなければならない。ここから北に少し行ったところに街らしきものがあることになっている。とりあえずそこに行ってみよう。そう思いひたすら北上を続ける。そろそろ疲れがたまってきて短い距離なのだがなかなかつらい。

さて、かわなびの示す所によれば街なのだが、そこにはまばらに建物があるだけだ。ホテルのようなものは全く期待できそうにない。しょうがない。名護市に戻ろう。少なくともあそこに行けばホテルがあることは間違い無かろう。今日は何度も行ったり来たりを繰り返したから今更多少来た路を戻ってもなんとも思わないもんね。

そう思って名護市に戻る。確かにここの方がホテルがある雰囲気に満ちている。とはいってもいきあたりばったりに走り回ってホテルに突き当たるとは思っては行けない。どこだどこだと思っているうちに、オリオンビールの工場に突き当たった。ここはきっちりとガイドブックにも載っており、沖縄で80%のシェアを誇る地場産業。どうやら試飲もできるらしいが、今はとにかくホテルを見つけることばかり考えているから写真一枚もとらずに走り去ってしまう。なんどうろうろしたが知らないが街の外れにようやく感じのよいホテルを見つけた。

フロントに行くがだれもいない。奥に向かって「すいませーん」と叫んだが誰もいない。考えて見れば今は午後3時前でフロントは最も暇であろう時間帯だ。おとなしく待っているとそのうちお姉さんがでてきて相手をしてくれた。値段は昨日の1/3(しかも朝食込み)きっちりその額を払えば前払い完了である。部屋にはいってみえば、昨日のホテルと同じ設備は全部ついている上にTVはちゃんとリモコンで操作することができる。昨日の「リゾートホテル」はなんと手動でしかTVを操作できなかったのだ。それでもAFNで米国の番組を直接見れるところがメリットなのかと思ってみたら、ここでもちゃんと見ることができる。リゾートホテルとは全く不思議なところだ。世の中には必要以上に金を使うことに喜びを見いだす人間がいるとしか思えない。

さてご機嫌になるとご飯を食べに出る。実はまだ晩ご飯には早いのだが私には一つの目算があった。床屋にいくことである。普通こんな短期の旅行では床屋に行かないと思うんだが、かまうもんか。もう今日は動きたくないし。ルームミラーで後ろを見るたびにどうにも収まりがつかなくなっている自分の髪が気になる。とっとと切ってしまったほうが明日からの精神衛生上もいいにいちがいない。

ガイドブックをみるとなんとか十字路というところを目指せばあれこれ物を食べる店がありそうだ。なんとか十字路はだいたいこっちと目算をつけて歩き出す。途中で目に付いた床屋にはいって散髪した。刈ってくれたのは若いお兄さん。名古屋に帰ってから母親は

「あら。床屋に行ったの。しゃれて刈ってあるじゃない」

と言った。場合によっては散髪した私を見て母は

「なんだか田舎っぽいわね」

と評することもあるから、彼の腕は良かったのだろう。もくろみ通り時間もつぶれ、髪の毛もじゃまにならなくなった私はますますご機嫌になる。なんとか十字路を目指して歩くのだが、どうもあまり街の気配がしない。そのうちようやく街らしくなってきたが、なんとか十字路はどこだろう。食い物屋はどこにあるんだ。しょうがないから本屋に飛び込み沖縄のガイドブックを見る。候補の一つとしていたのは「羊専門料理屋」である。どうやらこの近くにあるのだが、もっと遅くならないとやっていないよう。これではしょうがない。とにかくぶらぶら歩いてみるか。

何軒かレストランらしき場所を通り過ぎる。そのうち博物館に行き当たった。まだ時間は早いからちょっと見てみるかと思い中に入る。

中には沖縄の生活紹介ということで、ちょっと前の家庭はどうだった、農業はどうだったのかなどと説明がしてある。普段はこうした物には全く興味を持たないのだが、少なくとも名古屋とはちょっと違う文化の展示はなかなか興味深い。農業のコーナーには先祖伝来のがらくたがおいてある。脱穀機があり、そこには「文化旭光」などと商品名がほこらしげに書いてある。その周りには

「登録商標」

「低音式」

「ボールベアリング採用」

などと平坦な金属部分をうめつくすようにありとあらゆる宣伝文句がつらなっているが、つまるところは脱穀機だ。その隣には豚の食事もかねたトイレがある。人間が用を足すと、その先は豚が片づけるというやつだ。ハンニバルにも豚の飼育について書かれた部分があり、豚の飼料の中に、排泄物を混ぜるなどと書いてあるから本当かと思っていたらどうやら本当のようだ。ここは米軍が上陸したところからさらに北方にあたる。北方ではあまり日本軍は抵抗しないかったと聞いていたのだが、やはり戦争ですべてふっとんでしまたらしい。

かくして何気ない街の博物館なのだが大変興味深かった。一番興味深かったのは沖縄の墓について書いた展示だったかもしれない。地面に半分うまったトーチカ状のものは「亀型」といい、小型の家屋のようなものは「家型」というのだそうである。その名の通りと思うのだが、なんと「墓の落成式」の写真まである。家型のひさしをのばし、天幕をはり、その下で何人かが食べたり飲んだりしている。どうも墓の完成を祝う、というのはぴんとこない。しかし後日墓屋の前を通ったときには「特価:290万円」と書かれた墓があった。土地まで含めていくらになるか知らないがそれだけはたけば落成式の一つもしたい、というところだろうか。

さて、思いもよらず街の博物館を堪能して外に出る。そこで女子学生の一団にであった。もはや私では彼女たちが中学生なのか高校生なのか大学生のなのかを区別することはできない。しかしここで書きたいのはそういうことではない。5−6人いた女性のうちほぼ半数がマフラーをしていたのである。

私の恰好はといえば、今日は曇りで少し寒いのでシャツの上にもう12年もきているなんといってよいかわからないトレーナーのようなものである。しかしそれでも結構歩いているうちに暑くなってきている。その女性達はどう考えても私より厚着をしているのだが、それに加えてマフラーをしているのだ。

母は

「沖縄たって結構寒い。半袖のシャツなんか着る気にならない。みんなここらへんと同じ恰好をしている」

と言ったのだが、それは確かだ。しかし気温が高いというのも確かである。なのに彼女たちのようにマフラーをしたり、はてまた厚手のコートを着たりした人を見る。しかしこの気温ではどう考えてもマフラーやコートのの下は高温状態になっているのではなかろうか。あのマフラーの下を覗いてみれば(そんなことができようはずもないとは知っているのだが)汗が幾筋も川のようになって流れているのでは無かろうか。そうまでして彼女たちは何を達成しようとしているのだろうか。

しばらく考えて思いついた。あれは女子高生が夏場にはいているだぼだぼの長いソックスと同じようなものなのではなかろうかと。私にとって衣服というのは体温の調節を行うのが第一義であり、その他には適度にフケツでなければよいと思う。しかしそれは私の価値観であって、世の中には様々な世界がある。勝手に想像するに、彼女たちは

「冬であるから冬の恰好をしたい」

と思っているのではないか。そのためには多少暑かろうが蒸れようがどうってことはない。だって冬だからマフラーやコートを着るんだもんね。今を逃したらいつ着ろと言うの。

いずれにせよ彼女たちが何を着ようと私の体温が上がったり下がったりするわけではないから本当のところはどうでもいいことである。などと考えながら今着た道を戻る。とにかく何かを食べなくちゃ。

さっき博物館に向かう途中でみつけた何軒かの店のうち、「一番よかろう」と思ったなんとか十字路の近くにある「かど屋」とかいうあやしげなところにはいる。表の様子からあまり期待はいだけず

「扉をあけたら、中は何の変哲もない定食屋ではないか」

と危惧する。腰をおちつけて店の中を見ると、まだ4時頃だというのに結構人がいる。私の隣には白人のカップルがおり、何事かしゃべりながら座っている。まもなく彼らのテーブルにショウガ焼き定食か何かが来たのだがこの量は尋常ではない。彼らがアメリカ人だと仮定しての話だが一般的にいってアメリカのレストランででてくる食事の量は日本の比ではない。しかしあの偉大なボリュームはアメリカ人もびっくりではなかろうか。

どうやらここはただの定食屋ではなさそうだ。

さて、自分の注文を決めなければならぬ。壁にはあれやこれやのメニューが張ってある。さっきでてきたショウガ焼き定食の類にも大変こころを惹かれるのだが、ここはお国を何百里の沖縄である。沖縄料理を食べよう。すると下の方に「てびち汁」という札がある。

珍しく沖縄料理を食べようなどと思った物の、何が沖縄料理はいいかげんにしか把握してこなかったのである。この「てびち」なるものがガイドブックのどこかに載っていたのは覚えているが、はたしてその正体がなんであるか、はてまた「汁」と組み合わせることが正しいのか、その結果はいかようなものになるのか。しかしここは一発チャレンジだ。「てびち汁とご飯」とオーダーする。

待つことしばし、丼と小さなお椀にもったご飯が到着した。中を見ると、だいこん、こんぶ、豚足、それにたくさんの野菜が煮てある。本当の事を言えばトン足かどうかは定かではなく、中に細い骨が何本かり、皮らしい物も存在しており輪切り状になっているからそう想像したのだがもしかしたら間違っているのかもしれない。

そのお味はと言えば、今回の沖縄旅行の中で最大の成功作であった。かなりの量があるのだが、さっぱりとした味付けで飽きることがない。また野菜がたくさんはいっており、おまけにどう考えてもローカロリーだ。体重の管理に苦労している私としては

「ああ。近くにこれを出す定食屋があれば毎日食べたいくらい。」

と考えたりする。今日のご飯は大勝利だった。食べ終わってお金を払う。どうやらもともとご飯はついているものだったらしく、書いてあったままの値段だ。

私は大変なご機嫌になった。昨日は食住ともいまいちだったが今日は大当たり。ご機嫌になってホテルの方向に歩き出す。

路というのは北方向によって全く異なって見えるという話を聞いたことがある。しかしそう建物が沢山あるわけでもなく、迷う要素もない。太い国道がはしっており、だいたいそれにそって進んで居るのだからちょっと遠いけどいつかはつくだろう。

そう思って歩き出したのだがどうもそのうち様子がおかしくなった。だんだん前方の路が細くなってきておまけにどう考えても山に突き当たりそうなきがする。そのうちもっと奇妙な事に気づく。ゲームセンターの前を通ったのだが、どうも以前に同じゲームセンターの前を通った気がするのだ。表に張ってあるやたらと威勢の良さそうなお姉ちゃんのポスターに見覚えがある。しかし同じ方向からその前を通った記憶があるから、私は来たときと同じ路を同じ方向に歩いているのかもしれない。

いやいや、そんなはずはあるまい、と考えなおす。あちこち回ったからきっと記憶が混乱して、昨日どっかで通ったゲームセンターと間違えてるんだよ。だいたいこうしたちょっとしたゲームセンターの外見なんて似てるじゃないか、などとこうやって冷静になって文字にしてみると

「そんなわけないだろ」

というようなことを一生懸命自分に言い聞かせる。そのうちこれまたどっかで見たことがあるスーパーマーケットがでてきた。私は認めざるを得なかった。信じられないことだが私は同じ路をぐるぐる回っているのだ。

この無限地獄から抜け出るためには、とにかく方向を変えることだ。しかしながらどちらに向かえば良いのか。私はすでにして完全に方向を失っていた。とにかく大きな国道にあたりそうな(と私が勝手に思った)方向に向かって歩き始める。しかしまた行く手は心許ないほどさびしげな風景になってくるのであった。

かくして方向転換を繰り返すこと数度。ようやく私は国道に出た。でて愕然とした。かなりの距離を歩いたのに目指すホテルは遙か彼方であり、食堂の近くにあった役所らしき建物はすぐ近くではないか。私は一体何をしていたのか。

とにかく方向が解ったから歩き出す。かなりの距離があるのだが、自分が無駄足を踏んでいるのではないことがわかるだけでも精神衛生上は大変よろしい。遠かろうがなんだろうが、ぷらぷら歩いていたらついてしまった。地図を広げ明日の計画を考える。あさっての昼には飛行機にのるから明日が自由に使える最後の日だ。行き先は決まっている。沖縄本島の北半分をぐるりとまわるのだ。そう決めると私はご機嫌のうちに眠りについた。

次の章


注釈

 ハンニバル:(参考文献一覧)私は豚に足を食べられるのはご免だが。本文に戻る