題名:HappyDays-51章

五郎の入り口に戻る

 

日付:1998/7/8


51章:K島4度

 

さてその日は夕方から急に涼しくなった。

待ち合わせ場所は珍しい伏見の地下鉄の上の駅のJTBである。私は例によって例のごとくさっさと会社を逃げ出して、早めについた。読書をしようという魂胆である。

 

まだ20分はあると思って読書にふけっていれば、来たのはTED主任である。彼は「私は腕時計をもっていないし、電車の接続がよかったので思ったよりも早くついてしまった」と言っていた。

彼としばらくくだらない話をした後に、女の子の声がした。振り返ってみれば、どこかでみたような顔である。私は彼女はパンスト1号であろうと判断した。そしてTED主任に向かって「こちらがパンスト1号、こっちはTED主任殿」と紹介した(つもりだった)

瞬間女の子の顔が曇った。そして2秒後に「私は自主廃業です」と言った。

Oh My GOd.!またやってしまった。いつかのK野をK橋と間違えたどころではない。私はパンスト1号も自主廃業も2回会っているのになぜかあっさり間違えてしまった。平謝りにあやまったが、後の宴会の時に自主廃業が「一生忘れないわ」とぼそっと言っていたことからみるとこれは本格的に失礼だったのだろう。、私は非常な自己嫌悪におそわれたのである。

さてそうはいうものの私は非常に願ったりかなったりの状況にいることを見いだした。まだほかの連中がくるまでかなり時間がある。これは我々の「TED-自主廃業紹介計画」からすれば非常にめでたい状況ではないか。従って私は「まあどうぞどうぞ、そちらのTED主任のほうの椅子にでもお座りになって」と自主廃業を座らせて、「そういえばこちらは自主廃業におつとめで、こちらは主任の役職で。。。」などとまるで見合いの最初の仲人の「つなぎの台詞」のようなことを言い出したのである。少しでも二人が会話を始めれば私は本を読み出して「二人の世界」を演出するだけのことだ。

さて前にも少し書いたことがあるが、自主廃業は結構ゆっくりめにしゃべる。対するにTED主任は「バーストモード」の会話を特長とする人である。仮に同じ長さの文書をしゃべるのに必要な時間、及びその場合の単位時間当たりの言葉の量を図で書くと下のようになる。

というわけで、まるで最初二人の会話は、100Mbpsの光ファイバと5 bpsの超長波通信を直接接続したような感じだった。

しかしながらいささか意外なことに(これはTED主任には失礼だが)最初の数語にわたるデータ転送量の調整が終わると、彼らの会話は結構スムースにすすみ始めたのである。

 

自主廃業は「今日は山のような人が来ると聞いていた」と言った。もちろんTED主任のことである。最初はなんのことかわからなかったが、後に「TED主任は山のように動かないので、合コンにひっぱってくるのは大変だ」 という意味であることが判明した。

 

さて内心(これは結構いいかもしれない)と思ったそのときにHNYが到着した。数分後にパンスト1号も到着した。彼女の顔をみて「うーん。確かにこれは自主廃業とは全然顔が違う」と改めて確認したが後の祭りである。パンスト1号に対して自主廃業が「大坪さんてひどいんだよ」と繰り返しているので、私はまた平謝りモードである。

さて例によって私は椅子の上にあぐらを書いて本を読んでいたのでパンスト1号に「いつもの通りですね。(変な格好で座っている、ということである) まあサスペンダもしているわ」といわれた。

仲良く話しているのもつかのま、我々は夕立が近づいてきている気配を察知した。

ここでHNYは「私がK島を待っているから4人で先に行っていたら」と提案した。これも前述の方針に従えば好ましい状況だ。というわけで予約してあった店に4人で向かい始めたのである。

さて案内された座席はまあスタンダードな飲み屋の配置というやつであろうか。適当に座って決まったのが下の配置である。

私の意図はとりあえず自主廃業とTEDを隣あわせにすわらせようということであった。もっともTEDはこの時点で「私は場所を広くとるから真ん中には座りたくない」と公言していたのだが。

さて数分の後に私はこの配置が誤りであることを悟った。私はパンスト1号と二人で話して、あとの二人(自主廃業+TED)の世界を構築しようと思ったのだが、ところがぎっちょん。パンスト1号は結構会話が元気な人なのである。したがって、どちらかといえばパンスト1号がよくしゃべってそれに私とTEDが合いの手をいれる。自主廃業は結構静か、という状況になってしまったのである。しかしながら、私はHNYとK島の到着とともにもう一回席換えのチャンスがあることを知っていた。

さて、いくばくかの時間の後にHNYとK島が到着した。最初HNYは「私とパンスト1号が場所を交換する」ことを提案したが、私はその配置に異を唱えた。最終的に決まった座席は以下のようである。

この座席が、Cの提案をそのまま具現化したものであることに読者は気がつくであろう。こうなればあとはしめたものだ。こちらのサイドでパンスト1号を中心に4人で盛り上がっていれば自然とTEDと自主廃業は二人の世界になるのである。

 

この瞬間K島は「なんか作戦でもあるんですか?」と聞いた。彼女はいつも号コンに前向きに望むので、今回も新顔のTED主任に期待をかけてきたようである。彼女にすれば「あたしは一番遠いじゃないのよ。」という雰囲気だったろう。とはいえ、所詮すべての人間の欲求を満足させることはできないのである。

そんなことはどうでもいい。私は「いや別に作戦なんかないよ。TED主任は真ん中に座るのはいやだっていうからさ」と彼の先の発言を理由にとってごまかした。これだらか大人の人って嫌い。

 

さて会話の内容はこの際どうでもよろしい。会話のパターンは私が意図したとおりに進んでいた。最初は自主廃業-HNY-TEDの3人と私サイドの3人に分かれて話をしていたが、途中でHNYがこちらのサイドにきたため、TEDと自主廃業は端で話し込むことになった。

正直いってTEDが女性と長いあいだしゃべっているのをみたことがない。自主廃業と話す以外選択肢のない状況ではあったが、彼はちゃんと最初から最後まで自主廃業としゃべり続けていた。結構たいしたものである。

さて「山」という前評判男ことTED主任が今回の女の子3人の関心の的であったことは間違いがない。ときどきパンスト1号も左をみてTEDとしゃべっていた。K島は気の毒といえば気の毒だが、彼女には2次会でがんばってもらうこととしよう。

 

さてなんだかんだの大騒ぎの末に時間となった。店をでて2次会の場所であるカラオケに向かうことになったのである。

 

カラオケについたが25分待ちだという。そこで我々は下の階のゲームセンタで時間つぶしをすることになったのである。

 

さてこの時点から私は急速にエネルギーがつき始めた。結構な騒ぎの1次会であったがために、おまけに出勤日であったことも手伝って私の廃人タイムが近づいてきていたのである。三々五々ゲームなどに興じていたが私はひとりで眠りかかっていた。

はっと気がつくとHNYとパンスト1号がいっしょに麻雀ゲームなどに興じている。K島と自主廃業は二人で座って彼女達の友人の結婚式の写真などを見ている。TEDは?と思うと、ストリートファイターのようなゲームに「ボタン操作がわからん」と78回くらいつぶやきながら熱中している。うーん。1次会はうまくいったがここで分離してしまったか。。。しかしながらもう私にはなにかしようなどという気力は残っていなかった。あとは惰性の日々である。

 

ぼーっとしていたらK島から「大坪さんは調子はどうですか?」と聞かれた。彼女にとってみれば合コンだらけの私の生活は、それだけでとても幸せなものに見えるらしい。人によって何を幸せとするかは全然違うし、そんなことで論議をしてもしょうがない。従って私はしばらく考えた後に「悪くない」と答えた。常に希望はある。と信じよう。

 

私がウーロン茶を買っていると、「だめだよそんなもの飲んじゃ」とHNYが言った。彼は「まだちょっと早いけど今日の感想は?」と聞いた。私は「とりあえず1次会は我々の意図通り進んだと思う。」と答えた。HNYは「その通り。自主廃業(およびその一団)は誘えばTED邸にくるぞ」と言った。私もその観測に異論はない。しかしながら、それは誰かが「誘えば」という条件つきだ。その「誰か」とは誰だ?少なくとも私ではない。私はもう疲れ切っていた。

 

HNYは付けくわえて「私はパンスト1号の友達を紹介していもらうことを狙っている」と言った。私は彼に驚嘆のまなざしを向けた。さすがにこの男は私より2年近く若いだけのことはある。まだそれだけの気力が残っているとは。。。。。

 

さて「カラオケご予約のTED様」という呼び出しとともに我々はカラオケに向かうことになった。

 

カラオケの部屋のなかでの配置は以下の通りである。

K島にとっては念願ともいうべきTED主任の隣の席であるが、例によって彼女は全然しゃべってはいない。機会がありながらそれを逃す人間には不満を言う権利はない。途中からK島と自主廃業の位置が入れ替わった。

 

さてTED主任がいきなり歌った歌は、ユーミンの「真夏の夜の夢」とかなんとかいう新しい歌である。私は再び驚愕した。この男が「ルビーの指輪」以外の曲を歌えるとは 。。。おまけに自分が歌った後は積極的に飲み物の買い出しに走っていた。うーんなんてえらいやつ。ここまで細かい心配りができるとは。。。。

 

さてTED主任の2曲目はサザンオールスターズのBAN BAN BANである。これは2曲とも結構な受けようであった。おそらく男性の3人のなかでは彼の歌が一番うけていたのではないか。あとの人間は適当に歌ったりしていた。私は半分寝ながら例によってドラムの練習にいそしんでいた。

もっとも「一曲は歌おう」というHNYの圧力によってある英語の歌の番号をいれたら、かかった曲は「細雪」であった。演歌を排撃する言動をしている私がこんな歌を歌えるわけがない。さっそくとりけそうとしたら「歌え」という回りの意見である。しょうがないからワンコーラスだけ歌った。私はこの曲を全く知らない。しかし演歌を歌うなんてのは簡単な話である。しかしながらこの歌は私の人生のたくさんある汚点のうちの一つとなるであろう。

 

1時間がたつのはあっと言う間である。あっさり時間ぎれとなり、我々は帰途につくことになった。伏見駅に向かう途中に自主廃業と少ししゃべった。他愛もない会話のあとに彼女は「そういえば。。」と言ってその後をやめた。彼女が何を聞きたかったのかなんとなく想像できなくもないし、それははずれているかもしれない。いずれにしても疲労しきった大坪君にはそれを強いて聞こうという気力は残っていなかった。

 

さてそれから我々は各方面に分かれて家に帰った。そして安らかな眠りにつくことになった。。

 

翌日私はK島合コンの記述を一気に書き終えた。今晩は大正生命合コンが待っているのである。今日は気楽にやろう。昨日はいささか回りに気を使いすぎた。頭が爆発しそうだ。


注釈

バーストモードの会話を特長とする人:(トピック一覧)元はと言えば、軍用の通信用語だと思った。短時間に大量のデータを一気に送る方法である。本文に戻る

 

超長波通信:浅い海中にいる潜水艦に対して行える通信方法。超長波は海中まである程度進入する。本文に戻る

 

ルビーの指輪:彼は以前一度だけ宴会できれたときに、酒のはいったグラスを片手に「ルビーの指輪」を熱唱していたという伝説があるのである。彼自身もそれを否定していない。本文に戻る

 

大正生命合コン:この合コンの様子はHappyDays53章に記述してある。通称「記録にのこっているうちで一番悲惨な合コン」である。何故章の番号が51から53に飛んでいるかは自分でもわからない。本文に戻る