題名:私のMacintosh

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日付:2002/4/7


31章:MacWorld Expo-出展前半

さて、常時接続になるとパソコンでやることにもいろいろ変化が生じてくる。一番顕著なのは

「意味もなくただサイトを巡り続ける時間が増える」

ことであるが、これはあまり生産的な事とはいえない。他に変わったことと言えば

「プログラミングするときに参考になる情報をあさるのが楽になる」

というものが上げられる。あれ、これってどうやって使うんだろう。そう思ったら迷わずGoogleにその文字列を打ち込んでみる。いつもとは言わないが、運がよければその問題を解決してくれるサンプルプログラムまで見つかったりする。

なぜこんな事を考えるかと言えばこの時期私は新しいMac OS X上でのプログラミングにとりつかれていたからだ。その模様は別の文章で読んでいただくとして、一番時間を費やして取り組んだのが、OMEと呼ばれるフリーの電子メール環境でもって動くOME_GMailという電子メールプログラムの開発である。

このメーラーの良いところは、すべてがフリーでかつソースコードも公開されているところだった。こんな機能がほしい、と思ったら自分でつくることができる。メーリングリストも開設されており、いろいろな質問をすることもできる。そこで1月だったか2月だったかのある日主催者である新居さんというかたから

「Mac World Expoに出展しようと思います」

というメールが発信されたのである。

私はそれを一読して「ふむ」と思う。今年からMac World Expoは3月になったからまだ少し先の話。でもそのころには仕事も少し落ち着いているはずだし、これは一発参加してみるか。そう思った私は

「私のようなものでお手伝いができるのであれば、参加させていただきます」

とメールを投げた。

先だ先だと思っていたその日はあっというまに近づいてきた。「そのころは落ち着いているはず」だった仕事はさっぱり落ち着かない。それどころか返って状況は悪化しているような気がする。当初私は21日と23日に出席する予定だったのだが、春分の日であり、立派な祝日である21日は客先に出張することとなってしまった。嗚呼、今年こそはSteve Jobsの基調演説を聴いてやろう、と意気込んでいたのに、などと言っても後の祭りである。お客様は21日出勤日であり、その日に会議を開くのに何の問題があろう。そしてこの国においては「お客様は神様です」なのである。自分の運命を呪いながら21日出張し、この日休暇を取れば4連休になったはずの22日も会社に行く。完全にふてた私は何があっても23日は出勤しないぞ、と心に誓う。このときばかりは仕事の神様も慈悲を恵んでくれたようだ。23日に緊急の用件はなく、私は大手を振ってMac World Expoに参加できることとなった。

朝起きるとひたすら東京ビッグサイトに向かう。そう。今年はいつもの幕張ではないのだ。いつも通勤で使っている電車を使えば乗り換え一回。所用時間1時間半弱。「ゆりかもめ」という新交通システムとやらに揺られながら外をぼんやりと見る。新交通だかなんだか知らないが乗るたびに「何故これほどまでに座席が狭いのだろう」と思う。おまけに目的地は終点の手前なのだ。ごろごろと車両は走り続ける。それでも乗っている限りはいつかは目的地に到着する。

さて、どこだろうと思いながらひたすら奥へ進んでいく。途中で「これは迷ったか」と不安にかられたがなおも進むと大きなMac World Expo云々という看板が見えてきた。これで一安心。待ち合わせの時間までにはまだ間があるのでiBookを取り出しごそごそ。今日はこのiBookを展示用に使ってもらうことになっているのだ。となると恥ずかしい内容は隠しておく必要がある。ちょっとまて、メールプログラムのデモなのだから、いつも私がやりとりしているメールが丸見えではないか。ええい、一番問題がないここだけ観てもらうことにしよう。

そんなことをやっていると時間になる。待ち合わせ場所に指定されたコンビニの前でぼんやり立っていると新居氏が歩いてきた。向こうはこちらの事を知らないだろうが、氏の容貌は何度か写真で拝見したことがある。私は挨拶すると入場証を受け取る。氏はまだ待つ人がいるそうで、とりあえずUser's Groupの方にいってくれ、と言われる。誰かに聞けばわかるからと。私はゲートの方に向かう。入っていくのは「コンパニオンでございます」という女性ばかりだ。はたしてこれで入って大丈夫なのだろうか、とがめられないだろうか、などといつもの脅迫観念におそわれていたが難なく入場できてしまった。

年々出展社数も入場者数も減っているといわれるMac World Expoだが、確かにその減った分を埋め合わせるようにどかーんと大きなAppleのブースがある。そこを通り抜け、さてUser's Groupはどこであろうとうろうろ探す。そのうちそれらしい一角が目に入った。

さて、ここで誰に何を聞けばいいのだろう、とおもいつつうろうろする。そのうちOMEとかなんとかいう看板が目に入った。その場所にすでに来ていたのは「謎の大福商人」こごめ氏である。氏はとても親切にあれこれ教えてくれた。私としてはほっと一安心である。今日私は主催者の手伝いをすることになっているのだが、はて、何をやるのやらさっぱり見当がつかない。そのうち朝礼がありますからと言われる。その間こごめ氏が印刷してきたOMEの説明文書などをホチキス止めする。時々こういう作業をやるといつも思う。私はこういうのが結構好きだなあと。もちろんこれが毎日となれば話は別だろうが。

開場は10時半、10時から朝礼ということなのだが、この日は朝食を食べながら偉い人の話をききましょう、ミーティングがあった関係で開始が遅れるという。いや、遅れないって聞いたよとか言っている間にステージに人が立った。

そこから代わる代わる担当と思われる人が説明をしていく。最終日ということもありスタッフの方は疲労がたまっているのだろう。

「彼女はガス欠ですから、みなさんサポートしてあげてください」

とかそういった類の言葉が語られる。みんな大変なのだなあと思っている間に朝礼は終わった。さて、私は今日「相談員」という物をやればいいと聞いている。そのためのジャケットも配られた。周りの人たちからは「楽ですねえ」とか「大変ですよ」とか言われる。しかし結局何をしたらいいのかわからない。ぼんやりとしているとそのうちお呼びがかかった。

どうやら私ともう一人が相談員らしい。どちらが先に行きますかということで私になる。では何とか言う人を捜して帽子をもらってきてください。あっちで聞けば解りますとだけ言われる。はあ、と思い「あっち」に行ってその人の名前を聞いてみたが「私は知りません」と言われる。しょうがないから最初に説明してくれた人に聞き直そうとふらふら歩き出すと「相談員ですか?、こっちこっち」と言われる。こっちに行くと「帽子はまだですか?しょうがないなあ。僕回ってないから、この人に帽子を渡してあげて」と誰か別の人に言われる。まるでわけがわからない。しかしとうとう私はその「なんとかさん」を見つけ帽子を受け取った。何故か4っつも。それから元の人に「帽子をもらってきました」と言うと「あっちの(彼方を指さす)マックファンのブースにMac 総合病院というのがありますからそこに行ってください」と言われる。彼は忙しくまた別の方向を向いてしまう。マックファンのブースとはどこだ。そこからしばらく指さされた方向に歩いてみたがさっぱり見つからない。しばらくうろうろしたあげくOMEのブースに戻りこごめ氏に聞くと

「一番端のほうにあったような。。」

と教えてくれる。私は礼を言ってひたすら歩き出す。こうして行き先が解らずおたおたしていると自分が幼少の頃から全く変わっていないことに気がつく。年をとって偉そうなふりだけはうまくなったものの、内実は昔通りの「シオシオのパー」。ちょっとうまくいかないとすぐめげる。何も変わっていないではないか。しかし幸いにもそのうち「Mac総合病院」なる看板が目に入った。

近づいていくと「User Groupの方ですか」と言われ、白衣を渡される。それを着て来た人の質問に何でも答える、ということらしい。なんということだ。これはStanford

「相談デスクに座ったら一単位あげるよ」

の再現ではないか。おまけにあのころはMacといえばデスクトップだけで、OSも基本的に一種類だったが、今やノートありデスクトップあり、OS9ありOS Xあり。用途だってあれこれに広がっている。どんな相談にも答えるというのは私には重すぎる荷ではないか。私は説明してくれた女性にまずこう聞いた

「答えられなかったらどうします?」

答えは「他の人と相談してください」。観ればもっと年輩の方が二人ほど白衣を着て座っている。なるほど彼らは私より頼りになりそうだ。彼らの助けもあれば、そしてあのときは英語だったが今日は日本語でできるのだ。つべこべ言っている場合ではない、と思うととにかく席に着く。帽子は脇においたまま。理由はわからないがもう一つ同じ帽子がおいてある。合計五つの帽子はいったいなんの為にあるのだろう。とにかく私は頭がでかくたいていの場合帽子をかぶると頭がいたくなるのでかぶらないでいた。

誰がくるだろうかと思っているとしばらくはあまり人が来ない。考えてみればまだ開場直後なのである。先ほど説明してくれた女性はここの担当者らしく一生懸命呼び込みをしている。彼女の努力は尊重するが私は

「誰かが難しい質問をぶつけてきたらどうしよう」

とびびっている状態なのだ。担当の女性が来て

「せっかく来ていただいていいるのに、あまり人がこなくてすいません」と言う。私は

「いや、あまり難しい事を聞かれても困りますから。わっはっは」という。相手は自分はこの企画をもりたてようとしているのに、と反論を唱える。

そのうち誰かが私の前に座る。Adobe Premiereで編集すると時間軸がずれる、という。私はこのPremiereなるソフトを使ったことは確かにある。しかしそれは10年前の事だ。素直に隣のおじさんに助けを求める。

それから10人近くの人の相談を受けたのではなかろうか。雑誌で予告されていたこともあり、トラブルをきちんと書いて持ってくる人、実際にトラブルを起こしているマシンを持ってくる人、いろいろいる。私はといえば長年マックを使った経験から「定石」と思える事を言っているだけなのだが、それでも少しは役にたっているようだ。Appleには対面修理という目の前で修理をしてくれる大変便利な制度があるのだが、私が使っているマシンともう一種類は「事情により対象になっておりません」という但し書きが着いている。その「もう一種類」のマシンを持ち込んで来た人がいる。アップルが対象にしない、と言っている以上私はなんともできない。その人とともに

「そうですよねえ。毎日使っているものを修理に送るなんてできませんよねえ。」

と嘆きを共有する。これが精神衛生上以外で何かの役に立っていると思うのは難しいことだが、それしかできないんだもん。

かくして「をを、なんとかなるではないか」と思っているうちに私が担当すべき2時間は過ぎ、交代の人が来てくれた。やれうれしや、とばかり私は白衣を脱ぐ。総じてこの相談員は楽しい経験だった。強いて言えば例の担当の人が私を

「先生」

と呼ぶことだけが???であったが。私は普段「先生と呼ばれる人種はちょっと変わっている」という偏見を保持している人間なのだ。今や自分がその名前で呼ばれるとは。

などとあれこれ考えながらブースに戻る。中ではこごめ氏が一人であれこれ対応をしている。

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注釈