題名:巡り巡って

五郎の入り口に戻る

日付:2002/9/1


うさみ観音:静岡県(2002/8/15)

朝起きると迷わず電車に乗る。もうあのチープなところまで歩くだけの気力も体力も残っていない。今日の目的地は伊豆半島宇佐見というところだ。豊橋まで鈍行で行き新幹線にのる。熱海で乗り換えると宇佐見はすぐである。

駅を降りると「さて」と思う。目的とする観音はどこにあるのだ。駅前にある地図をぐいっと眺める。一応地図の中にうさみ観音という名前がでてくるのだからそうべらぼうに遠くでもないだろう。しかしうさみ観音のWeb Site(http://www.kannon.co.jpというすばらしいURLである)にあるご案内図は宇佐見駅までの案内であって、そこからどうしろとも書いてない。おまけに「宇佐見方面より望む」という写真を見る限りどうみても山の中をくねくね走る車道の脇にあるとしか思えない。

しかし今の私に選択肢はないのだ(この数日こんなことばっかり言っている気もするが)だいたいこっちと見当をつけると歩き出す。ただ昨日で懲りたから荷物はコインロッカーに放り込みデジカメだけを手に持つ。

そのうちうさみ観音らしき姿が見えてきた。そのお姿を拝見し、やおら近くのコンビニに入る。それほどのどは渇いていなかったが500mlの何かを飲み干し、頭にまくタオルを買った。その観音様ははるか遠く山の中腹に座ってらっしゃる。

円内が目的地-うさみ観音

理論的にはあそこまで道は通じているのだろうが果たしてたどり着くことができるだろうか。

頭にタオルを巻くと直射日光が遮られかなり楽になる。端から見れば異様な姿だろうがこの際そんなことは言っていられない。ごりごりと歩き出す。そのうち道にそってミカン狩りのなんとか園というのがあれこれでてきた。みかん羊羹という文字に心惹かれるが買うにしてもそれは帰りだ。今はただ前に進む。しかしそのうちだんだん登りがきつくなってきておまけに歩道がなくなった。こんなところを歩いているのは私一人。おまけに私がドライバーだったとしても人が歩いているなんて想像だにしないだろう。つまりほえーっというドライバーがいれば大坪君一巻の終わりである。いざとなったらこのどぶに逃げよう、とかそんなことを考えながら歩き続ける。しかしスピードはがたんと落ちる。

山道はくねくねしているから、観音様の姿も見えなくなってしまった。いいや、きっとあそこを曲がったら観音が見えるのだと何度考え何度失望したことだろう。しかし歩みをとめるわけにはいかない。そのうち妙な物が見えだした。

看板を信じれば「本邦唯一」の人力車製造所である。この看板の周り一帯は怪しい雰囲気に満ちており、そもそもここが営業しているかどうかもよくわからない。虫か何かをかっているかごが二つほどあり、植物(これも何かわからない)用のプランターがいくつも置かれている。店の前には50ccの小型自動車(なんと呼ぶのだろう)が数台置かれている。一時はやりあっというまに法律で普通免許取得が必要となりすたれた奴だ。おまけに裏には「無料休憩所」があるのだが、それはほぼ完全に崩壊しておりどうやって休めちゅうねん、と思わず心の中で抗議の声を上げる。とにかく歩みをとめることはできない。ひたすら進む。次のカーブを曲がれば、きっと次のカーブを曲がれば。

だんだん体温が上がってきているのではないかという強迫観念にとらわれる。熱中症というのは最近聞くようになった言葉だがそれにかかるのはいやだな。倒れて誰かに助けてもらったとしよう。しかしだいたいこんな所をなぜ歩いていた?と聞かれたら答えようがあるけど恥ずかしいではないか。などと考えているうちに行くてに何か見える。ああ、きっとあそこが目的地だ。もうこれ以上は動けないぞと思って近づけばセメント工場だったり。

こうやって書いていても思うのだ。

「一体何をやってるんだ」

と。当時の私も15回くらい自問した。何をやってるんだ。こんなに苦労して歩いて、目的地が面白いところだ、という保証でもあるのか。いや、もうここまできて引き返すことはできない。とにかく進め。そのうち頭がぼやけてきて機械的に足を運ぶようになる。

しかしとうとうその難行苦行も終わりが近づいた。カーブを曲がったところに人家が数件有り、さらにその上にはアップになった観音様がいるではないか。

もう少し。もう少し歩けばゴールだと思うのだが体はとても思い。それどころか近づくと一番に目に入ってくるのは

「レストラン おみやげ 按針丸」と銘打たれた船の形をした何かである。嗚呼、なぜこんなところに船を。(後で読んだところでは伊東は造船で知られ、ここで作られた船があれこれしたからなのだそうだが)くじけそうになる気力を振り絞りなんとか入り口にたどり着いた。

やることはまず「按針丸」で水分を補給し体温を下げることである。かき氷を注文するとがりがり食べる。店の人は親切でクーラーの利いた中に入れば、と言ってくれる。こちらは感覚がぼけているので日が陰っていれば外でも涼しいと思うのだが感謝して中に入る。

一息つくといくばくかの金を払って中に入る。最初はなんか展示しているエリアにはいる。とにかくクーラーから吹き出る涼風がうれしい。もう一つ展示していると称するエリアがあるのだが、そこは80%以上みやげもの売り場である。夫婦橋とかいうところを渡る。なにやら御利益があるあらしい。水がでている。なにやら御利益があるらしい。とにかくなんでも御利益があるのだが、

鯉にえさをやるだけで全ての罪が消える、というのはあまりにも大盤振る舞いではなかろうか。そこから進んで行くとこれまた御利益があれこれあるのだが

200円払って鐘をたたけば宝石観音を「無料」で拝観できる、という文章もすばらしければ、その横には観音様はお見通しですよ、という警告文も添えられており私ははるばる歩いてきたかいがあったと嬉しくなる。

観音様も観ていることだし、ということで素直に200円を放り込むと先に進む。宝石観音というのがたくさんあり、確かに色のついた石が埋め込まれている。ただどれも新しくぴかぴかであまりありがたさが感じられない。さらに階段を上ると巨大観音様とご対面できるのだが、高所恐怖症の私としては、ここまできて上を見上げるのは結構恐ろしいのである。

しかしここから下を見れば、そこにはまた驚くべき光景が存在しているのであった。

寺の斜面一帯を埋め尽くす地蔵である。近づいてみるとそれぞれの地蔵には番号もしくはひらがな+番号が付けられている。よだれかけと数珠がかかっているもの、そうでないものもあるようだったが。

しばしその光景を眺めた後山を降り始める。帰りはどこまでいくかもだいたい分かっているし、下りだかららくなものだ。少し降りたところでカツカレーを食べる。お店の人に 車ですか?と聞かれたから歩きです、と答える。地元の人ですか?と聞かれたから違います、と答える。後で気がついたのだが、これではこの辺で何か事件でもあれば真っ先に疑われるような「怪しい人物」ではないか。この暑い中車専用道路を徒歩でこんなところまで歩き、しかも目的が「うさみ観音を観るため」などというふざけたもの。「そんなの誰が信じると思ってんだ!」と取り調べの刑事さんに怒鳴られそうである。

幸いそうしたこともなく無事に駅にたどり着き家路についた。

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注釈