題名:私のMacintosh

五郎の入り口に戻る

目次に戻る

日付:2001/10/29


28章:iBook

さて、そうこうしている間にBrutalな熱気はどこかに行った。というかこの年は8月にはいってから例年にくらべ過ごしやすかった気がする...などと考えているとMac World Expo at Parisが近づいてくる。New Yorkで肩すかしをくった分期待が高まるのは避けがたいところ。ところがAppleが珍しく事前にアナウンスを出して曰く

「今度のExpoでは新しいハードウェアの発表はない」

このExpoではMac OS Xのバージョンが主題になるだろうとは誰もが予想していたところ。それでもPowerBookのバージョンアップくらいはあるのではないかと思われていたのだ。ある人はこの発表を文字通り受け取り、一切のハードウェアに関する発表はないかと考えた。しかし別の人たちはそうではなかった。新しいハードウェア、という言葉には小改良は含まれないと受け取ったのだ。

そのどちらの意見が正しいかは遂に誰にも解らないままとなった。9月12日の朝、寝ぼけ眼でNHKニュースをつけた私はそこに映し出された光景に声を失った。半ば呆然と家を出れば道に猫が死んでいる。なんということだ。あんなにたくさんの人が一瞬にして命を落とし、そしてここでは猫が。それでも気力を振り絞って会社に行こうとしたが、今度はホームにアナウンスが流れる

「人身事故」

会社に着くとメールをチェックし至急の要件が無いことだけを確認し私は家に戻った。その日は一日ぼんやりとTVを眺めて過ごした。あんなにたくさんの人が。

 

それからしばらくはMacintoshの事など頭になかったし、「Mac World Expo at Parisは中止」というアナウンスを聞いてもそれが何を意味するか解らなかったほどだ。

しかし時の流れとともにいつしか頭は通常の動きを取り戻してくる。10月にはいっていくつかのニュースソースが「PowerBook G4とiBookの在庫が少なくなってきている」と伝えだした。これは通常モデルチェンジのサインである。そのニュースがしばらく続いた後、10月16日の火曜日にバージョンアップが発表されると言う情報が流れだした。その内容についてはいくつかのバリエーションがあったが、そのうちあっと驚くようなチラシがインターネット上に掲載された。あるMacintosh小売店が一日先走って「新製品」の広告をユーザーに送りつけてしまったのだ。数年前だったら

「アメリカではこんなことがあったらしい」

で終わってしまう話しも今ではまたたくまにインターネットによって全世界を駆けめぐる。そして翌日には正式に発表がなされた。

その内容はほぼ予想した通りであり、前から何度も噂だけが語られたカラーバリエーションは無しである。しかし内容を子細に見ていくと、それが

「かゆい所に手が届く」

バージョンアップであることに気がつく。

私が目標としていたiBookについてみてみよう。もう少しスピードがあがったらなと思っていたら、CPUは600MHzになり、バスのスピードも上がった。もう少しHDの容量があがればな、と思っていたら30GBが用意された。日本語キーボードはいやだな、と思っていたら、注文時に指定することによりUSキーボードが選択できるようになった。恰好はいいがでかい、と不評だった電源ユニットは小型でとてもしゃれたものになった。そして「ようやく使えるようになった」と評判の高いMac OS 10.1が標準インストールである。

つまり従来iBookに対して抱いていた「いいんだけどもう一息」の一息が本当に達成されしまったのである。これで私はもう買わない理由がないではないか。しかし私はうじうじしていた。まあ今の2400でもちゃんと動いていることだし。

そんなことを考えていたある日、会社である男と話す。新しいiBookがでたんだよーん、と私が言う。彼が「買わないんですか」と言う。私はいやー、いいんだけどね。そういえばこの2400もバッテリが完全におしゃかになったしねえ、などと言う。

 

それは盆休みのことであった。寝台特急にのって旅をしていた私は駅に降り立つとさっそく公衆電話を探しメールをチェックしようとする。しかし最初の数通を読み込んだところで思いがけないことがおこった。いきなり電源が落ちたのである。

何が起こったかわからない私は混乱した。これはどうしたことだ。電車に乗っている間コンセントに電源を差し込んで充電していたつもりだったし、ちゃんとバッテリマークも表示され、なにがしかは充電されていることを示していたはずだ。そりゃ最近完全に充電してもバッテリが満タン表示をしなくなってはいたが、それでも20分くらいはもっていたではないか。

そうか、きっとコンセントがちゃんと突き刺さっていなかったんだ。あるいは早めにコンセントを抜いてしまったから、弱ったバッテリはスリープ状態でも結構電気を消費してしまったんだ。などと自分に言い聞かせるようにいくつかの理由を考え出す。

さて、宿に着くと、今度は慎重にバッテリーを充電する。かなりのレベルまで充電された表示になったことを確認し、電源コンセントを抜くと脱兎の如く一階の公衆電話に向かう。これなら大丈夫、なんの問題があるのか、と思ったらネットに接続し終わる前に電源が切れた。

私は冷徹な事実と向き合うことをよぎなくされた。すなわちバッテリーは急速に消耗し今や2400を1分たちあげておくことすらできなくなったのだ。どうしてくれよう、とあれこれの手段を考える。とはいっても選択肢は二つしかない。外付けのバッテリを購入するか、それとも新しく2400用のバッテリーを購入するか。後者のほうが持ち運びには便利だがなあと思い、東京に帰ると秋葉原に降り立ちMacintoshショップに向かう。すると外付けバッテリは私が思ったよりもはるかに安くなっていることに気がつく。なに、多少かさばっても新しいiBookを買うまでの辛抱だ。それにこの値段差は何よりも好ましい。私は外付けバッテリーを購入した。

内蔵のバッテリーは完全に死んでしまったから、今や付けておく意味もない。ずっと取り外してしまうことにする。とはいっても穴があいたままではなんだから紙で(そこらへんにあった付箋紙を折り曲げた物)ふさぎセロテープを貼る。これでなんとか日々の使用に耐えるようにはなったが最近は日付などのデータを保持しておくためのバッテリすら空になったようだ。電源コンセントを抜いた状態で4時間以上ほおっておくと日付は1904年に戻ってしまう。

 

こんな話をずらずらとしてると相手は最も至極な事を言った。

「それは大坪さんに新しいのを買えと言ってるじゃないですか」

うむ。なんという説得力。私は反論する言葉もなく黙り込んだ。しばらくして口を開く。君の意見は全く正しい。私は新しいiBookを購入することとしよう。

 

キーボードを交換したい、という野望があるからApple Store なるオンラインストアで注文だ。それでも一応土日を挟み自分の気持ちが変わらないかどうか試しては見たのである。明けて月曜日、買おうという意志は全くゆるがない。私はぐい、と購入のボタンを押した。

しかしその日購入をしたのはそれだけにとどまらなかったのである。我が家ではルーターなるものを設置し、そこからモデムを使って複数のパソコンからインターネットにアクセスできるようにしている。このしくみはなかなか快適なのだが、昨今の情勢の変化に伴いいくつか足りない点ができてきている。一つは最近やたらとはやりだしたADSL/CATVの接続に対応できないこと(このルーターはISDN対応なのだ)もう一つは便利便利と評判が高い無線LANに対応していないことである。

そのうちルーターも変えなきゃなと思っていたのだが、iBookを無線LAN付きで注文してしまった。これが良い機会でなくてなんであろう。朝の8時頃、寝ぼけた頭は深く考えること無しに妙なことをし始める。あれこれ検索すると私は別のオンラインショップでルーターの購入ボタンを「ぐい」と押したのである。

 

さて、この週にはもう一つのイベントが待ちかまえていた。先週PowerBook G4, iBookを発表した直後の事である。来週の火曜日にAppleは新しい製品を発表するというアナウンスがそこらへんをかけまわった。内容は例によって秘密だが、Hint : This is not Macなる言葉があれこれの想像をかき立てる。

日本時間の水曜日の朝、結局発表されたのは大方の予想通りポータブルのMP3プレーヤーだった。驚きは少なかったものの私はその写真を見ながら考えた。私はきっとこれを買うのだろうなと。Clieに外付けの音楽再生キットが発売されていたがなんとなくこちらのほうがご機嫌に使えるのではなかろうか、などと考えるのだがまだ写真を見ただけだから何の根拠もないのである。なのに何故そう思うかと言えば、あれやこれやの連続購入で支出に関してかなり感覚が鈍っていた、というのが本当の所ではなかろうか。

 

それからしばらくは待ちになった。考えてみればこの2400を買ったのは1997年の12月。4年に少したらない位使ったことになる。その間にLCDを交換。髭ボタンと呼ばれたクリック用のボタンは2度交換。キーボード、HDを交換し、CPUは2度アップグレードした。バッテリの中身も一度交換している。前のDuo280cが3年ちょっと。今度のiBookとはどれくらいのつきあいになるのだろうか。

そんなことを考えながら私はあれこれの情報をあさる。今度こそ私はMac OS Xに移行しようとしている。そのためにはいくつかのソフトウェアが動くかどうかを確認せねばならない。

理想的に言えば従来のMac OSが動くClassicは使いたくないところだ。しかしOS Xそのまま対応のアプリケーションはまだ数が少ない。しかし私が常用しているプログラムもこれまた数はそんなに多くない。そのなかで一番多く使っているのは、この文章を書いているサイト作成ツールである。

OS Xへの移行がなくとも、以前からこれをなんとかしなければ、と考えていた。私が使っているホームページProというアプリケーションは開発、販売中止になってしまっているのだ。かといって値段があっと驚くほど高いプログラムなぞ買ったところで私はそんなに凝ったことはしないのである。このサイトを作るのに最低限の機能を持っていてOS Xでご機嫌に動いてくれるツールはないものか。

そう思って探してみるがどうにもそうした物がない。思えばWebの上で使える機能というのは、ずいぶんと多彩になった。それを全部サポートしようと思えば高いツールになってしまう。HTMLエディタと称して直接タグを書くプログラムはあるし、それで本当にサイトを作ってしまう人がいるのも事実のようなのだが、どうもそこまでは踏み切れない。ということはしばらくClassic環境は存在し続けるということであるか。

などと心の準備は進んでいるのだが、Built To Orderを選択したこともあってかいつ実物が届くともしれない。幸いにして2400は順調に動き続けていてくれる。日は静かに過ぎていく。

「ご注文のiBookを発送しました」

という連絡が届いたのは10月の28日。さっそくWebで注文の状況を確認してみると

「お客様の注文確認中」

になっている。私としてはメールが正しいと思いたいところだが真実はどこにあるのだろうか。既にしてルーターは届きセットアップも終わっている。今は待つしかできることはない。

 

前の章 | 次の章


注釈