題名:Clinton-part2

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日付:1998/8/15

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1998/8/15

1998/8/18

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1998/8/25

1998/8/31

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1998/8/15:

 さて私がこの文章の意図を勝手にねじまげて、日本の総裁選など見ているうちに、本家のClintonの方の情勢も動き出した。

実習生ことルインスキーが免責特権と引き替えに連邦大陪審で証言を行ったようだ。彼女はClintonとの性的関係を認めた模様。ただし元々Clintonは「彼女と性的な関係はもっていない」と言っているから、「あれは性的関係じゃないよーん」と言えばなんとでも開き直れるが。実際ルインスキーは「あれは大統領にとっては性的関係じゃないかもしれないが」と言っているようだが。(しかし実際何をしたのだろう?)

あとドレスについた「体液」(ほとんどの新聞はこう書いているが)の鑑定がでてClintonのものとわかれば言い逃れはできまい。唾液とかだったら「いやー、彼女の膝枕でいねむりしちゃってよだれたらしちゃった」とでも言えるだろうが、「体液」は簡単に外にでるものではない。

しかし仮に彼の「偽証」「司法妨害」が立証されたとしても、誰が彼を弾劾したがるだろう?ニクソンの時と罪名は同じでも実際に国に起きている問題の程度は異なるのだ。経済は好調。犯罪も減少。そりゃすけべ親父がいろいろやったかもしれないが、奥さんは知らん顔しているだから何の問題がある?

今回ヒラリーが反Clinton側に回っていたら、、と考えることがある。その場合は米国でアピールするだろう「妻に対する精神的虐待」という大義名分が使えたかもしれない。しかし彼女は今のところそういった気配を見せていない。ウォーターゲート事件で敏腕検事として、しゃれっけのかけらもない姿を見せていた女性は何を考えてファーストレディーに収まっているのだろう。

さてClinton側も黙ってはいない。例によって「スター独立検察官サイドからの情報漏れ」をわめきたてているようだ。とにかく反撃をしなくてはいけない、と思っているのだろう。「黙っていても真実は自ずと明らかになる」なんていう概念はあの国にはない。

 

1998/8/18

さてClintonの情勢は今日一つの山を迎えるはずである。彼は日本時間の今日未明大陪審で証言をするはずだ。非公開ではあるが、過去の例から重要部分はCNNには即時報道されるはずである。

新聞もぼちぼちと報道をしているようだ。可能性としては

1)全くなにもないんだよーんという従来通りの主張

2)ルインスキーは「性的関係」と言ったが、あれは性的関係ではない、という開き直り

3)「性的関係」はあったが偽証はしてねえ、という強弁。

どのどれかというのがとりざたされている。1)は連邦大陪審での偽証罪の危険を冒すことになり、3)はどうやったらその主張が通せるのか検討も付かない。私はなんとなく2)だと思っている。新聞報道によると、大統領側は一部性的関係があったことを認めるとされているが、そうなると私がCNNのサイトからおとしてきた映像、一般教書演説前に「毅然として」言った"I did not have sexual relations with this woman"がTV上で100万回くらい放映されることは間違いなさそうだ。ヒラリーは開き直るだろうが、一人娘はなんとなく気の毒な気がする。

仮に偽証が明らかになった場合でも、いくつかの選択肢が考えられる。任期中の弾劾かあるいは任期が切れたあとの告発である。私は今のところ後者の可能性が強いと思っている。別に色魔のうそつきでも大統領は十分つとまる。今すぐやめさせることはない。罪は罪として任期満了後に問えばよい。だいたい政治家が本当の事を言っているなんて思っている人がそうたくさんいるのだろうか?ただ弾劾の理由としては「誰も本当の事を言っているとは思わないが、ばれるような嘘をつくなんてのは大統領としては不適格だ」ってなことになるかもしれないが。

 

さて日本時間の18日。私は実家に帰ってCNNを見ていた。まず連邦大陪審での大統領の証言が終わった後に大統領の弁護士がでてきて「午後10時から大統領がTVでメッセージを送る。」と言い出した。これで各TV局は大騒ぎである。日本時間では午前の11時である。この日連邦大陪審からもれてきた言葉で"Inappropriate Physical relation"というのがでてきた。なるほどSexual Relationはないが、Inappropriate physical relationはあったということか。私はひっくりかえって笑いそうになった。こんな法廷戦術のようなレトリックがいつまで続くのだろう。

CNNではLarry King Liveでいろいろなマスメディアの代表、上院議員等を呼んで討論をやっていた。立場はいろいろでほとんどクリントンの代理人のようなことをしゃべるのが2名、あとはやや中立的な意見である。一人「クリントンは今までに国民にしゃべりかけた時は、常に国民の心をつかんできた。彼はきっとEffectiveなメッセージを述べるだろう」と言っていた人がいた。

さて11時からClintonのメッセージが始まった。私が聞き取れた範囲で彼が言ったことはこうだ。

モニカルインスキーとInappropriate relationがあった。これがwrong impression(間違った印象)をあたえ、妻も含む米国民をmislead(誤解を招いた)ことは間違いだったと思う。それに関し謝るし、責任をとるつもりだ。しかしながら証拠隠滅を教唆したことはないし、Illegalなことは何もしていない。

ここまでが演説の前半20%くらいで、あとの50%はスター独立検察官が、如何に彼のプライベートライフにまで踏み込んで執拗な捜査を行ってきてかに対しての非難。次にこの問題は私と家族とGodの間のものである。ほっといてくれ、という門前払い的な言葉。残りの30%が今は政治的に難問が山積している。従って捜査はこれくらいにしておいてくれ、という「忙しいからつきあっている暇はない」という拒絶である。

この演説を聞いた瞬間の私の印象は「従来と同じことにちょっと色をつけただけだ。結局悪いのはスター独立検察官だと言って、忙しいからいいかげんにしろ、と言っている。これはClintonの失敗だな」であった。

さて演説の後に再びLarry King liveは続く。印象的だったのは一人を除いて、皆が発言するのに非常に慎重になっていたことだ。特にClintonの代理人的発言をした2人は下を向いて実に話しづらそうだった。一人だけ「嘘をついたのにそれはIllegalでないなんて全く矛盾している。おまけに言葉はどうであれ誠実に話せばそれが伝わってくるはずなのにそんなものは全然感じられない」と言った。

よく日本人はわけのわからないステートメントよくする。米国人は物をはっきり言う、というが言葉は明瞭でも意味の無いセリフを吐く場面というのは洋の東西を問わず存在する。この「はっきりした意見」に対し、正面切って反論も賛成もした人はいなかった。おそらく彼らはこの演説がどのような印象を国民に与えるか計りかねていたのだろう。

CNNからダウンロードした全文を参考にと私が聞き取れた範囲での感想を書いてみる。

姉に言わせると、私は文句ばかり言っている理屈屋だということだ。その理屈屋からみるとこの演説はまるででたらめだ。1月には毅然たる態度で”I want to say one thing to the American people. I want you to listen to me ... I did not have sexual relations with that woman, Miss Lewinsky.”と言ったことに対し、またもや新しい言葉を発明して"Inappropriate relation"はあったと言っている。それで何一つ法に反することをしていないと言う。

では彼が法廷で証言した「ルインスキーと性的関係はない」という言葉の「偽証罪」はどうなるのだろう?後でTranscriptをチェックしてみたら”While my answers were legally accurate, I did not volunteer information. ”と言っている。これだけでは何のことかわからない。弁護士の手に掛かると彼は嘘をついていたが法律的には正しいという結論になるのだろうか?

おまけに「これは私と家族と神の間のプライベートな問題だ」と言っているが、そうではないから今わざわざ法廷で問題になっているのではないか?彼が法廷に関係ない私生活でSMをやろうが何をしようが両者合意の上であれば誰も文句を言ったりしない。法廷での偽証がからんでいるから大騒ぎをしているのだ。それに関してもGodを持ち出して蓋をしようとしている。

もう一つは言葉のあやで、「自分は嘘を付いた」とどうしても認めていないことだ。彼がやったことというのは「間違った印象を与えた。誤解を招いた」ことであり、嘘をついたことではない。「間違った印象を与える」というのは言外に「そういう印象をもたれてるような言い方をしたかもしれないが、真実はそうでない」という意味を持っている。つまり彼は自分の「嘘」を「間違った印象、誤解を招いた」と言って、受け取り側にも責任があるかのように見せようとしているのである。「嘘をつく」のは相手を「誤解、あるいは間違った印象を与える」ためにするのである。それが見事に成功した後で、「間違った印象を与えたのは悪かった」という神経は私には信じられない。しかし別にClintonほどのうそつきでなくてもこういう言い方は会社でもよく目にする。

 

しかしながら各コメンテータ、及びNHKが慎重に発言しているのが示すとおり、この演説が如何に論理的にでたらめか、ということなど指摘しても何の役にも立たない。彼が得ようとしているのは米国民の同情であり、仮に1+1=3のような話であっても米国民が「そうだ」といえばそれで大統領の勝ちなのである。

私はそのうち判明するだろう米国民の反応を楽しみにしている。私が知る限りでは世の中の人の多くは理屈ではなく感情で物事を判断する。そうした人達にはこの演説はぴったりだ。なんだかわかんないけど、悪かったって謝ってる。別に法律に反することはしてないって言うし、彼も忙しいし、個人的な事に踏み込むのもやりすぎだからこれくらいにしておけば?

あるいはClintonの演説が論理的にでたらめであることを承知していても「まあこれくらいでいいじゃない」と思う「大人の判断をする人もいるだろう」

しかしもし私が米国民で電話によるアンケートをうければ「徹底追及」に賛成する。この大統領は感情への訴えと、法廷戦術的な言葉のすりかえで米国民を丸め込めると思っているのだ。まるっきり人というものをなめきっている。

演説直後にどこかの上院議員が「我々に必要なのはリーダーであって弁護士ではない」と言っていた。罪は罪として素直に認めるのがリーダーであり、何があっても自分の非を認めないのが弁護士だ。この大統領はまさしく弁護士の答弁を行ったわけだが、これに米国民がどのような評価を下すか。興味はつきない。

 

1998/8/20

私がCNNで世論調査の内容など見ている間に、アメリカがいきなり他国にあるテロリストの基地を攻撃した。他の国への相談も認証も、それどころか米国議会の相談、承認もなしにである。

TVでクリントンは「これは正義の戦いなのだ」と例の駄弁をふりまわしている。しかしこれがとんでもない暴挙であることは私から見れば明白である。彼らは自分で「正義の側に立っている」と言えば、国際法も何も無視できるのだ。

「テロ行為の証拠を握っている」と言えば彼らは独断でどの国でも自由に攻撃できると言っているのだ。「証拠を握っている」とういのは彼らが実によく使われる言葉だ。ダンピングの問題が提起される度に「明白なダンピングの証拠を握っている」と彼らは主張する。それが仮に後に否定されることになろうとも。

この攻撃に対する米国世論はなんと2/3以上の賛成だそうだそうである。米国民の「力の誇示」に対する賛成の単純さにはいつもあきれるばかりだ。確かに今回Clintonは力の行使を単純に喜ぶ米国民は味方に付けたかもしれない。しかし今回は国際問題であることを忘れているのではなかろうか。支持が必要なのは自国民だけではないのである。

 

さてそのクリントンの例の演説への反応であるが、基本的にあまり変化はないようだ。曰く「あいつが本当のことを言ったとは思わないし、きっと何か法に触れることをしているけどもまあここらへんでいいじゃない」と言った反応のようだ。

朝日新聞によれば、男女比で行くと女性の方がはるかにClintonの今回の演説を支持する割合が高いらしい。一方アメリカのマスコミ受けは概して悪いようだ。彼は今回も国民を味方につけるのに成功した。それが如何に非論理的であろうが不誠実なものであろうが、とにかく国民は「経済がうまくっている」という理由から彼を支持しているのだ。

私はこの結果を見たとき、親愛なる小渕君のところに思いを馳せた。彼が米国のマスコミに「さめたピザ」とか「印象が薄い」と言われようが何も気にする必要はない。連中は米国民の意見を必ずしも代表しているわけではないのだ。とにかく経済建て直しで実績さえあげれば"Great Obuchi”なる称号を送られてもおかしくはない。連中は個人的な事にはいっさい興味がないし、その人物が誠実かどうかも重視ししていない。とにかく経済分野で結果さえだせばいいのだ。

 

1998/8/25

その後NewsWeekに載った記事を信じれば、ヒラリー夫人はClintonの証言の数日前に"In appropriate relation"をうち明けられ激怒したそうだ。私はヒラリーというのはもっとクールで、当然もっと前から夫の「真実」を知っている上で反撃の指揮をしていると思っていたのでこれは意外だった。本当に「誰がなんと言おうと私は夫を信じる」と思っていたらしい。

CNNのサイトなどを覗いてみるとClintonが再び演説をするとかしないとか言っている。米国民の反応を見ていると何故そんなことが必要なのかという気がする。基本的に議会の反応も米国民の意向を繁栄して「弾劾の必要なし」に向いているようだし。

さて一方例のミサイル攻撃であるが、スーダンは完全に自信に満ちている。カーター大統領を調査団として受け入れてもよい。どこの国でもどうぞ見てくれ、という態度だ。攻撃直後に迅速に証拠を隠滅できたのでなければとてもこんなことは言えまい。

一方アメリカは国連で「これは自衛権の行使だ」というめちゃくちゃな理屈を相変わらず振り回し、肝心の「証拠」とやらをようやく提出するとかしないとか言っている。自衛権の行使というのであれば、その大切な「証拠」を攻撃直後に公開するべきだと思うのだが何故かそれを渋っている。

しかしこちらもイスラム世界以外の各国はClintonの支持に回っているようだ。正直言って意外だ。親愛なる日本国政府の「とりあえず当事国ではないので、国際法上のことはコメントできないが、今後の情報を待って対応」という反応は逆の意味で意外だった。これはいつもの米国が手を挙げれば自動的に手をあげる日本国政府の反応とは違い、できる範囲で精一杯の疑念を表したものではなかろうか。

TVで自信満々に米国攻撃の正当性を主張するClintonの顔を見ていると、どうしても1月に"I didn't have sexual relations with that woman"といい切り、その半年後に"Inappropriate relation"はあったと言い直した「うそつき」のイメージがだぶってしまう。誰も政治家が正直だとは心の中では思っていない。しかしそうはいいつつもTVで自信満々に嘘をついてしまったことを認めたのは今後ボディーブローの様に効いてくるかもしれない。誰もが暗黙のうちの認めていることと、自分で「そうだ」と公言してしまうことの間には深くて長い溝がある。彼が今後どのように演説をしようが彼は「公然たる嘘」の前科持ちなのである。

 

1998/8/31

さてここ数日東日本にとんでもない大雨がふって、おかげで和歌山の毒入りカレーだの、Clintonだの、テロだのの話はだいたいあっちに吹き飛んでしまった。まず目前の大変な災害のことが重要だ。情報がちゃんと伝われば災害の規模を極限できるかもしれないんだから。

さてそれはそれとして世界同時株安の畏れがでてきている。そこらへんのメディアの報道をみると「米国の株だけが頼りだ」という意見がある。しかし米国の株価がバブル状態にあることは誰の目にも明白。ということは彼らの意見が正しいとすれば世界経済は「お前はもう死んでいる」状態なわけだ。

さてそうこうしている間に北朝鮮がまたもやミサイルをぶっ放してくれた。この前発射されたのは5年前。防衛予算の折衝が行われている最中であり、某所では「天佑」との声もあがったとかいう失礼な冗談もあった。(真実ではないので誤解しないように)

さて今回のはちょっと問題が大きい。最初は日本海に着弾したということだった。これだけでも何の警告も無しに、公海上にミサイルをぶっ放すなど正気のさたではない。特に防衛庁がミサイルの試射を海上で行うさいにどれほど安全確保に気を使っているか知っている者にとっては"Are you crazy?"としか言いようがない。

ところがその後なんと発射されたミサイルは2段式で、日本海に着弾したのはブースター。2段目は太平洋に着弾したという情報が流れだした。防衛庁は情報の確認に大わらわ、ということになっている。韓国軍部からは着弾点の座標まで流れてきている。米軍は「初めて聞いた」と言っている。この両者の情報はどちらもそのまま受け取ることはできない。韓国は従来悪い側に間違った情報を流したこともあるし、米軍は大きな事故などがあった際にはとぼけた情報を流すことでも有名だ。

興味があるのは、ミサイルの発射と着弾をどうやって探知したかである。防衛庁が現在所有しているレーダーでは今回のミサイルの探知は○○○○。韓国が太平洋に着弾したミサイルの座標をどうやって入手したのか?米国から流れてきた発射の情報はどこのレーダーで探知したのか?防衛庁は本当に何の情報も得ていないのか?(この可能性のほうが遙かに高いが)それとも事態のあまりの重大さにしらばっくれているだけなのか?

いずれにしてもこの情報が万が一真実だとすると状況はとんでもないことになる。このミサイルは今まで試射したことが無かったはずだ(所詮北朝鮮から1000kmを超える射場はとれないのだ)ということは計画通りミサイルが太平洋上に着弾するという保証は何もなかったことになる。(技術者であれば実際に試験していない機器が計算通り動くなどということが期待できないことは理解してもらえるだろう)

とういことはそのミサイルは日本の東北地方に着弾したかもしれないのだ。弾頭がついていたか、ついていなかったかなどは問題ではない。どの国が相手の承認もなしに、その国の上空を通過するミサイルの発射などをするだろう。あるいはこの「試験」は日本に対する「攻撃」となったかもしれないのだ。この事態に至っても某社の「ニュースステーション」は平和に長銀のニュースなど自らが裁くがごとく報道している。

もう一つわからないのは、今回の発射の目的を「金正日の国家主席就任を前にしたデモンストレーション」とする向きが多いが、そのわりには北朝鮮で国内向けの発表がないことだ。あの国であれば間髪をいれずに「偉大なるチェチェ思想の成果」を誇り「傲慢な米国、日本に対する警告」を発してもおかしくないのに。

一つ考えられるのは金正日あるいは西側へ融和を計っている勢力に対する軍部の独走という図式だ。こうした試験を行えば融和の動きにブレーキがかかることは間違いない。そして自分たちだけの利益を考えそうした行動に走る人間がいないと誰が言えよう。金正日が主席就任までにこれほどの時間を要したと言うことは国内の不統一を示しているかもしれないのだ。

これがもし米国であれば、今頃報復の攻撃態勢にはいっているころだろう。それどころかトマホークを20発位発射しているかもしれない。日本の平和ボケもここに極まれりというところか。

NHKの11時のニュースに江畑とかいう「軍事評論家」がでてきて駄弁をふるっていた。「このような他国をまたがっての発射試験というのは聞いたことがない」「これが輸出されたら問題だ」などとうすら笑いを浮かべてまるで人ごとのような話しぶりだ。次のミサイル試射がどこに落ちるかは神のみぞ知るところだ。この「軍事評論家」も自分の家の上にミサイルがおちれば少しはまともなことをしゃべるようになるだろうか。

おもしろいことだが、NHKで映し出された「北朝鮮から射程1300kmの範囲」は何故か東京が覆域にはいっていないことになっている。誰がどう線を引いても北朝鮮の日本海沿岸から1300kmの円をかけば東京がはいることは明白なのに。何か政府からの指導があるのだろうか。

 

1998/9/2

さて親愛なる金正日同士は相変わらずいろいろとやってくれる。今日朝鮮中央通信が「日本が騒いでいるのは軽率で僭越だ。これは我々の自主権に属する問題である。いろいろな国がたくさんミサイルを保有しているのに我が国だけを避難するのは敵視政策でありやめるべきだ」というコメントを発表した。

実家に帰ってみれば、北朝鮮など遠い国と思い、そろそろ防衛費は減らしてもいいんじゃないかと思っていた母までが「敵視政策」に転向している。馬鹿な事をしたものだ。日本人はたとえそれがどんな理不尽な言葉であれ、非難されれば「きっと自分たちにも非があるに違いない」と思うから、細かいニュースなどに興味がない日本の一般大衆を味方につけることは簡単だったのに。どんなでたらめをやっても「悪いのは日本が我が国を敵視しているからだ」と叫んでいればよかったものを。

しかし上記のコメントはある意味興味深い。北朝鮮と中国は何をやっても絶対に自分の非を認める事はない。先日またもやあった潜水艇進入事件でも結局「非難をこれ以上しない」と言っただけで言葉上は一切自分の非を認めていないのだ。そう考えれば前記のコメントは「自分の非を認めない」という制約の中で、最大限に穏健な表現を使ったともとれるのだが。少なくとも彼らは自分たちの「ミサイル技術の進歩における偉大な成果」を誇ることもせず、「日本に向けて発射したのは、日本帝国主義の脅威から祖国を防衛する決意を表した物だ」とも言っていないのである。彼らの常日頃の発表からするとこれくらいの事は言ってもおかしくないのに。

さてこれまた親愛なる我が国の自衛隊は「イージスが着弾をレーダーでとらえていた」と自らの存在意義を誇示する発表をやってのけた。どこからもれたか知らないが、これも北朝鮮並の愚かな考え方だ。「海上自衛隊イージス担当」にとってみればこれは「誇るべき成果」だが自衛隊全体からみれば「何故イージスが太平洋に弾頭が落下したことを探知していながら、発表があれほど遅れたか」ととられるからだ。畢竟自衛隊が有事において的確に情報を収集することができず、よしんば収集できたとしてもそれを迅速に解析、処理できないことを自分で露呈してしまったようなものだ。

全てのメディアが「北朝鮮の意図は」と分析を試みている。私はもちろん説得力のある分析などできないが、売り物にならない可能性を一つあげてみよう。「北朝鮮には統一された意志がない」というのはどうだろうか。太平洋戦争前の日本と同じ状態である。不思議なことだが、言葉の上から行くと一枚岩になりそうな独裁国家においてこうした状況は起こりやすい。要するにさっき述べた自衛隊の発表のように、各部署がてんでんばらばらに勝手な事をやっているという状態だ。

さて各新聞を読んでみるとそこらかしこから「軍事評論家」なる肩書きを持った方々がわいてきている。彼らの意見を読むと爆笑物が結構あるのだが、まあこれも日本が平和な国であることの証ととるべきか。江畑という妙な髪型をしているおじさんも得意げにNHKでしゃべっているが彼が日本に配備されているPatriot - PAC2の性能についてしゃべっているのを聞くと、あまり勉強をしていないようだ。公刊資料だけでももうちょっと正確なことが言えるはずなのだが。

さていつもは「とにかく日本政府は悪い」と言っているメディアもさすがに今回は慎重なようだ。でているのは「この事件が一部ナショナリストを刺激することがないように」という北朝鮮中央通信のような論調と「TMDを導入するというが、TMDは命中率が悪い」という情緒的な表現だ。彼らの言い方によると湾岸戦争でPatriotの命中率は9%だったそうだが、彼らは何%だったら命中率が良いと言うのだろうか。9%の命中率がある対抗手段を持つのと、対抗手段が一切ないのとを同一視するつもりなのだろうか。

 

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注釈

「嘘」を「間違った印象、誤解を招いた」と言って、受け取り側にも責任にがあるかのように:(トピック一覧)これは基本的な詭弁のテクニックだと思う。一つ例をあげておこう。私が勤めていた会社である年の4月からいきなり「残業0」という方針が示された。それまで残業の上限が55時間(+サービス残業)だった我々は大騒ぎである。それに対して管理職の説明は「作業効率をあげればできる。とにかく残業を0にしろとしか聞いていない」だった。

この「大方針」は3月30日の部長会でいきなり決定され労働組合にも説明無しに実施された。当然会社側と労組の間で大問題となった。その時の会社側の説明がふるっている。

「意識改革を狙いとして4月から「原則定時体勢」をとったが、その趣旨は「オール定時」ではなくて「できるだけ定時間内で仕事を消化しよう」ということであり、。。。。その趣旨の伝達の仕方が不十分で社員に伝わる過程で強制的なニュアンスを含むものとなってしまったのではないかと受け止めている。」

ここでは悪かったのは「とにかく残業0」という判断そのものではなく、伝達の仕方、またそれを誤解してとった社員であると言っているのである。つまりClitonと同じく自分が何を意図的に何をしたかを棚に上げて「誤解を招いたのは遺憾だ」と言っているのである。 本文に戻る

 

世の中の人の多くは理屈ではなく感情で物事を判断する:(トピック一覧)理屈などとなえても「理屈っぽい」と言われるだけだ。本文に戻る

 

日本人はたとえそれがどんな理不尽な言葉であれ、非難されれば「きっと自分たちにも非があるに違いない」と思う:(トピック一覧)私はこれは「何か非難されればそれはお前のせいだと言い張る」多くの国にくらべればずっと良いことだと思う。本文に戻る

 

北朝鮮と中国は何をやっても絶対に自分の非を認める事はない:(トピック一覧)もっとも大抵の国はこうかもしれないが。中国はちょっとでも自分の国に非難があがるとムキになって反論しすぎる傾向があるようだ。Seven Years in Tibetにも丁寧に非難をしていた。本文に戻る