題名:Java Diary-59章

五郎の入り口に戻る

日付:2005/1/25

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Goromi-Part10(WISS2004発表)

ここにきたときは「まだ二日もあるし」と思っていたがその時間はすっかりなくなり今日が発表である。じたばたしてもしょうがない、と心に言 い聞かせ、お風呂にはいりご飯を食べる。以前お世話になった教授と話していたら、周りは割と年配の人ばかりになった。そして

「PowrPoint有害論」

に花が咲く。思考の組み立て方を規定してしまうからだめだ、とか生徒が書き込みできないといけないとかいろいろな意見がでる。そのうち

「素人が作ったプレゼンはすぐわかる。アニメーションを多用しているから」

という。それを聞いている私のプレゼンはアニメーションだらけだ。前述したような狙いはもっているとはいうもののやはり私は素人であるか。

今からアニメーション削るのもなあ。ええい、私は素人なのだと開き直ろうかとも思うが、そこまで言い切ってしまうのもなにか。しかしなんだなあ。私は歳だけはくっているが、研究という物はここ2−3年を除けば大学4年の時しかやっていない。つまり「研究者」としてはWISSに来ている大抵の修士2年と同じくらいのキャリアしかないわけだ。であるから素人、、いや学生さんでも修士2年ともなれば「素人でーっす」と開き直りはしないだろう。

などと考えているうちにご飯を食べ終わる。荷物をもってとっとと会場に行く。まだやたらと時間があるからふらふらする。そのうち、発表用チャートの最後のページが気になりだした。あの写真はない方がいいのではないか、いや、ここ数日そう思っていたのだけど、やっぱりないほうがいい。だだだ、と席に戻るとその写真を削除する。

そのうち人が集まってきてセッション開始、なのだが、例年通り3日目の朝一は集 まりが悪い。後ろのほうには寝ている学生さんたちもいる。そこかしこで聞こえる会話から判断するに、昨晩は3時とか4時とかとにかく遅くまで飲んでいたら しい。連日だからそりゃ眠くもなるわな。しかし観客が寝ていようがなんだろうが、こちらは寝るどころではない。発表の間はチャットが行われており、それを見るのが楽 しいのだが、机の上にはプレゼン用のパソコンだけを置き、ううむ、とうなる。いやうなったところでどうなるわけでもないのだが。などということとは関係なく最初の発表が始まる。これがまた凝っていて、プレゼンがゲームブック風になっている。つまり分岐点があり、そこでチャットによりどちらに向かうかの投票を する。それによってプレゼンの流れが変わるというやつだ。説明があった後、デモを要望する声が多かったのだが、とんだページには「そういわずにもう少し聞 いてくださいよ」と書いてある。眠いながらも場内爆笑である。ううむ。

その発表が終わり、次の発表は昨日話しかけてくれた学生さん。プレゼン自体はそつな くこなすが、Q&Aでつっこみがはいる。その後IBMからアクセシビリティ評価用ソフトの発表。結構好評のようだ。うむ。去年の3日目午前中というのは、会場全体がけだるい雰囲気につつま れ「早くおわんないかなあ」という声なき声が満ちていたはずだ。確かに後ろの方に寝ている人はいるが、このもりあがりようなどうしたことか。だんだん時間 が延びてきたがまだ質問が続いている。座長から

「次の人は用意をしてください」

と声がかかりパソコンを抱え前方に行く。

とはいったところでできることはあまりない。そのうち前の人の発表が拍手と共に終わりとなった。パソコンをプロジェクタのケーブルにつなぐ。これは事前にやっておかねば、と3度くらい思ってはいたがやっていなかった作業だ。画面には何も写らない。画面切り替えと思しきボタンをばしばしたたくが駄目である。しかしこうした状況には見覚えがある。早朝の社内、誰もいないうちに一人で練習したときにこのような目にあったのだ。おや、どうしたことだろうなどとつぶやきながら数分あれこれやったら画面が出た。ここで同じ操作をやってみると見事に画面が表示される。やはり準備は重要だな。ここで数分固まっているわけにはいかないし。さて発表である。

実はこの日の為に今まで使ったことがない機器をもってきていた。無線で制御できるマウスのようなものである。ページをめくるたびにパソコンのところに行くというのは今一だ。やはり聴衆の方をむいたままでひらひらプレゼンが進むとかっこいいのではなかろうか。というわけで(例によって一人だけで)練習もしてきたのだが、予想外の要素があった。手に持つマイクである。いや、何年か前のWISSで発表した学生さんが

「片手がマイクでふさがっていたため、デモがやりにくかった」

と書いてあったが確かにそうだ、などと今更思い出しても遅い。片手でリモコンを操るのは結構難しい。一人でやったときは無意識のうちに両手使っていたのかなぁ。

などと感慨に浸っている暇はない。今回のプレゼンでは最初の表紙が一番凝ったデザインとなっている。というわけで、ちょっとゆっくりめに名前と題名を言う。えい、片手で之を扱うのって難しいなあ。

次のページでレーザポインター(無線マウスにはその機能もついている)を使おうとするが、うまく使えない。この後どの時点かしらないが、無線マウスを使うのを諦め、机においてしまった。発表用の台が丁度良い高さにあるから特に問題はない。自分の声が少しひずんでいるような気がする。後ろまでちゃんと聞こえているか大分不安になる。一枚目を終わるとデモだ。昨日考えていた

「チャットが怖いからデモを前に持ってきました」

という台詞を言う余裕はない。ここ数日私を不安に陥れていたデモはなんとか意図通り動いた。やれ安心と思ってプレゼンに戻れば一頁めくるのを忘れていた。しょうがないなあと思えばこの後もう一度同じ事をやった。なるべく聴衆を観ながら話すようにする。あれ、私と同じグループにいる男も来ているのだけどあの野郎半分寝てやがる。後で

「はい。○○君。上司がしゃべっているときに寝ない」

といってやればよかったと思うが、そのときはそんな余裕はない。緊張して早口だったと思うが後から苦情は聞いていないのでいいことにしよう。そろそろ緊張がゆるんできて、多少ボケた言葉もでてくるようになる。そのうち唯一笑える(と私が思っている)写真がでてきたところでかすかな笑いが起こる。この写真を人前で使うのは3度目なのだが、笑いが起こったのは初めてだ。プレゼンは進み、3度目、最後のデモになる。ここまでくるとこちらも調子に乗っているから練習では絶対に思いつかなかったような台詞が出てくる。聴衆を観るとそれなりに顔をあげて聞いていてくれるようだ。どんよりとした後ろの方にも顔が結構見える。

会社でお客様(某社だが)にプレゼンをするといつも理解のできない反応に見舞われる。いつかは20分のプレゼンで相手(お客様の偉いさんだ)が二人とも寝ていた。どうしてこの話を聞いて寝ることができるのか理解ができなかった。その後何度かの失敗から

「彼らに興味を持たせるためには二つのキーワードを外してはならない」

という結論を得るに到った。つまりどんなに解りやすく話そうと、面白い(と自分が思っている)内容を話そうと、その内容と二つのキーワードとの関連を彼らが想像できない限り何の意味もないのである-だから彼らがこのWISS に来たとすれば3日間眠り続けることであろう。

しかし今日はそんな悪夢のような反応に悩まされることもない。時々聞いている人がうなずいているようにも思える。というわけでご機嫌のうちに発表を終えた。さて、質疑応答の時間である。学生さんが立ち上がりある質問をする。厳しく本質を突いた質問だからごまかしてもしょうがない。私は"No Ideaです”と正直に答える。もう一つの質問は名前の由来についてだった。こちらも正直に自分の名前と「ゴロ寝しながら見」をかけました、と答える。そう言ってはみるのだが、果たして自分でもこれが正しい説明かどうかわからない。私が作るソフトは最初の文字がG、までは覚えているのだが。

拍手と共に一礼し席に戻る。座長をしていた人が席に来てくれほめてくれた。ありがとうございます、と言う。休憩時間になったのでコーヒーを飲みに行く。今回知り合いになった人からコメントをもらう。もう一人名刺を交換させてもらった人がいた。某電機メーカーにおつとめとのこと。私は

「弊社がこれを製品化することはあり得ませんから。いやー、勝手に作ってるんですよ。会社の気に入ることばかりやっていてもつまんないでしょ」

とかなんとか言う。この長い長い文章を読んでもらえればその言葉があながち嘘ではないことも解ってもらえると思う。

かくして私はとてもご機嫌になった。この後も発表は二つある。去年、一昨年最後の発表の時にはどうしようもない倦怠感が会場にみなぎっていた記憶があるのだが、今年は違う。最後の発表は日立が開発した3D表示のなにやら。デモには大して感銘を受けなかったのだが、発表は面白かった。後半にこれでもかこれでもか、と物を繰り出してくる。発表賞という参加者の投票で決まる賞があるのだが、それを早めに投票してしまった人から

「投票をやりなおしてもいい?」

と声が上がるほどだ。かくして場内拍手と笑いのうちにお開きとなった。

その後各賞の投票が行われる。私の発表は発表賞(プレゼンに対して参加者が投票する物)で4位だった。とはいっても5位以下との差はわずかであり、3位ははるか遠くだ。思うに最終日の投票だったのが幸いしたのではなかろうか。みんなが覚えているうちに投票してくれた、とういことで。

かくして私は大変ご機嫌な気分となり帰路につく。去年のWISSの後私はこう書いた

「ああ、WISSは楽しかったなあ。日常の仕事というの違うよなあ」

今年ここに来る前は、あれは過大な表現ではなかったかと自分で疑っていた。しかしこうして終わってみるとやはり月曜日には同じ事を考えるであろう。

通勤電車プロジェクトで4位になれば立派、と自分で少し考えるが、そもそもそんな言い訳など見苦しいだけ、という声もどこからか聞こえる。来年の開催地は珍スポットの宝庫小豆島である。ギャラリーとして参加はしたくないので、また新ネタを考えなくちゃ。可能性はいくつか開いているがどれにしようかな、などと考える。

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注釈