題名:2002 FIFA World Cup Official Concert

-International Day

五郎の入り口に戻る

日付:2001/7/5


(サンケイスポーツより)

B’z、世界進出だ! 

日本が誇るロックデュオ、B’zが27日、東京・調布市の東京スタジアムで行われたW杯の公式コンサートに登場し、約5万人の観衆の前で超ド迫力なステージを披露した。コンサートには米のロックバンド、エアロスミスも参加。サッカーW杯に負けない日米の豪華“W唱”に、全世界がシビれた。

(中略)

W杯公式コンサートで、「インターナショナルデー」と銘打ったこの日のライブ。B’zの出演は、FIFA(国際サッカー連盟)の要請で先に出演が決まっていた米ロックバンド、エアロスミスからの指名で決まったという。

4年前、テレビ朝日系「ミュージックステーション」に出演したエアロのボーカル、スティーブン・タイラーが、共演したB’zの演奏を聴いて大いに感銘。それが、きっかけでこの日のビッグ共演が実現した。「エアロの前で最高のパフォーマンスをしたい!」。燃えないわけがない。

さらに、この日の模様は、FIFA経由で全世界に配信された。シングルで29曲連続初登場1位という、前人未到の日本記録を持つ2人が、東京から世界へと、確実に踏み出したことは間違いない。

(引用ここまで)

----

午後3時に「ではおじさんは逃げる。今日はコンサートなのだ」と言い残し会社を後にする。フルフレックスというのはこういうことができるのがありがたいところだ。しかし外は雨模様。チケットを見返してみると「雨天決行、ポンチョを配布します」とか書いてある。荷物が多くなるといやなので小さな折り畳みの傘だけをもって東京スタジアムに向かう。

一度電車を乗り換えると結構混んでいる。耳にはいってくる会話を聞くともなしに聞くとコンサートに行く人ばかりのようだ。若い者達がB'zがどうのこうのと言っているがおじさんはその言葉が何を意味するかもよく知らないのだよ。とにかく今日はAerosmithがでるのだ。電車を降りると膨大な数の人がいる。幸いにして雨は頑固に降っているが小降りだ。傘をさして歩き始める。

駅の階段を下りたところで聞き慣れた「はいアリーナあるよアリーナ」とかいう声が聞こえてくる。そこをくぐりぬけると道ばたに人が紙をもって並んでいる。なんだろうと思えばダフ屋を通さずにチケットを売りたいという人の列であった。Need ticketとかいってチケットを買いたい人を見たことはあるが売りたい人は初めて見た。雨の中彼と彼女たちはだまって辛抱強く立っている。話しかけている人を一人もみなかったがあの努力ははたして報われるのであろうか。

果てしない人の列に従ってひたすら歩いていく。声に導かれるままにひたすら歩く。アリーナの入り口はどうやら裏にあるらしい。ただ歩く。ようやく入り口が見えてきた。

入り口では厳重な手荷物検査がなされている。私は「にやっ」と笑い手に持った傘を係員に見せる。ほれほれ、ちぇっくしてごらん。簡単にゲートをくぐるとまずパンフレットを渡される。つぎに待望のポンチョだ。このチケットを受け取ったのは5月の26日。戸外でコンサートをやっているときだった。初夏の日差しは私をノックアウトせんばかりにふりそそぎ、出演した三〇分の間めまいを起こさなかったのは僥倖であった。今からこんなんでは一ヶ月後はどれほど暑いのだろう。人がたくさんあつまるからその熱気もすごかろう、などと漫然と想像していたのだが、今日は第一に雨が降っている。第二に寒い。ビニールから取り出すとさっそくポンチョを羽織る。周りもあらかたポンチョを来ているのだが、自前の雨具を着ている人もいる。さらにはいかにもロッカーでございます、という格好をして雨などふっていないかのようにふるまっている人もいる。そうした人たちは例外なくやせ形で頬がこけている。ああ、これがロックの魂というものであろうか。

今日は開場が三時、開始が五時である。天気がよければ早めに席についてのんびりとしたいところだが状況はその反対である。とりあえず、と思いトイレを探すが見つかるのは臨時トイレばかり。まあこれでも問題はなかろうと思い使ってみる。

次にご飯を食べることを思いつく。フライドチキンを買ったのはいいが、手をふくものを何ももらえなかったことに気がつく。なかなかおいしいが手は油でべとべとになる。更に大量の油が体内に摂取されたことになるのだが気にしない。晩飯はこれだけで足りるのだろうかとも思うがそれ以上食べる気もしない。席に行く前にもう一度、と思いトイレに行く。前より行列がのびている。しかし文句は言えない物で女性の列は三倍くらい有る。こういう時は

「よくぞ男に生まれたものだ」

という感慨を強くする。後ろで話している声が聞こえる。なんだこの長い列は。まったくスタジアムの構造がなっていない。だからこの国はだめなんだ。このワールドカップというイベントのおかげで「にわかサッカーアナリスト」やら「にわか”お国について評論しちゃうぞ”家」がずいぶん増殖したように思える。「にわか軍事アナリスト」が増殖する戦争よりもずっとましなことだけは確かだが。

さて、と指定された席に向かう。ステージにむかって心持ち左より、前から三列目の席である。近づくにつれて自分の席が解ってくる。あれ、誰かが隣にいて荷物おいてるぞ、と思い近づいてみればCowである。私は

「野外コンサート日和だな」

と挨拶する。彼は黙って荷物をどけてくれた。そもそも怠け者で何もしたがらない私がなぜこのコンサートにくることができたか、と言えば彼から売ってもらったのである。前を見ればステージの細部まであれこれ観ることができる。今までこういうコンサートは巨大スクリーンを観るか遠く遠くの人間を観るかしかなかったのだが今日は本当に演奏をしている人間を観ることができそうだ。Cowに感謝である。

と感謝の念に燃えるのはいいのだが、とりあえず今できることはない。公式パンフレットを椅子におきその上に座る。フードをかぶっているからあまりぬれることはないのだが、周りの様子がよくわからない。音も聞こえない。あら、足と足の間にこんなに水がたまっている。ちゃぱちゃぱと遊んでいるうちになにやらステージの上で動きがある。まだ時間前だが、と思っていると黒い服をきた男性と女性がでてきた。ウィーン・オペレッタ管弦楽団という文字が出る。

彼らは数曲を演奏した。なかなか軽快で明るい曲だが大半のものは聞いたことがない。カメラがかわるがわる演奏している人間を映し出す。本当のクラシックのコンサートではちゃんと曲に合わせ主旋律を奏でる人間を写したりするらしいのだが、今日は根がRockのコンサート。彼らの美的センスに当てはまるとおぼしき人ばかりうつす。クラリネット奏者がなかなかきれいな女性なのだが何もクラリネットが主旋律を奏でているわけではないのによく映る。後ろの方の列にちょっと長髪で日本人受けするであろう容姿の若いバイオリン奏者がおり、彼もよく映る。不幸にして彼は指揮者のほぼ横に座っており、指揮者の方を観るたびにステージ後方にあるスクリーンが目に入る位置にいるのだ。でもって自分が大写しになるとそのスクリーンが気になってしかたがないらしい。視線がそちらに流れる。彼の気持ちはわかるが、その様子が何万人に見られていることはたぶん気がついていないのではないか。

美しき青きドナウ(だったか)をやって最後はウィーンフィルがNew Yearコンサートで最後にやる曲をやってくれる。指揮者が観客の方を向き、さあ拍手。こっからは静かに、さてまた拍手とやってくれる。まだ観客席は空席ばかりだが雨の中白いポンチョをきて座っている観客はそれに併せて素直に拍手をする。スクリーンを観れば演奏している人たちも笑顔を浮かべている。彼らにしてもロックバンドの前座で雇われ、ステージにでてみれば雨の中合羽をかぶったアジア人ばかり。「何だこれは」と思っていた部分もあるのではないか。拍手が響き笑顔が広がる。なんだかご機嫌な気分になる。

さてそれが終わると指揮者がひっこみなにやらあやしげな楽器をもった人がでてくる。知らなかったのだがT-Squareとかいう人たちらしい。名前は知っていたが顔は初めて見た。2001年宇宙の旅で使われていた曲をアレンジしたものを編曲者の指揮で演奏する。曲自体は特にどうということなく、T-sauareの人が使っている楽器は不思議なものだなあとかばかり考えている。そのうち演奏が終わり拍手をぱちぱちする。うまいぞー、誰だかしらないけど。

そこからしばらく雨にうたれる。かなりの時間の後ステージ上に和太鼓がならびふんどし一丁のおにいさんがぼこぼこたたき始める。鼓童とかいう和太鼓のステージらしいのだが、とりあえずお兄さんが一人でたたき続けている。その体力には感心するが奏でられる音自体は対して印象的でもない。どこで得た情報が覚えていないが、ホモの方達の間でこの和太鼓をたたくお兄さんというのが妙な人気をとっていると聞いた事がある。このお兄さんの後ろ姿を観てその方面に目覚める人などいるのだろうかなどとCowと話す。そのうち人がぞろぞろでてきて太鼓をたたきはじめ、それまで一人でがんばっていたおじさんは引っ込む。私はトイレに行くことにした。まだ先は長い。

アリーナの後列にいくと女性の列があることに気がつく。もしやと思ったがやはりこれがトイレの列なのであった。男性の列ものびているが女性のそれに比べれば数分の一ではなかろうか。のんびり待つ。しかし寒いし体が冷えてしまっているから飛んだりはねたり適当に動く。後ろではカップルが並んでいるがどうやら女性も男性トイレにはいろうとしているらしい。トイレが混んでいる所ではよくあることだが、女性は男性の列に並ぶことができるのに逆をやると間違いなく痴漢と糾弾されるのは、男性差別であり許し難い、などと言ったところでなんにもならないのがこの世の中というものだが。

そのうち太鼓の音が聞こえなくなる。人々が時々走っていくから始まったのかと思えばそういうわけでもない。いつしか順番は回ってきて事なきを得る。しかしいきなりお腹が痛くなった人とかどうするのだろう。席に戻るとぼんやり待つ。だんだん人が来て見える範囲では空席は無くなった。後ろには我々と同じ年代と思われる男性が座っているが、他はほとんどB'zファンとおぼしき若い女性ばかりである。

そのうちスクリーンに何かが映り、周りの人たちが一斉に立ち上がり歓声をあげる。これがB'zの人たちであろうか。この瞬間まで

「カラオケで他人が歌った曲を”誰の歌だ”と訪ねるとB'zという答えが返ってくることがある」

としか認識していなかったこの名前だがどうやら実体は二人の男性らしい。それらはきっと有名な曲なのだろう。周りの人たちは映像に合わせて歌ったりはねたり大騒ぎである。とはいっても本物はいつになったら出てくるのだろう。ビデオの中で

「じゃあ屋上に行くか」

とB'zの人たちが言う。本当にでてくるかと周りの期待は高まるが結局何も起こらない。

待つことしばらくようやくB'zの人たちが現れる。ギターの人はぼんやりした顔をしている。ボーカルの人はそれなりに2枚目だがすぐ飽きがくる顔である。演奏が始まると周りは大喜びだがこちらはほえーとするだけだ。ただ周りが全員立ち上がっているからステージ観るためには立ち上がらなくてはいけない。ステージの上ではボーカルの人がぴょんぴょんはねる。やはりボーカリストは跳ねなくてはならぬのか、などと観察する。しかしそのうち飽きてくる。曲が終わると拍手をしたいと思うのだが、人体が密集している状態では拍手をするための空間を確保するのも大変だ。体の側方に手をださないと手をたたくこともおぼつかない。ましてや手を振り上げたりすれば間違いなくそこらへんの人間をノックアウトすることだろう。おまけに周りは女性ばかりで私は頭一つ抜きでている。横幅だって必要以上にある。B'zというのが何者かも知らぬ男がこうして体積を使用し、かつ人の視界をさえぎっていいものだろうか。いやよくない、と考えおとなしく座ることにした。正面の巨大スクリーンでステージの様子はわかる。

後から知ったことだがこの日はサッカーの試合時間に合わせ90分演奏したとのこと。何曲やったのか知らないがどれを聞いても同じ曲に聞こえる。これは

「最近のアイドルはみんな同じ顔をしている」

と同じ陳腐な年寄りの戯言だとは思うが私の頭にはその感慨しか浮かばない。ボーカルの人は時々しゃべるがボケているのかまじめなのかさっぱりわからない。

ボーカルの人「ちょと椅子に座っていいですか」

「あははははは」(後ろから響く女性の笑い声)

ボーカルの人「別に疲れたわけじゃないんです」

「あははははははは」(同2行上)

ファンというのはありがたい物だ。そのうちだんだん眠くなってきた。森高千里という人がローリングストーンズのコンサートに行って退屈で眠ってしまったという話を聞いたことがあるが同じ事が私の身に降りかかろうとしているのか。しかし単調な曲の連続ではいかんともしがたい。歌詞を聴いてみようとも思うがギンギン声が響くだけで何を言っているのかさっぱりわからない。

などとうだうだ考えている時とんでもないベースの音が鳴り響き思わず立ち上がる。(ベースの人はスクリーンに映らないのだ)ベースの人とドラムの人は白人なのだが、そのベースの人がものすごい勢いで弦をはじきまくる。そのうち

「この人はベースでHighway Starのギターソロを弾くことができるのではないか」

という幻想にとらわれる。そこからしばらく立ち上がってステージの様子を見る。するとベースの人は観客が見ていまいが、スクリーンに映るまいがそんなことは気にせず熱演を続ける。ボーカルの人が張り出しのほうに走ってくる。みんなそちらを観る。しかしその男は歌っておらずステージ中央ではギターとベースがかっこいいメロディーを奏でているのだ。あの見飽きた顔を見るよりはそちらを観ているほうが楽しい。

そんなことをしているうちに、私でも聞いたことがある(誰かがカラオケで歌っているのを、だが)曲が演奏され花火がうちあがっておしまいとなった。これからまた長い長い設定替えの時間。雨は一時やみかけたがまた降ってきた。一度はポンチョを脱いだ人たちも再び着ている。

どれくらい待ったのだろう、周りはすっかり暗くなっている。ふと後ろを振り返ると開場は真っ白だ。みなポンチョを着ているから。ただスタンド席には屋根があり、その下はいろとりどりの服装をしている。アリーナというのは通常好ましい場所とされるが今日に限って言えば何かと大変である。

時計をベルトの位置に着けているので前が開かないポンチョを着ると時間の確認がしづらいし、確認したところで準備時間が縮まるわけでもない。そのうちスクリーンにAerosmithの映像が流れ出した。メンバーが「一度きりの公演で悪いな」とか言っている。その後プロモーションビデオが流れるがB'zの時のように周りが立ち上がるわけでもない。しかしそれを観ていると、ああ、あのB'zのビデオは単調だったし、お金もかかってなかったのだなあと今更ながらに思う。

そのうち歓声と共にAerosmithの人たちが登場だ。Steven Tylerは巨大なサングラスをかけている。上腕部に何か書いてあると思えば、右腕が「夏娘」左腕が「必勝」。なんだこれは。彼が歌い始めるとすぐに

「をを」と感嘆する。何だこの声は。何だこの曲は。高校受験の時だから14才(!)私は姉が録音したカセットなど流しながら勉強をしていた。お気に入りのテープにQueenのWe are the champions, EaglesのHotel Californiaがあったことは覚えている。同じテープにあったDream on という曲がAerosmithというバンドのものだということは知っていたのだがDraw the lineもそうだ、ということはこの日初めて知った。25年後に気づいた訳である。この曲では間奏の後にボーカルの人が裏声だか”連続する倍音シャウト”だかでわめきまくる部分がある。その後は普通の声になってDraw the lineとか言っている。この男の声帯は一体どういう構造になっているのだろう。私があれだけ裏声でわめいたらしばらくは声がでないだろうに

途中で一度ギターの人がブルースを歌う。Aerosmithが結成された時にはまだ産まれていなかったであろう周りの女の子達もご機嫌にはねたりわめいたりしている。Steven Tylerはバックコーラスに回るのだが、それでもちゃんと歌っている。そのうち疑問が生じる。この男はいつ休んでいるのだ。さっきから歌って動き回っての連続ではないか。息を切らすということはないのか。こいつの心臓はいくつあるのだ。

うちのバンドでAerosmithの曲を3曲やったことがあるが、聞いているうちにそれはとんでもなく無謀なことではなかったかと思えてきた。映画Armageddonで使われていたI don't wanna miss a thingという曲では最後のところで「倍音シャウト」が使われている。私は単純に裏声で歌ったら後から

「あの曲はやらない方がいいと思う」

という感想をもらった。ええい、うるさい、などと思ったがこの男の声を聞いているとその感想の方が正しいのではないかと思えてくる。彼らのEat the richという曲を歌うと私は息もたえだえになるのだが、この男はなんなくゲラゲラと歌うのだろうな。曲調の変化もあり、小道具(手で持つ拡声器)を使った曲あり。正直言ってこの日やった曲の多くは私にとって初めて聞く物なのだが、それでもいつのまにかご機嫌な気分になっているのはなぜだろう。

さて、彼らは一度ひっこんだが拍手は鳴りやまない。このころから周りから人がぽつぽつ消えていく。時計を観ればもう10時。そろそろ帰りが心配な時間だ。自分はなんとかならあなと思いそのまま見続ける。数曲やった後ステージに誰かが上がってきた。

髪が長いから最初は女性ギタリストかと思ったが、スクリーンをよく見ればそれはB'zのギターの人なのであった。こういう企画であるからして最後に一緒にやりましょう、ということなのだろう。私は和太鼓や管弦楽団の人たちまででてくるかと不安と期待相半ばしていたのだが、そうしたことはないようだ。まもなく演奏が始まる。

B'zのボーカルの人が最初のワンフレーズを歌う。その後Steven Tylerが歌う。演奏がどんちゃが続く。そのうち一本のマイクで、Steven TylerとB'zのボーカルの人が交互にシャウトしだす。私にはこう聞こえた。

"Gzaakdcha!" Steven Tyler

"....いえい..." B'Zのボーカルの人

"Yeahhzhg!" Steven Tyler

"....いえい.." B'Zのボーカルの人

これは想像だが、おそらく両者の声量に極端な差異があり、それが一本のマイクを共有することでもろに示されてしまったということではないのだろうか。

さて、ボーカルがひとしきり歌うと今度は「勝ち抜きギター合戦」である。私が聞いた感じでは以下のようであった。

"ひゃらひりちゅぃーんひゃらりらりらりちゅちゅちゅいーん"
Aerosmithのギターの人その1

"ちょいーーん  ちょ  ち  ちょいーーん"
B'zのギターの人

"ひりひりひゃららららららひーんひーんひーんひゃららひーん"
Aerosmithのギターの人その2

聞いているうちにある光景が頭に浮かぶ。何年か前に観たサッカーの日本ーフランス戦。最終スコアは0−5だったがフランスが手加減しなければ20点でもはいったと思われたあの試合だ。ああ、おじさんたち。少しは手加減してやれよ。まだ歌は続いているが、B'zのボーカルの人は所在なさげにうろうろしている。

かくしてコンサートは大歓声の中めでたくお開きとなる。さて、退場だとは思う物の「整列退場にご協力ください」というアナウンスが流れ、アリーナはスタンド席より後。そしてアリーナの前列は後列より後。つまるところ我々が席を離れたのは一番最後である。

そこからCowと話をしながらゆっくりゆっくり駅に向かう。全員50すぎであの演奏。うちのバンドもあと10年はがんばらなくては。しかしどんな生活してるのかなあ。朝5時におきてジョギングして食べるものは野菜中心という無茶苦茶健康的な生活を送っているのかな。そんな事をしゃべりながらの歩みはめちゃくちゃのろいのだが、誰も押したりしないからのんびりしたものである。スタジアムの近くからバスがでているのだが、後から考えれば多少ならんでもあれに乗った方が正解だった。少し歩く。だいぶ止まる。少し歩く。ながーく止まる。その繰り返しである。幸いにも雨は上がっているし暑くもない。ただのんびりと忍耐をもって前に進む。

そのうち道ばたにB'zの人の写真を売っているのが見えてきた。これが見事なくらいにボーカルの人ばかりである。ああ、やはりあのギターの人では写真を売ることはできないのだろうか。きゃーとかいって女性達が人混みの中をそちらに駆けていく。ファンというのものはありがたいものだ。B'zの人達は今日のセッションをどのように受け止めたのだろう。「あこがれのAerosmith」と競演できて幸せ、いい思い出になったと思ったのか。あるいは同じプロのミュージシャンなのに、と思ったのか。

などと人の心境に思いをはせている場合ではないのだが、そうして無意味な妄想を広げることくらいしかやることがないのも事実だ。ごりごり歩く。道の左側と右側に歩道があり、なんとなく左側を選んだのだが正解は右側だったことが最後になってわかった。駅の階段も人間で充満している。しかしそこをあがれば後は結構楽だった。やれやれと思い電車に乗ったら11時半をすぎている。Cowは12時までに宿に着けないということで、新しい宿を予約している。こちらはどうしたものか。Cowが持っている終電案内を観て頭をひねること数分。12時42分品川発の最終に乗ることを考える。さすがにこれには間に合うだろうと思って行ったが、あと2分送れたら品川で夜を明かすところだった。

翌日私は半ばゾンビのようになっていたが(私は普段9時半に寝る人なのだ)ご機嫌であった。持っているCDをごそごそ探し、Aerosmithの曲をかたっぱしからMP3に変換する。さあ、あのすばらしい曲がと思い聞いてみるとLiveでないそれらはどこか間が抜けている。あの爆発する歌声、それに演奏はやはり目の当たりにしなければならないのかもしれない。


注釈

私が聞いた感じ:会社に同じコンサートに行ったB'zファンの人がいたのであるが、この「勝ち抜きギター合戦」には同じ感想を述べていた。本文に戻る