題名:I like it, so it exists

五郎の入り口に戻る

日付:1998/6/12

 


1998年の6月12日のことである。日本が初出場したワールドカップ、日本にとっての初戦、対アルゼンチン戦の入場チケットがほとんど入手できない、というニュースが大きく報じられていた。

フランスに行ってもチケットが入手できる可能性はほとんどない、と旅行代理店が警告したにも関わらず、フランスに到着した人達にNHKがインタビューしていた。

ある男性は「まあ選手と同じ空気が吸えればいいですよ」と言っていた。連れの男性は「なんとかしてください」とカメラに向かって頼んでいた。

印象的だったのはある女性の反応である。

(多分チケットは不安ではないですか?という質問に対して)「大丈夫です。あると思ってきましたから。あるでしょう。」

この発言を目にして私はさっそくキーボードに向かうことになった。

この女性の発言は全く私にとって新鮮であった。今のところチケット不足の原因は一切明らかにされていない。あるのは「フランスでのチケット入手は困難と思われる」という発表だけだ。それでも彼女は自信満々に「大丈夫です」と言い切り、その根拠は「あると思ってきましたから」という主観的な思いこみである。他にも「いや、信じてますから」と半ばあきらめ顔で言った人はいる。しかしこの彼女の目にはあきらめの色も、自分に言い聞かせる様子も見て取れなかったし、「ダフ屋から購入すればいい」と考えているようでもない。単純に彼女は本当に「チケットはある」と信じている様子である。

こういった"I like it, so I believe it. I believe it , so it exists"「これが好きだから、信じる。これを信じているからこれは実存する」という発言はそれまでにも何度か耳にしていた。例を挙げれば以下の通りである。

 

(その1)テャータニックがはやったときのこと。私の知り合いの女性がこの映画に入れ込むこと結構ものすごいものがあった。「こんな恋愛がしたいな」というやつである。

なるほどそういう感想もあるだろう、と思った私であったが、次のセリフには驚いた「あれって本当にあった話なのかな」この発言をしたときの彼女の表情は、それを全身で期待しているようであった。

私は「そんなはずないじゃない。あったらとっくの昔に何度も映画化されてるよ」と答えた。タイタニックの最後の生き残りの乗客-沈没したときは赤ちゃんだったらしいが-が亡くなった、というニュースが報じられたのはそれからまもなくの事だった。

 

(その2)おそらく1995年頃、「聖なる予言」という本がはやったことがあった。ある合コンで人妻のとなりに座った私はこの本を異様に勧められた。私は「おれはドキュメンタリーしか読まないよ」と言ったら、彼女は「あの本は一応フィクションという形態をとっているけど、私は実際にあったことだと思っている」と断言した。

私は彼女の勧めに従ってこの本を読んでみたが。。。。感想はここでは述べない。一つ確かなことは、少なくとも作者は「この小説」と自分の本を言っていることだった。しかし多分彼女もこのくだりに気づかなかったわけではないのだろう。

さて。。。この三つのエピソードから何か共通する要素を引き出せるだろうか? 

 

 

 

(執筆途中)


注釈

入場チケットがほとんど入手できない:不思議なことにこの問題が発覚してから、二日間たってもこの問題の原因は公式には不明のままだった。NHKの「ワールドカップ組織委員会は、入場チケットの5%だけを公式旅行代理店に渡した」という報道を信じれば、おそらく真相はこういうことなのだと思う。つまり、日本が出場確定した時点で、大規模な詐欺を考えた奴がいるのだ。本来5%しかわたらないチケットに対して、大幅に水増しして空手形を切った詐欺業者がフランスにいるのだろう。とにかくツアーの人数を集めたい日本の旅行代理店がそれに軒並みひっかかった、というところではないか。その業者は今頃前払いの代金を懐にどこかに逃走していることだろう(1998/6/12)

数日後にはこの「5%」というNHKの報道も誤りだったことが分かる。14日時点では10%が旅行代理店に渡ったらしい。。。本文に戻る

 

テャータニック:参考文献一覧)ちなみにタイタニックのことである。私はこの映画がほとんど気に入らなかったが、これだけあちこちで話のネタにできるということは、確かに1600円と数時間をついやしたかいがあったということだ。本文に戻る

 

聖なる予言:参考文献一覧)私はこの手の本は大抵読まない。読むときは他人と話をする上で必要になった場合である。この本もできれば文庫本が出てから買いたかった。本文に戻る