題名:私のMacintosh

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日付:2002/4/24


32 章:MacWorld Expo-出展後半

こごめ氏に話をすると、かねうち氏が来ているそうなのだが(彼は関 西からMac World Expoのために東京まで来たのだ)ご飯を食べているとのこと。そういえば私もお昼はまだだった。「じゃ私もご飯食べてきます」と言い売店に向かう。別に すぐやらなければいけないことがあるわけでも、手が足りないとかいうわけでもない。しかし展示会に来たときはいつものことなのだが、妙に気がせいてしまい カレーをがりがりと食べておしまいにする。

ブースに戻るとさて、と思う。何をしたものやら。User Groupのブースというのは小さな展示がいくつも集まっているから下手に大人数がたむろしてしまうと周りの迷惑にもなりかねない。説明員が壁をつくって しまっては肝心の展示が見えないではないか。適度にたむろし適度にひかなくてはならない。そこらへんの加減がなかなか難しい。

基 本的にはブースにへばりついているのだ空いた時間に周りを観たりする。隣は懐かしのNewtonのブースだ。実物を見たことはあるがちゃんと使われている のは初めて観た。それどころかコンパクトフラッシュ型のPHSカードまで差し込まれている。それを持っているのは人は驚愕する私にこともなげに

「使えるようにしました」

と言う。さらに足をのばすと通称ポリタンクと呼ばれたPower Mac G3にあやかってか何かしらないが、本物のポリタンクの中にMacをつっこんだものが展示されている。私はこういうばかばかしいものが大好きだ。ステージ 上では次々に発表がなされる。

「最速のMac 」

とかいう台詞が 聞こえるから何かと思ったらなんと車輪がつき自走するMacの発表であった。確かに最速には違いない。通路の反対側ではBlack Bird Clubというところが、PowerBook 520,540シリーズを展示している。当時は格好良く見えたそれらの機種だが、今観るととてもぶ厚く、そして全体の大きさに比べて液晶がとても小さい。 これが時代の進歩というものか。

見回りばかりしていていもなんなので、ブースに戻る。いつもの展示会の要領 で、少しでもこちらに目をとめた人には「どうぞ」といってチラシを渡す。こちらを観ない人に差し出しても無駄だから渡さない。すると結構な数の人が関心を 持ってくれることに気がつく。Mac OS Xで使える無料の電子メールプログラムは他にはApple純正のMailしかないからであろうか。ある人が立ち止まりあれこれ話してくれる。どうやら OMEのメーリングリストにも参加してくれている人のよう。OS9ではCyber Dogを使っていたと聞きその場にいた全員が驚嘆の声を上げる。ああ、あのCyber Dogはおもしろいプログラムだったよなあ。

また別の人は「PowerBook2400を使ってるんですけど、なんとかMac OS Xをいれる方法はりませんかねえ」と言ってくる。私もついこないだまで2400を使っていたが、OSは8.6から決してあげようとしなかった。だって遅く なるに決まってるんだもん。私は

「一つの解決策は、他の機種を絶対にさわらず”これは早いんだ。ほれこんなに 早いじゃないか”と自分に言い聞かせることです」

といったが相手は

「も うさわっちゃいましたからねえ」

と答える。

さて、このOMEとい うのは一メールを一テキストファイルにする。従ってメールの読み書きに自分の好きなエディタを使うことができる、というのが売りの一つになっている。では そうしたカスタマイズの容易さを求める人ばかりかと言えば、あれこれ機能がついたプログラムがほしい、という人もいる。すると私が自作プログラムを説明す る番だ。しかしその最中に下手なフォルダを選択してしまうと恥ずかしいメールの題名が表示されてしまわないとも限らない。ひやひやしながらあれこれ使って みせる。そうしてみるとフォルダを選択して、その内容一覧が表示されるまでの遅さにイライラする。作った本人がこれほどいらつくのだから他の人が使ったら

「ぷちっ」

と切れて2度と使ってくれないだろうな。ううむ。終わったらなんとかせねば、と とりあえず決心だけはする。

そのうち人も増えてきたのでブースを離れてふらふらする。そうだ。今日はMac World Expoなのだからあちこち見て回らなければ、と思うのだがいかんせん出展社が少ない。広い会場ではあるのだが、行きたいところは数えるほど。何故かリン ガフォンまで出展している。Macと何の関係があるのだろう。これまたいつものことだが、やたらとチラシを差し出し営業スマイルを振りまくお姉さん(展示 社の社員以外)はどうも苦手だ。そうしたお姉さんたちがいるエリアは足早に通り過ぎる。すいているブースもなんだか気の毒になってしまうのでとっとと通り 過ぎる。結果として丹念に観る、というよりは足早に場内を駆け回っただけのような気もしてくる。巨大なAppleブースには新型のiMacがごろごろなら んでいる。気のせいか他のブースにも新型首振りiMacがたくさんある。日本で今までに発売されたiMacのうち、かなりの割合がここに存在しているので はなかろうか、という脅迫観念にとらわれる。

そのうちステージの上でどこやらのアナウンサーが二人なにやら しゃべり始めた。男性の年輩の方と女性である。この女性が本を書いたとかでその内容を声高に(アナウンサーだからお手の物だ)しゃべっている。その内容が 聞こえるたびに私は内心つっこまずにはいられない。

 

「みなさ ん。TV局ってこんなにIT関係遅れているんですよー」

(それがどうした。誰もTV局がまともなところだとは おもっとらんわい)

 

「関西の方では女子アナの地位って高くない んですよ。関西の女子アナでスポーツ選手と結婚した人っていますかぁー」

(それがどうした。そもそも女子ア ナってなんなんだ。地位が高くなくちゃいけないのか。スポーツ選手と結婚したからどうだと言うんだ。)

 

そのうち舌っ足らずの声でしゃべる別のアナウンサーだか元アナウンサーも登場し場はますます「にぎやかに」なった。Mac関係の雑誌で 名前を観たことがある人だが、今こうして実物を見て解るのは甲高い舌っ足らずの声でやたら奇声をあげることくらいだ。しかしこういう場所に登場するくらい だから、きっと彼女はあるコミュニティでは尊重される存在なのだろう。それはまことに結構。それよりもなによりも彼女たちと彼は手弁当でこのMac World Expoを盛り上げに来てくれているのだ。ありがたいことではないか。私にできることと言えば、2時間相談員をやって救いをさしのべるより嘆きを共有し、 ここでビラを配ることくらい。

それは重々承知の上で、できれば私に聞こえないところでやっていただけませんか ねえ。手はビラを配り続ける。しかしそうしながらも頭を何度も何度もよぎるのは

日 本の芸能の基本は「素人、幼稚、内輪受け」

という言葉だ。あの舌っ足らずの声での、 「えぇーっ?」とか「そうなんですかぁ?」とかいう発言が価値ある物だと言うのか。そのうち本を書いたアナウンサーが即売会を始めた。ここでお買いあげに なると著者のサインがもらえるという。ああ、そのサインがどうしたというのだ、あんたの名前が書いてあると2倍で売れるとでもいうのか、などと心の中で つっこみを入れること数十回。お願いだ。みんな本を買ってくれ。買ってくれさえすればこの

「にぎやかな」

イベントもお開きになるではないか。誰も買わないというなら私が10冊買って、ただでくばっちゃうぞ。この心からの祈りが通じたのかど うか知らないが、めでたく本は売り切れ周りはようやく静かになった。やれやれ。

そんなことをやっているうちに 閉幕の時間が近づいてきたようだ。ステージの上ではジャンケン大会による景品配りが行われている。かなりの人数が参加しており、つい私も手をあげてみよう かとも思うがどうやらExpoの企画に参加した人でないと駄目らしい。そんなことよりも周りはすでに片づけ準備に入っている。この終了間際のどさくさに物 がなくなるなんてことはさけたい。響き渡る

「最初はグー」

という 言葉を耳にしながらあれこれぱたぱた片づける。

そのうち本当に展示がおしまいとなった。ステージの上には朝挨 拶をした人が登場しあれこれ指示を出す。User GroupのエリアではいくつかiMac(これは首振りではない方)が使われていたがこれらはAppleから借用したものらしい。それを片づけあれを片づ け。こうした展示会が終わった後はいつも感じることだが、ついさっきまで華やかに彩られていた場所がまたたくまに何もないコンクリートの壁と化す。片づけ に時間などとっているとその分料金を請求されてしまうからなのだが、その変貌の素早さには驚く。

自分のエリア がだいたい片づけ終わったなというころ、前の方で「手の空いている方手伝ってください」と声がかかる。プロジェクターなどを片づけてほしいという。そう 言っているのは朝私に「相談員」の指示を出した男。彼は例によって「これとこれ片づけてください」だけ言ってどこかへ消えてしまったが、その仕事はそんな に単純なものでは無いことがだんだん解ってくる。しょうがないから事情を知っていると思われる人を捕まえガムテープを貼り、行き先の紙を貼り、やり忘れた 作業があることが判明して箱を開け直し、、そんなことをばたばたとやりながらこういう作業もたまにやると結構おもしろいと思う。ただこのころ軽い腰痛に悩 まされていたので重い荷物を持ち上げるのだけはさけなければならない。

そうして段ボールに詰めた大量の iMacをAppleブースのエリアに返却すると片づけも終わったようだ。この後打ち上げがある、ということでOMEのブースにいた人間はぞろぞろと移動 する。まだ時間があるのでホールの外でお茶など飲んでお話をする。何故去年まで幕張だったのが今年から東京ビッグサイトになったか、等々おもしろい話を聞 くことができる。

そのうち時間になったので8Fとかとにかく上のほうにある展望レストランのような場所に向か う。入り口で会費を集めているが、それに加えて私も貸与された「User Group Staff」のジャンパーを2000円で売っていると言う。商魂たくましいことだなあ、と思ったがどうやらこれの売り上げもある程度予算に織り込まれてい るとのこと。買ってもらえないと赤がでてしまうのだそうだが。

中に入ると満員状態である。座る場所もないほど だ。一番奥の隅に陣取ったのだが、目の間に一室があり、そのなかにPower Book G4だけが鎮座している。その部屋の外は人間がうじゃうじゃいるのだが、その部屋の中は一種異様な空間だ。理論的にはその部屋に入ってしまうことも可能だ と思うのだが、なぜかためらわれる。このPowerBook G4だけが占拠している空間にはいることが何故か恐れ多く思われるのだ。その部屋の外にたむろしてあれこれ話していると「かんぱーい」となった。

私はこの日基本的にご機嫌であった。Expoに来たのは何度目か知らないが今日は文字通り「参加した」といえるのである。そして非営利 の展示だから好きに正直に説明すればよい。値段を聞かれ答えた瞬間に相手が驚愕するのに苦悩することもなければ、自分の良心にふたをして法螺を吹きまくる 必要もない。そしてそこであった何人かの人たちとの会話も楽しかった。そんなことを頭に浮かべながらビールをぐびぐび飲んで、あれこればくばく食べる。

そのうちApple本社から来たとかいうインド人がスピーチを始める。ちょうど1年前Mac OS Xを発表した。今年はそれが普及した、Next year, we are going to take over the world !とかわめいている。最後に

「iMacの物まねをやります」

とか いって首を振り回す。冷静になって考えると全くおもしろくないのだがみんな酔っぱらっている上に上機嫌だから大受けである。

そ のうち今回User GroupのStaffが代わる代わる挨拶を始めた。聞くところによると彼らと彼女たちは全員ボランティアでやっているという。この熱意には正直頭が下が る。昼寝をするのが何より好きな私では相談員として2時間手伝うことがせいぜいのところだ。ここで再び「ジャンパー買ってください。買っていただけたら料 理の追加が出せます」とアナウンスが。私は「左様ですか」と思うだけだが、同じOMEのブースに参加していたかねうち氏はさっそく買いに行く。ああ、若い 者は素直であることだなあとも思うがこれは彼が結構よっぱらっていたせいかもしれない。

それが終わると「ジャ ンケンによる景品くばり」が延々と行われる。私も何度か参加してみたが、もっとも成功した場合で一回戦突破。8割方はたちまち敗退である。そのうち自分に は手が届かぬものである、と勝手に決めつけてぼんやりそれを眺めるようになった。最後にはAppleのUser Group担当らしき人が現れ、新型iMacを景品にすると宣言。ただし

「納期はいつになるかわかりません」

と繰り返し言うのだが誰もそんなこときにしちゃいない。私もがんばって手をあげたがまたもや一回戦敗退である。最終的に勝ったのは誰 だったか。とにかくそれをもって会はお開きとなった。一同はぞろぞろと家路につく。

一人になるとあれこれ考え る。今日はおもしろかった。しかし来年はどうなるのだろう。確かにここ数年の出展社の減少はただごとではない。Apple社の財務状況は改善されているよ うだがシェアはそんなに落ちてしまっているのだろうか。まあつぶれることがない限り私はMacを使い続けるつもりだし、きっとExpoも何らかの形で行わ れるのだろうが。

ああ、そういえばまだ私のiBookって対面修理の対象機種にならないのかなあ。今日も何人 かに

「トラックパッドがめくれてますよ」

と言われたのだけど。

 

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注釈