題 名:Java Diary-86章

五 郎の 入り口に戻る

日付:2006/3/31

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EuroITV2007-一日目:長い前置き

家 からまず向かうのは成田空港である。会社で行き方をあれこれ調べているうち、あることに気がついた。これまで成田に行く時は必ず「成田エキスプレス」と いう全席指定の特急を使うものだと思っていた。しかし行き方検索をしたところエアポート快速という電車もあるようではないか。おまけにこちらは普通列車だ から料金が安い。最近無駄にけちになっている私としては、少しでも安いほうが望ましい。これにしよう。時間もそれほど変わるわけでもないし。

と いうわけであまり何も考えずに家を出る。とにかく早く行けばラッシュにあわずに済むに違いない。そう思って横浜駅に到着したが、時刻表を見れば、成田空港 行きの電車は30分以上先だ。しょうがないから人通りの少ないところを探し、とにかく時間をつぶす。そのうちいやな予感がし始める。ここに到着する普通列 車はどれもこれもとても混んでいるのだ。考えてみれば今日は平日でしかも朝の通勤時間帯なのであった。今回私は初めて

「海外出張時かばん一つしか持たず、荷物をあずけない」

を 実践しようとしていた。なぜかと言えば、それができると飛行機が到着してから延々ターンテーブルの近くで待つ必要がないからだ。その思いつき自体は悪くな いと思うのだが、結果として私の荷物は、一つとはいえとても大きくなっている。果たしてこれを抱えてあの電車に乗ることができるものだろうか。そう思うが いまさらほかの選択肢はない。観念してエアポート快速を待つ。

幸 いなことに到着した電車は悲惨なほど混雑はしていなかった。しかし込み合っていることに変わりはない。座ることなど考えも及ばない。かさばる荷物を足元に おいてなんとか人様の邪魔にならないように努力する。近くにベビーカーにのせた子供をつれた夫婦もおり、はたで見ていても大変そうだ。かといって今の私に 人に手を貸すような余裕があるわけもない。きっと東京をすぎればすこし空くに違いない。そう信じてひたすら人の隙間をみつけ体をその形に適合させる。あ あ、品川だ。ここで空くに違いない、と期待したほどは人が降りない。しかし楽になったことには違いない。東京をすぎいくつかの駅をすぎるうちに空席まで出 始めた。やれやれ、というわけでようやく座ることができる。

そのうち横浜駅から東京までの混雑がうそのような車 内になる、、はずがそれな りに人がのってくる。しかしこちらとしてはいったん座ってしまえば話はらくだ。ぼーっとしているうちに空港に着く。改札をくぐると、自動チェックインの機 械がある。今回は会社で航空券を手配してもらったのだがe-ticketなるものが来ただけだった。初めてなので勝手がわからない。いずれにせよ、これが あれば、「航空券をなくしたらえらいことだ」という強迫観念から逃れられるらしい。さっそくその機械に向かうと、係員のお姉さんがいてパスポートと航空券 の何かをみせろという。一応番号の控えを持っていたのでそれを提出する。OKがでて機械に向かう。何種類か方法があるようだが、確かパスポートをよみこま せたのではないかと思う。すると今日乗るはずの便が表示され、ぽんぽんと入力して簡単にチェックイン。なんと楽なんだ。預ける荷物もないからこれで何もか もおしまいである。時間までラウンジを探してそこであれこれする。ネットワークの接続が有線なので接続台数が限られる。というかイーサネットのケーブルを 持ってきたことがここで役に立つとは思わなかった、と何を始めるかといえばクレジットカードのサイトにアクセスである。なぜそんなことをはじめたか。

や たらと面倒になった出国の検査を通り抜けたところで私はふと気がついたのである。今回持っていくものを極力少なくしよう、となんでもかんでも家においてき た。しかし家からでてエレベーターのボタンを押したところで気がつく。バスの定期まで置いてきてしまった、と。五日間の間に2回しかつかわないものだが、 これがないと往復で420円損することになる。大金だ。というわけで家に戻りバスの定期をもって引き返す。しかしこの出国手続きをした後に私が気がついた 恐怖はこの420円の比ではなかった。

普段財布にはやたらといろいろなものが入っている。先達の言葉にあるとお り財布に一度はいったもの は二度と出て行かないのだ。しかし海外に行って財布なくしたりとられたりしたときのダメージは最小限にしたい。というわけで、今回は景気よくいろいろなも のを置いてでかけてきた。
いつだったか海外旅行になれた人がこういったのを覚えている「カードとパスポートと航空券さえあればなんと かなる。」航 空券はいまや番号さえひかえておけばよくなった。さっきから「パスポート落としていないか」といやになるほど確かめているが、今のところ落としていないよ うだ。クレジットカードだってちゃんと持ってきている。しかしここで気がついたのだが、会社のカードを忘れ、個人のカードしかもって来ていないのだ。

い や、もちろんこれ自体問題があるわけではない。今まで個人のカードが使えなかったことなどないし、利用限度額もかなり高いはずだ。しかし私は常に無駄な心 配を怠らない男なのである。何かの理由でこのカー ドが使えなくなっていたらどうしよう。ホテルまではたどり着けるだろう。しかしそこでチェックインに問題がでるかもしれない。金を持たないやつなど止めら れない、といわれたらそれまでである。私はアムステルダムで途方にくれることになる。学会の料金は振り込んであるとしても、どこに泊まればよいのか。いっ そのこと「ネットカフェ難民」にでもなってみようかと思うが、そもそもアムステルダムでネットカフェ難民になれるものであろうか。かくのごとく海外旅行と いう のは何かと悩ましい。

というわけで私は「自分のカードは使えるものかどうか」を確認しよう、とサイトにアクセス を始めたわけだ。しかしそ れを確認するためには必要な情報が不足しているらしい。こうなればいかんともしがたい。とにかく行ってそれから考えよう、というわけでPCを閉じ る。ここではインターネットにつなげることができる数が限られているのだ。訳の分からない強迫観念で占有しては申し訳ない。

席 をかわってぼんやりしているうちに 時間となった。これから 12時間をすごす飛行機に向かう。座席は2階席。窓側である。トイレの近い私としては、通路側のほうがよかったな、とか思ったがこれまたいかんともしがた い。それからはひたすら居眠りしたりご飯を食べたりする。今回の機体はとても設備が充実しており、何チャンネルもの映画を自分の好きな時に好きなタイミン グ&スピードでみることができる。つまりつまらなければ飛ばしていいのだ。見逃していたブラッドダイアモンドと日本にいれば見たであろう「プレステージ」 をみてご機嫌である。1800円×2得した。(画面が小さいとか吹き替えだとか細かいことは気にしないのが得策である)同じく見逃していた「硫黄島からの 手紙」もあったのだが、飛行機の上でしくしく泣いても困る。結局みないことにした。

映画やゲームにも飽きると、 「現在どこを飛んでます」 という地図を見る。ああ、北極海だとか、ここらへんで落ちたら冷凍になりそうだ、とかあれこれ考える。高度一万m以上を飛んでいるのだかr、どちらにして も落ちればお陀仏なのだが、そこはそれ。とかなんとかやっているうちに本当に無事アムステルダムに到着してしまった。

ま ず直面するのが入 国審査である。何か書類はいらないのか、と思っていたが航空会社から送ってきた封筒に入っていたのはどう見ても「タイ」入国に必要なカードだった。機内の アナウンスを聞いていてもどうやら必要ないようだ。おとなしく列にならんでいると、そのうち自分の番になる。入国審査官は私のパスポーををみると

「こんにちは」

「げんきです かー」

と日本語で 言う。こちらも「はい、げんきです」とか答える。もちろん日本語でこんな挨拶はめったにしないのだが、そんなことはどうでもよい。何を聞かれたか忘れたが ぽんぽんとはんこを押してもらい、あっけないほど簡単に入国である。さて、問題はここからだ。理論的にはホテルにタクシーで行くこともできるし、会社も金 を払ってくれるようだ。しかしそれはあまりにあまりではなかろうか。というわけでスキポール空港からアムステルダム中央駅までまずは電車に 乗る。多分こちらだろうと思しき方向に歩き、列に並ぶ。前の方に結構時間をかけている人がいるから、なにやら面倒かと思えば何もない。行き先を言うと黒人 のおばちゃん が、チケットをくれ、何番線にいけ、という。言われた方向に行くと何やら人が待っている。ぼーっと立っているとそのうち電車が来たが、こちらの電車には1 と2、つまり等級ががあるから気をつけねばならぬ。2階席に上ると空いている席を探す。ものすごく大きな荷物を持っているからなんだか気が引けるが、周り の乗客はまったく関心が ないようだ。Friendlyでもなく、舌打ちされるわけでもなく。外をぼんやり眺めているうちに中央駅についた。さて、問題はここからだ(こればっかり 言っている気がするが)

今日泊まるホテルの案内を見ると「トラムの9番にのれ。なんちゃら駅の目の前だ」と書い てある。というわけでトラムというものを探さねばならぬ。それっぽい標識に従いながら駅をでる。すると確かに路面電車のようなものが停まっている。あれが ト ラムであろう。さて、回数券を買わねばならぬ。調べたところによると一回ずつ払うより回数券のほうがとっても安いらしいのだ。さて、ここで問題です。回数 券はどこで売っているのでしょう。 勘に従っててくてく歩いているとそれらしき建物が見つかる。列にならんで、さて窓口に来ました。ここでさらに問題です。回数券はオランダ語でなんというの で しょう。一応事前に調べてはいるのだが、その言葉は頭から綺麗に消え去っている。しょうがないから机の上にそれらしきものを見つけ「それをくれ」と言う。 なんとか購入することができる。次の問題は「私が使う9番はどこから出発するのでしょう」というものだ。
なんだかトラムがたくさんと まっていると ころに行き、看板を観ながらあれこれ探す。しかし9番は見つからない。2回くらいうろうろしているあいだにトラムに轢かれそうになるがそれでも見つからな い。はて、これはどうしたものか、と思い視線を遠くにやるともう一カ所トラムの停留所というか発着場所があるような気がする。そちらに向かって歩く。する と9番の停留所があることがわかる。ほっとして待っているとそのうちトラムが到着した。

入り口は何カ所かあるよう だが、2両連結されている後部の 中程から乗り込む。すると壁の中におばちゃんが座っており、どうやら改札のようなことをしているようだ。先ほど買った回数券を差し出すと上からか下から忘 れたが二つ目のところにがっちょんとスタンプを押してくれる。空いている座席を見つけて座る。ほっと一息。しかしまだ問題は続いている。どこで降りるの だ。一応路線図はプリントアウトしてきたが、オランダ語はさっぱり聞き取れないし、おまけにドイツ語に類似していて単語がやたら長い。車内になにやら表示 がでるのだが、それが

「急停車にご注意く ださい」

なのか停留所の名前なのかもわからん。とはいえなんとなく見当はつくからひたすら外を見 たり中をみたり路線図を観たりして降りるべき停留所を探すべく努力する。最初はなにやら繁華街のようなところを通る。非常に雑然としているが、不思議と米 国の都市にあるような「危険」という感じが薄い。中華料理屋もあり少し安心する。そのうち建物がまばらになってきた。そろそろ近づいているような気がする けど、と思っているうち目的とする停留所の名前が車内に表示される。停車したところで降りる。するとホテルのサイトに載っていた写真と同じホテルが目の前 に 建っている(当たり前だが)やれうれしや。どうやら到着したようだ。

フロントにいるのはものすご く無愛想な女の子である。胸にた くさんの国旗がついたバッジを付けていることからしてたくさんの言葉をしゃべることができるのだろう。英語をしゃべってくれるのはありがたいが、問題はや たら早口でぼそぼそしゃべる点にある。おまけに不思議な形になまっている。全く人の事は言えないのだろうが、とにかく聞き取りにくい。何度か聞き返す。期 間中ちゃんと部屋を確保したいならクレジットカードを出せ、とか言われる。(たぶんそんなことを言ったのではないかと思う)さあ、緊張の瞬間。ちゃんとク レジットカードは通るだろうか?彼女はこちらの懸念をよそに無造作にクレジットカードを機械に通す。その無表情な顔に変化はない。ということはちゃんと 通ったということだ。やれやれ、これでネットカフェ難民にならずともすみそうだ。朝食もそこで食べられるわよとか言う が、最 近のユーロ高を反映して、日本円にすると2000円を超える。誰がそんなもの食べるか。

というわけでエレベーター に乗ろうとする。しかしボタンが どれだかよくわからない。おまけに扉は自分で開けなくてはならないらしい。後ろに立っていた誰かがあけてくれる。礼を言って乗り込む。てくてくあがってよ うやく部屋に到達。設備を一通りみてシャワーしかないことを知りちょっと絶望する。インターネット接続はとてつもなく高い料金であることを知りさらに絶望 する。一泊2万円もとって日本のビジネスホテルにも劣る設備しかないではないか。(もちろん私は日本のサラリーマン的視点からしか物を観ていないが、所詮 私は日本のサラリーマンなのである)しかしとにかく今は無事にホテルまでたどり着きチェックインもできた。やれやれ。

と はいっても一息ついたらま た外に出よう。晩ご飯食べなくてはならないし、明日のる「40番」というバスがどこから出発するのか調べなくてはならない。というわけでのこのこ外に出 る。どうやら歩いて少しのところに駅があるらしく、それにともない町が存在している。世界の言葉マクドナルドも見つかる。というわけで晩ご飯はここで 食べることにする。さらに駅の周りをぐるぐる周りバス停を探す。見つからない。ようやくバス停とおぼしき場所が見つかり喜ぶが番号をいくらみても 40がない。41はあるのだけど。しょうがないからその日はあきらめ、翌日また探すことにする。マクドナルドによりあれこれ買って部屋で食べる。

さ て、翌日である。そう遅くもない時間に目覚めた、ということは時差ボケがあまりひどくないことを意味する。ごそごそ荷物をまとめて出発。もし「順当」にバ スに乗ることができれば早すぎる時間にホテルを出る。なぜかと言えばものごとが「順当」に進むことを期待するのは間違っているからだ。昨日見つけられな かったバス停がやはり見つからなければ歩くしかない。2−3kmだから理論的には歩けるがかなりの時間を覚悟せねばならぬ。

と かなんとかぶつぶつ言いながらホテルを後にする。昨日通ったから勝手が分かっているはず、と思いながら歩き出すが、自転車にひかれそうになる。「ドクトル まんぼう航海記」という本にこう書いてあったような気がする

「こ の国の人は自転車を愛しているから、たまに自動車など買ってもそんなものにはのらない。自転車の荷台にくくりつけふうふういながらこいでいく」

こ の記述が誇張ではないと思えるほどの自転車の普及ぶりである。でもって日本の感覚で言えば歩道がある場所に自転車専用レーンがあるわけだ。そこを事情の知らない日 本人がふらふら歩いているとチリンチリンとならされてしまう。さて目的とするバス停はどこだ。その前にご飯もなんとかしなくちゃ。

と 考えていると道ばたに何 やら開いている肉屋のようなところがある。近づいてみるとパンも売っているようだ。店の親父と目があったのでMorinigとかいう。それからあれとこれ と、とオーダーする。3−4ユーロだったと思う。机に座ってのんびり食べる。時間はまだ山ほど有るのだ。あまりのんびしていたらソーセージとチーズをはさ んだパンのおしりから油がしたたりおちていた。ズボンに3カ所ほど染みを作る。ええい、と思うが気にしている場合ではない。

食べ終わると礼を言ってその場所を 後にする。そうだ。バス停を探さなければ。というわけで大通りに向かう。昨日の夕方来たときよりたくさんのバスが行き来している。その番号をよく見てみると40番が あるではないか。やれうれしや。これでなんとか会場にバスでいけそうである。丁度40番のバスが行ったところなのでしばらくまつ。そのうち次のバスが来 た。さっそく乗り込む。人がわらわら乗ってくるが日本のように混むことはない。みんな座ってもまだ空きがある。バスが動き出す。こちらはどこで降りればよ いかわからぬから外をじっと見続ける。そのうち地図で示された場所に近づいて気がする。ボタンをおして降りる。さて、と観ればどうやら目的地のようだ。目 的地はCWIというのだが、その看板が見える。やれうれしや。ここに違いない。ということで建物の中にはいる。

こ こは数学関係の研 究所らしくあまり人の気配がない。とりあえず今日Tutorialが行われる筈の部屋を探す。3階だか4階に行くとすぐ見つかる。しかしここまできわめて順調 にたどりついてしまったので、時間が大幅に余っている。しかしやることもないからぼーっと座っている。落ち着かないからあまりプログラミングとかできな い。ただ時間が過ぎるのをまつ。

下の方をちらちらみるがあまり人通りがない。どこかに受付でも作 られるかと思ったのだが、それは この建物の下ではないようだ。いったん降りて外に出る。すると隣の建物の入り口にポスターが貼られていることを知る。そこに受付があり、あれこれすると鞄 をくれる。

初日はTutorialということで座って聞いていればよい、はずなのだが各コースの最初に自己紹介を やれと言われる。自分の名前だけ言って「明日からデモやるから見に来てね」という。英語で長い文章をしゃべるのはいやだ。

それさえ終わればあとは聞いているだけである。その中では「情報推 薦」の話が面白かった。ある講師はこう言い切った。

「TV番組の中身はどうでもいいんだ。友達と同じ番組を観て、 後でそれを話題に盛り上がるのが重要なんだ。だから”個人ごとにあわせた番組を推薦する”のは間違っている」

言 われてみれば確かに、と思う話だがここまできっぱり言い切られると感動を覚える。正直言えば今回の出張で一番の(表向き)収穫はこの言葉だったように思 う。

と いうわけで一日目はおしまい。さて晩ご飯を食べなくては。というわけでホテルに荷物を置くと駅のほうに歩き出す。いろいろな店が目にはいるがやはりアジア 系のご飯があるところに心が引かれる。それとなぜか知らねど私は「チップ恐怖症」にかかっていたので、チップを払わずに食べられるところはなかろうか、と 歩いているとあるChinese Food屋が目に入る。テイクアウトであれこれ食べられるらしい。久々にアジア人の顔を見るとほっとする。とはいってもオーダーは簡単ではない。何が書い てあるかさっぱりわからないのだ。しょうがないからはってある写真を指さし「あれ、あれ」という。向こうは分かったようでなにやら作り出す。

と は いっても何がでてくるかは神のみぞ知るところである。待つことしばらく。袋に入った何かがでてきた。パッケージの一つは何かの炒め物、もう一つはご飯らし い。とても立派な量だし、ご飯もあるのがうれしい。やれうれしや、ということでさっそくホテルの部屋に戻る。袋の中身をあける。本当にこれ使い捨てでも らってきてよかったのだろうかと思うほど立派な容器に入っている。しかしそこで私はある問題につきあたる。箸がないではないか。日本であれば「箸おつけし ますか」と聞かれるのだが、もちろんこちらではそんなことは聞かれない。というかそもそも中華料理であっても箸で食べるとは限らぬではないか。

な どと納得している場合ではない。何か食べるのに使えるものを探さなくては。そういえば最初にアメリカ出張に行ったときもスプーンもなにもなくて手づかみでライス を食べたような気がする。ここでまたそれをやるのか、などと感慨にふけっている場合ではない。えーっと何かないか、と探してももちろん公園の木をけずっ て、などというわけにもいかない。そもそもここは地上はるかなホテルの一室であり木などないのだ。

というわけで持 ち物をごそごそ探す。すると歯ブ ラシが2本入っていることに気がつく。この歯ブラシ+歯磨き粉というのはこの出張で私を悩ませたものの一つだった。少し前だったか航空機を狙ったテロが未遂で 摘発された。犯人達は液体を混ぜることで爆弾としようとしたのだそうな。そのおかげで液体を機内持ち込みするのはとても大変になった。100cc以下の容 器に小分けして透明なビニールにいれなければならないのだ。

これを聞いた私は「これは液体を何も持ち込ま ないに限る」と考えた。しかし一つ問題が。今回は何も預けない、ということをモットーにしているから液体は預ける荷物に、とはできないのだ。よし何も持たないことにして、歯磨き粉は 現地で買おう、と思い切った。今こうして冷静になって考え直すと

「そ んなにがんばらなくても、素直に透明な袋にいれればいいではないか」

と思うのだが、自分が馬鹿な事をやるのはこれ が初めてではないし、もちろん最後でもないと思う。

えーっと、とにかく歯ブラシがなぜ2本有るかと言えば、一本 は自分が持ってきた物。あと一本は飛行機の洗面所にあったものだ。これには歯磨き粉もついており

「をを、これさえあれば買わなくてもいいではないか」

と 喜び持ってきたのだった。というわけでここに細長い物が2本ある。ではやってみましょう、というわけで2本の歯ブラシ(もちろん「歯」のついていないほ う)をつかってご飯を食べ始める。するとこれが素敵においしい。海外で食べる中華料理のうまさに驚くことはいつものことだが、考えてみれば飛行機に乗って 以来というものまともな物を食べていない。そこにこのエビとか野菜である。もう幸せ。

というわけでかなり大量 にあったが(普段だったら一家全員分くらいはあったのではなかろうか)ご機嫌のうちに食べ終わる。そしてその日は安らかに眠りにつく。これでバスタブさえ あればなあ、、と文句を言うのは贅沢というものだろう。

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注釈