再訪 青山高原ウインドファーム
(2007/03/20)

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日付:2007/4/3


前回見学したのは4年前、2003年5月でした。
そのときは霧の濃い日で、風車が回っている音は聞こえましたが、羽根や発電機は殆ど見ることができませんでした。
今回も前回同様、電気学会の見学会でしたが、晴天に恵まれ、単機容量750キロワットの風車発電機群が盛んに発電している様子を見ることができました。



いつも申し上げているとおり、風力 発電所でも、潮力発電所でも、地元がオーケーしたうえで、お金をかけさえすれば、どれだけでもでも建設することはできま す。
日本だって、アメリカの600万キロワット、ドイツの1400万キロワットより沢山作ることは可能です。
問題は、その作った発電所からどれだけの電気が出てくるかなのです。
それによって、どれだけ炭酸ガスの排出を抑えられるのか、石油資源をどれだけ長持ちさせられるのか、また、そのための国民の経済負担がどれほどになるかが 決まるのです。

試みに、インターネットで風力発電の項に入ってみてください。
次々と出てくるものは、自然エネルギーとしてそのクリーンさを讃えるもの、風力発電設備の構造や規模、そして製造販売元の広告などです。
どのように風が吹いてどんな発電ができたのかという、運転の実績は探すのがとても難しいのです。

すこし具体的に「青山高原ウインドファーム」で入ってみてください。作った側が、その目的、設備の概要、アクセスをあげ、観光地とし てPRしている雰囲気であります。また、訪れた人たちも綺麗なエネルギーであるとして感心し、また観光地として楽しんでいる様子であります。

極端な例は、つくば市で試みられた風力発電です。環境庁から「環境と経済の好循環モデル」として採択され、7.5億円を投じ作られた 10キロワット23台の設備でした。現実に運転してみたら、出てきた電気は計画の600分の1でした。
厳しい追及に、市側は「子供達は今どんなエネルギーが必要かを考えたとき、必ず風車とか太陽エネルギーとか言う。それをつくばでは、いちはやく動機付けモ チベーションを高めた」と答弁したとのことです。
例の2チャンネルの無責任子たちからは、「子供達に、環境屋たちの観念論に騙されるとどんなひどいことになるのかを教えるモチベーションになっただろう」 とか「設備の撤去を子供達にやらせて、安易な失敗プロジェクトを収拾する困難さや危険さも体験させるべきだろう」などと意地悪な発言が飛び交っていまし た。

今回は、青山高原ウインドファームの運転実績を伺ってみました。
27パーセント強の利用率を上げておられるそうです。1年365日のあいだに、約100日フル発電した量の電気が出たことになります。
管見によれば、日本各地の風力発電の利用率は、良くても20パーセントを多少上回った辺りのようです。
ここ青山高原ウインドファームではそれらと比べて、約30パーセントも多く電気が出てきているのです。つまり、炭酸ガスの削減も3割大きく、値段が3割も 安い電気が作られているのです。
風が良く吹く地点が得られたこと、安定した機械装置を選択したこと、きめ細かい保守点検を行っていることなどの成果でありましょう。付け加えれば、落雷が なく壊されなかった運の強さもあるのです。
少ない負担でクリーンエネルギーを使うことができるのですから、国としても、中部電力のお客としても感謝するべきであります。

今回の見学会はこのあと、富士電機グループの鈴鹿工場群を見せていただきました。
2点、印象的なことがありました。

見学を終わった後で質疑応答がありました。
かって私も現役だった頃には、見学を受け入れたことが何回もありました。
見学会の最後は、「短い時間ですが、2〜3ご質問をお受けします」と申しあげ、それにたいして、やさしい質問が二つ、三つあり、そしてお開きと、流れるよ うに終わるのがスマートです。
今回の見学グループの殆どは学生さんでした。なかなかスムースに最初の質問が出てきません。そこで口切りを、この老人が屁のような質問で勤めました。
ところが、それに続いた学生さんの質問には度肝を抜かれました。
「工場の空気が、澱んでいるというか汚れているように感じました。働いている人の健康のことを考えてあげて欲しいと思います」。
よそのお宅に伺ったとき「随分散らかしてますね。子供さんが怪我などさせないように注意しなさい」と言うようなものです。
こういう人は特別な人で、将来、きっと社会部記者になるのでしょう。
それとも、最近の若い人たちは、こんなようにツッコミを入れ、また入れられても気にしないで受け流す、そんなような生活をしているのでしょうか。

ヨーロッパ向けの製品を作るラインには、グリーンの札が掛かっていました。その製造ラインでは。鉛とか六価クロムとか公害物質として 聞いたことがあるような物質を一切使っておらず、また、ほかのラインと工具なども混じって使われたりしないようにしているのだそうです。
将来、知見が豊富になるにしたがって、禁忌物質は増えてゆくのでしょう。
昔、アメリカのハインツの缶詰工場で、Jというマークはユダヤの人向けのラインで、豚の気のあるものが混入しないようにしていたことを思い出しました。
日本人だって牛肉のBSE問題では、2億人にもおよぶ肉食人種が首を傾げるような条件をつけています。
ムキになって反論される危険を冒して申し上げれば、ホモサピエンス、とくにヨーロッパ人は、科学的知見を超えた魔女裁判を肯定する要素が強いように感ぜら れるのです。
グリーンピースと称した思いこみの激しい一団の栄枯盛衰を思い合わせると、わたしの感想もそんなに奇矯な意見ではないだろうと思うのです。

そうそう、質疑応答の冒頭に質問する人は、どんな性格の持ち主なのかという問題があります。
昔、株主総会の冒頭質問で、ご老体が「会社は太陽発電をどんどん進めなさい」と発言されました。
もちろん「お説の通り、太陽光発電を進めてまいります」との回答がなされました。でも、専門家たちは、この人は太陽光発電がどんなものなのかを、あまりご 存じにならないなと、心の中で感じていたのも事実であります。
私も今や、能天気に、こんな冒頭質問をする年頃になっているのです。
この拙文について、なにかお気に障られました折りには、「年齢だから」と、ご容赦下さいますように。

年齢(とし)だから何でもこれで許される 筒美康平 (サラ川より)

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