題名:YDの逆襲

五郎の入り口に戻る

日付:1999/7/5

事のはじまり 前半戦 後半戦


後半戦

店をでると駐車場に向かったbunをほっぽらかして我々はとにかく名古屋駅方面に移動し始めた。目指すのは女性ご推奨の最初の待ち合わせ場所であるレジャックの中の喫茶店である。

その間の道、私はYDとあれこれ話していた。彼はこの「大坪家の書庫」をすみからすみまで読んだ数少ない人の一人なのである。彼は「府中へ」の登場人物が本当は誰であるか見当がつかない、と言った。実はほとんどすべて彼が知った人間なのであるが。

確かに私も英語の試験会場でたくさんの知り合いにでっくわして驚いた。普段の姿からはああいう募集に応募するようには見えない人というのはたくさんいる。自分自身にとってもそうだが、とかく人の姿をちゃんと見極めるなんて事はとても難しいことのようだ。もっとも最高にわかりやすそうに見える人であってさえたぶんいろいろな顔を持っているのだろう。そうした多様性はたいていの場合人生を楽しく、興味深くしてくれるものであるのは幸いなことであるが。

さて、てれてれと歩いているうちに我々は目的とする喫茶店についた。ほれほれと奥の方に案内されて決まったのが以下の座席である。

科学館は明日の勤務の都合かあるいは電車の都合か忘れたが1次会が終わったところでさようならである。bunはかなりたってから来たので、最初は座っていない。従って集団見合い状態の席配置となったわけである。

最初のオーダーのところでやれウーロン茶がないだの、なんだので結構てまどった。もう酒は十分ということでみんなソフトドリンクをオーダーしたのである。コーヒーのたぐいを注文したのが3人で、内訳はエスプレッソを一つとカフェラテを二つだったのに、何故かエスプレッソがふたつきた。その瞬間我々は恐慌に落ちいった。これはどうしたものだろう。やはり文句をいって変えてもらおうか。しかしひょっとしたらカフェラテはもう終わっているのかもしれない。そうであればあたしはエスプレッソでいいわ、とメロンパンが言ったところで店員が飛んできた。やはり間違いだったようである。

やれやれと思ったところにようやくbunが到着した。彼は今日の蒸し暑い夜道を、地下鉄でまるまる一駅分歩いてきたようでほうほうのていである。彼の弁によれば、24時間営業している駐車場を探すのにてまどい、はるかはるか彼方の駐車場に止めたらしい。ここを出てから彼はまたたっぷり一駅分歩いて駐車場に戻るわけだ。彼の背中がこころなしか丸まって、疲労の極みに合ったようにみえたのは私の錯覚であっただろうか。

さてメンバーがそろったな。。と思ったら話はひょんなところから「勉強好きな人々」という話になった。今をさること18年前までの私はとても勉強が好きで、かつ得意な青年であった。当時の私は学力優秀、品行方正、部活と勉強に打ち込む真面目な人間であった。(女の子には縁がなかったが)しかるにそこからの凋落というのは目を覆わしめるものがある。今でも相変わらず勉強は好きだが、自分が嫌いなものを学ぶ、という素直さはどこかに消えてしまった。おまけにいまから考えれば「先生だの上司だのをなんとなく斜めの視線で見る」という態度はこのころ芽生えたような気がする。その結果はごらんの通りだ。

などということを考えていたら、メロンパンの家のいとこの話となった。なんとこのいとこは勉強が好きで好きで、仮にその家に遊びに行ったとしても勉強ばかりしていて顔を見せないのだそうである。ふーんと一同感心していると、のりかの家にもそういうのがいる、という話になった。次にローズが「あたしの家にもいるよ」と言ったがたぶんこれは違うケースだと思う。そのいとこは20歳になるかならないかのうちに亡くなってしまい全く知り合うチャンスがなかったということなのだが。

後一つだけ覚えている話題は職場の男女比の話題である。そこかしこで合コンドキュメンタリーに書いているが、我々がもと働いていた職場というのは男数十に対して女性1が存在している職場だ。おまけにその数十の男性の少なくとも1/3は前途有望な独身男性である。そのような職場ではいきおい女性は見る目だけが上達してしまい、自分がいかに恵まれた環境にいるかを忘れてしまう。これに対してYDが今いる職場はだいたい男性8:女性1の割合だそうだ。

逆にメロンパンが働いている職場では男性はいることはいるのだが、お年をめしたかたばかりだそうである。それに対して若い女性はてんこもり。かくのとおり世の中の男女というのは偏在しているのである。メロンパンによると彼女が勤めているビルの周りには他に2社同じ様な男女の年齢構成及び存在比率の会社があり、その3社を結ぶ線の内側は「魔のトライアングル」と呼ばれ怖れられているとのこと。

さてそんなこんなの話をしている間に、時間はまたたくまにすぎた。私はお昼寝をする暇もなくここに登場でよれよれである。そろそろカラータイマーがぴこぴこなったあげくに静かになる時間になったようだ。時計をみれば11時。そろそろ引き上げ時だろう。

私は「眠いよー。帰りたいよー」といったかどうか覚えていないがとにかく一同は帰途についた。エスカレータで地上に降りて信号待ちをしている間、bunがよってきて「大坪さん。帰るんですか」と聞いた。彼が言いたいことはわかっている。根がパンクのbunはこの後とても女性と一緒では歌えないような歌を歌いたいのだろう。実際一次会では「実はこの男は根がパンクですから、3.14.1592とかいう歌を歌うんですよ」と話のネタにしていたのである。私ももう少し力が残っていれば「いこういこう」と言うところであったが、この日は果たして家に帰り着くまで体力が維持できるかどうかもあやしい状況であった。誠に残念であったが「わりい。また今度な」と言った。

 

今から思えばこの日私はもう少し体力の配分に気を使って最後の最後まで-少なくともbunとからおけに言って騒ぐくらいの-力は残しておくべきだったのだ。この日は楽しく平和な合コンであった。従って当然色々な何かを考えるべきだったのだ。しかしながら体力がつきていた私には、杖をついてでも家にたどりついてベッドに転がり込むことしか考えることができなかった。

 

帰り道私はメロンパンと話していた。今回の合コンではあまり「飲んだ条件反射としての遠吠え」はやっていなかったのだが、2次会の喫茶店にはいるところで「ううーん」と吠えてしまったのである。そして彼女はそれをちゃんと聞いていた。その話をしていると彼女は「あたしの会社みんな吠えて仕事をしているよ」と言った。どのような吠え方か知らないがとにかくわおーん、という叫び声がこだまする職場だというのだ。私はその光景を想像しようとしたが、いかんせん私の想像力は十分でない上に、すでにカラータイマーが鳴り終わった状態ではそうした光景を想像することは無理だったようだ。

YDと私をのぞいた全員は名鉄の入り口でさようならであった。私は手をあげて「ばいばーい」と言った。それがこの楽しい合コンの幕切れだった。


注釈