題名:巡り巡って

五郎の入り口に戻る

日付:2003/11/16


大谷資料館-山本園:栃木県(2003/11/1)

11月1日の土曜日「お昼からは天気がよくなります」という予報の言葉を信じ朝早く家を出る。土曜日の早朝だというのに何故こんなに人がいるのだろう、などと寝ぼけた事を考えながら渋谷の駅を歩き続ける。渋谷駅は通勤でほぼ毎日使っているのだが、この埼京線なる路線用のホームに向かうのは初めてだ。

そこからひたすら電車に揺られ続ける。以前来たときには大宮市やら浦和市やらあったが今はさいたま市。名前が変わっても電車から眺める風景が変わったわけでもない。大宮でその名も「宇都宮線」に乗り換えるとしばしうたたねをする。

目が覚めてぼんやりしているうちに終点宇都宮についた。そこからバスに揺られること数十分。私の世代だと常に「江川」という名前と結びついている作新学院の前を通り、当たりの風景がなんだか異様になってきた、と思ったあたりでバスを降りる。そこからしばらく歩くとまずこんな物が目に入ってくる。

理由はよくわからないが、この一帯ではたくさん廃屋を観たような気がする。あるいは大谷石で作った部分は崩れないからいつまでも家の形が残るからなのだろうか。さらにてくてくあるくと石切場のような場所に出る。

そこに資料館があった。600円を払いまずは展示を観る。昔は手で石を切っていました。最近はなんでも機械で切れます。面白いことは面白いのだが、展示室自体が暗くて文字を読むのに苦労する。部屋をぐるっと廻るとここの見物はおしまい。次は採掘場所である。

たくさん貼ってある「左通行」という看板を観ながら歩いていくと広く暗い空間に出た。

一番奥に見えているは何だろう。とにかく順路に従って進んでいく。ここは年を通して気温が13度くらいとのこと。今日の気候だと外より寒く感じるが、冬には暖かく感じるのだろう。戦時中には軍の倉庫、あるいは中島飛行機の地下工場としても利用された。また、お米が余ったときに、ここに貯蔵したこともあるとのこと。それに付け加えて

「なお、貯蔵によいものとして、清涼飲料水、ビール、ウィスキー、かん詰、びん詰、夏みかん、etcrなどがあります。」

と書いてあるのだが、これはPRなのだろうか。最後のetcrとはなんだろう。

阿呆のごとく関心しながら歩いていくと、なにやら変な物がある。

石の採掘に使われた物にも見えないし、と思って近寄ってみれば何かの美術作品であった。わーい、これは珍しい、とおもってぱしゃぱしゃ写真を撮ったが、しばらくして同じような美術品はこの採掘場のあちこちにあることを知ることになる。

一つ印象に残っているのはこれだ。何を表現した物か凡人の私にはさっぱりわからないが、左上から差し込む外光が印象的。もし停電になったら、非常用電源に切り替わりますからそのままお待ち下さい、とか書いてあったけど、本当に暗黒の世界になったらみんなこの光を求めて集まってくるかもしれぬ、と考える。(私は無用な心配をすることに関してはいささかの自信を持っているのである)

採掘場内部の雰囲気は、インディー・ジョーンズとかハムナプトラそのままである。入り口にあったポスターの山を観れば、ここでコンサートやら撮影がよく行われているらしい。こうして観ている間もやらゆるやかな音楽がずっと流されている。

などと最初はきゃーきゃーよろこんで観ていたが、内部が結構広大なので最後の方はいい加減になる。入り口に戻る当たりにある看板にはこんな事が書いてある。

「広さは後楽園球場一つ分」

今の若い人は後楽園球場と言っても知らぬのではなかろうか。その下には全体の説明図が置いてあるが、表面はぼろぼろになっており、今や何が書いてあったか想像する気力も起きない。というわけで階段を上り外に出る。外は湿度があり、そして暑い。

さて、来た道を戻り大谷観音と平和観音を観ることになるのだが、その内容は次項に譲る。最後にバスの中から見えてきたあそこにいきたい、と思ったのだ。

ごらんの通り立派な廃墟である。ただの廃墟ではない。この地にふさわしく、建物と山が一体化している。雰囲気からしてだいぶ前に閉鎖されてしまったようだが、営業している時にきたかなったなあ。近くにある看板を目を凝らして読めば(もうペンキは消えかかっているのだ)

「食堂 物産 山本園」

と読める。みやげもの買ったり食事ができたりする場所だったのだろうか。

廃墟マニアであれば、ここで立ち入り禁止の看板もなんのその、と進入するのかもしれないが、私にそこまでの度胸と熱意はない。だいたい草が深いから何かに刺されるような気もするし。

というわけで写真を数枚撮った後バス停に戻った。帰りは宇都宮から乗り換え無しで渋谷まで着いてしまった。いつのまにやらあれこれ便利になったなあ。その昔は赤羽線という短い短い路線がありどうしても乗り換えが必要だったのだけど。

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注釈