題名:巡り巡って

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日付:2022/7/27


横浜税関資料展示室:神奈川県(2022/6/18)

本来であれば休みの土曜日。私は関内駅で呆然としている。なぜこんなところにいるのか聞かないでほしい。とにかく来てしまったのだ。

いや、関内には楽しい場所もたくさんあるし、別に休日にいてもおかしくない。しかし今日は仕事、というか少なくとも会社に旅費を申請してやろうと考えている。しかしそれだけでは勿体無いというわけで少し早めに到着したわけだ。

昨今であればスマホ画面を眺めれば迷うことはないのだが、それでは面白くない。大体の見当をつけそちらに歩く。いきなり目の前にこんな建物が登場する。

建物

あまりに趣があるから、公的な何かかと思ったら大きく「日本郵船会社」と書いてある。立派な民間企業である。しかしこのなんとか調の柱はすごいなあ。

などと考えながらそこで方向を変える。間も無くもう少し古そうな建物が見えてきた。横浜税関である。とはいえ、私のような観光客がはいれそうな場所でもない。はて、と思いながらもう少し進むと「税関資料館はこちら」という案内が見えてきた。

入り口

このオレンジ色の犬のような何かにはその後も何度か顔を合わせることになる。入場料無料がうれしい。私の少し前に女性のグループが入場しており、その人たちと話しているのは、おそらくここの職員とかそういう人ではなかろうか。服が普通の人と同じなので一見して観光客に見えるが。

というわけで中を見て回る。由緒正しい昔の税関の何かがある。その近くに税関旗というものがある。ひょっとすると税関歌もあるのかもしれない。

    ああ我らの横浜税関

    今日も税を取り立てるぞ。取り立てるぞ。

    密輸、脱税、書類の不備は許さないぞ。許さないぞ。

    悪い奴は横浜港の藻屑にするぞ。まあ藻屑。もずく。

などと頭の中で勝手に歌詞を作りながら進んでいく。すると日本の輸出品目を年代別に書いた展示が出てくる。私も結構長い間生きている。輸出品目の第一はかなり長い間自動車だが、千九百九十年台には事務用機器、映像機器、テープレコーダーなどの文字が並ぶ。その頃日本国内でそうした製品を製造し、かつ海外に販売することができたのだ。今となっては考えられないことだが。などと感慨に耽っているとこんなコーナーが出てくる。

密輸

コンテナの壁が二重になっており、その間に大量の覚醒剤が隠されていたとのこと。こうした袋にはちゃんと「模造品だよ」と書いてある。そうでないとこれを盗もうとする人間まで現れるであろう。

展示エリア

このコーナーにある展示は、通常のものばかりではない。床にガラスが嵌め込まれておりその下にも覚醒剤の模造品が展示されている。

こうした密輸品は日本国内で害を及ぼすだけではない。仮にこうした製品がビジネスになってしまうと輸出元でも恐ろしいことが起こる。非合法な生産組織が力をもってしまう。私は中南米の国々で非合法組織が力を持っているのは、アメリカという大きな麻薬消費国があるあるためだと思っている。つまり麻薬を消費してしまう国は不幸を他の国に輸出しているのではなかろうか。そう考えると横浜税関に声援を送りたくもなる。

模造品

他にもイミテーション品はよろしくない、という趣旨でブランド品の本物、偽物が並べられていくつも展示されている。どう見てもどちらが本物だが偽物だかわからない。買ってはいけないという意見には賛成だが、そも区別がつかないので防ぎようがない。もっとも私が買うことができるのは誰もイミテーションを作ろうと思わない安物だからいいか。他にもポスターがいくつも展示されている。

「密輸はダメ。犬でもわかるぞ」

というものがあるのだが、犬だからわかるのではなかろうか。「麻薬犬は麻薬の探知を遊びだと思っている」という掲示があったような。遊んでいるとオヤツがもらえるのだから、麻薬探知犬にとっては楽しい仕事だな。

などと考えながら歩いていると出口に近づいてくる。いや、まだ見落としているものがあるのではないか。そう思い再度回り始める(そう広い資料室ではないのだ)するとこんな写真がある。

税関長

ふーん。税関長か。まあいるんでしょうねえと思って読み始めるとこれが意外なヒット。初代の人は若干25歳でハワイ移民虐待事件の主席使節になったのだそうな。考えてみれば維新直後だから25歳だなんだと言っていられなかったのだろう。

第3代の税関長は土佐藩の海援隊出身。陸奥宗光や坂本龍馬と同志。これも理屈では理解できるがやはり驚く。第4代税関長は星亨。どこかで聞いた名前だと思えば後に逓信大臣にまでなり最後は暗殺された人。第8代税関長の「有島」という名前にどこか聞き覚えがあると思えば、有島武郎の父親であった。

さすが明治というべきか、こうした展示に値するような税関長がいなくてもよくなった平和な世の中を喜ぶべきか。そんなことを考えながら資料室を後にする。さあ仕事仕事。

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注釈