題 名:Java Diary-80章

五 郎の 入り口に戻る

日付:2006/3/31

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Goromi-TV Part15:IPA-X 後編

しばらくすると指定された場所に行く時間となる。NSN氏は「勝負服」の礼服に着替えている。私はピンクのシャツにサスペンダー、よれよれのズボンだ。こ の差はなんなのだろう。彼が言うには(この日の朝に聞いたのだが)当初紋付はかまで出席をもくろんでいたとのこと。でもって「東京ビッグサイト」「貸衣 装」で 検索をかけるとアニメ関係のあやしげな店ばかりヒットするのだそうな。そんななかで見つけた紋付はかまの値段はちょっと「笑いをとる」ためだけに払うのに は躊躇される値段だったとの事。ううむ。やはり笑いをとろうと思えばここまで徹底する必要が有る。私はまだまだ甘い、と反省する、、と書いていて自分で何 をしているのかと思うが暇だからそんなことしかすることがない。そのうち席に座れといわれる。私の左隣に座った人は大変体格がよく、私はなんとなく右側に よる。私の右側に座るべきひとはペンネームで応募しているのだが、実は夫婦である。というわけで本来二つ席がなければいけないのに一つしかない。ちらちら とこちらを見ていたが結局別の場所に座ったようだ。

と いうわけで授与式が始まる。IPAの偉い人が挨拶。経産省のお役人さまがご挨拶。ここらへんはほにゃほにゃと聞き流す。その後一人ずつ名前を呼ばれて壇 上に上がる。ステージ上にテープで立ち位置が指定されている。ふーん、こういうふうになっているんだ。私は3人目。今回認定されたスーパークリエーターは 12人だから全員が登壇するまで結構ひまだ。自分が観客の立場であれば、ステージの上の中年男など誰も見ない、とわかっていながらあまりみっともない格好 をするのもいやだ。体の後ろで手を握り真面目な顔をして立つ。そのうち一人一人記念の盾をもらう。もらった後は一分間スピーチだ(最初の人だけは後でもっ と長いスピーチ)聞いているうちアカデミー賞のスピーチを思い出す。PM,IPA,それから協力してくれた皆様ありがとう、と言う。私はと んでもない人間であるの感謝の念について語ろうとは一瞬も考えたことは無かった。とはいっても今から内容変更というわけにもいかない。何度か口 の中で練習してきたように次の如くしゃべった。

「私●十年サラリーマンをやっておりますが、サラリーマンというのは上司や会社の理解を得た上でお客様にご満足いただけるものを作ったり、したりするのが 仕事です。
しかしながら時々そうしたこととは関係なく”俺はこれを作るんだ”という理不尽な欲求にかられれるこ とがあります。と はいえそうした考えを個人で形にすることはなかなか難しい。
今回はそうした理不尽な欲求を形にし、発表するチャンスを与えていただきましたことに深く感謝いたします。ありがとうございました」

その後のスピーチを聞けば、スーパークリエーターに選ばれたのは大学などの研究機関の人が多いようだ。こ ちらといえばチンピラサラリーマンである。今は一 応「Laboratory」と名がつく会社に 勤めてはいるが、会社と顧客の理解の中で動くことでしかない。研究機関にももちろん枠はあるのだろうが、おそらく彼らの感慨は私 のそれとは違うだろう。思えば日本の防衛産業で働くことに疑問を抱いていたとき

「君は言われたことだけやっている仕事のほうが合っているのではないか」

と上司に言われた。与えられた仕事の 内容に疑問を持つ人間など企業では無用なのだ。常に企業のすることは正しい。従って仕事に疑問を唱える人間 などは単に自分の無能さを言い訳しているにすぎない。そうした考えを持つあの男は確かにあの会社-日本を代表する重工業株式会社-で常務になるほど会社に 適合 していた。会社のすることに一切疑問を持たないか、持ってもそれを隠し通すだけの知恵がある者が出世するのが世の習いというものだ。

仮にまだかの会社に勤めていたとすれば、未踏ソフトに応募などできなかっただろうし、かりに応募したとしても実行までには気が遠くなる ほどの困難が待ち構えていた だろう。いや、そんなことすら考えなかったかもしれない。「君は言ったことだけやっていればいいんだ」と言われ続け、そろそろ子会社に出向する年頃だ。そ んな自分の先行きを思いながらスーパークリエイター選出のニュースを遠雷のように聞いていたかもしれない。

世 の中の仕 組みとはおおむねそのようなものだと思っている。他人が下す評価は本当にはかないものだ。同じ人間なのに右と言われたり左と言われたり。そう思いつつもそ うした「はかない評価」に心を動か されるのも事実。その昔言われた言葉とつりあいを取る位置にこのスーパークリエイターの盾を置いておこうか。

といったところで盾の授与はおしまい。席に戻る。その後PMの一人(名前は失念した)から挨拶があったがこれはおもしろかった

「これから皆さん、職場で”そういえば君は天才だったねえ”とかいわれかねません」

とかなんとか。考えてみれ ば こういう場所で聞 く価値のある挨拶って珍しいなあとか思っているうちに写真を撮っておしまい。始まる前は「2時間もやるのか」と驚愕していた授与式だが、あっというまに終 わった。やれやれ、とブースに戻ると何かが置いてある。お寺のパンフレットのようなもので、間にメモが挟んである。なんだこれは?誰かが伝言を残そうとし て手近にあったお寺のパンフレットを使ったのかな、、とこうして当時考えたことを文字にしてみると

「なんで手近にお寺のパンフレットがあるんだ」

と思うがとにかくそのときはそう思っていた。開けてみると

「貴殿のプレゼンに感銘を受けまし た」

というお寺の住職さんからのメッセージ。感銘を受けていただけるのはあ りがたいことだが、何故住職さんが、と頭の中 に?マークが5つほど浮かんだところで説明に戻る。スーパークリエータの盾をブースにおいておく。いやみかもしれないが、この盾が人目に触れるのもこのと きくらいだろう。午後3時を過ぎると人通りが多くなり、説明を聞いてくれる人も増える。とはいっても次から次へ休み無く、というほどで はない。これくらいがゆっくり説明ができる(相手が聞いてくれる場合はだが)からいいのかもしれない。
反応はおおむね好評である、というかそもそも興味を持った人しか立ち止まらないのだから、当然とも言える。これはどうするのですか、という質問が一番困 る。今のところどうなる予定もないのだ。これ公開しないのですか、とも聞かれる。しかし動かすまでに結構手間かかるしなあ。

とかなんとかやっているうちに5時になる。閉店の時間だ。5分ほど前?に蛍の光が流れ始める。電源を落とすと宴会に向かう。PMが顔を見せてくれる。「な んだかプレゼンに人がいないんじゃないか?って言ってましたけどどうでしたか?」と聞かれる。いや、結構立ち止まって聞いてくれる人がいました、と答え る。

会場をでたところにあるニュートーキョーとかいうところでレセプションだ。ものすごい数の人がおり、しかもほとんどは背広姿だ。受付でみんな招待状を出し ている。あら、しまった。あれもってこなくちゃいけないんだった、と思ってびびったが「持っていない人はそのままお通り下さい」と言われるから通ってしま う。これだとなんですね。ただ食いもできますね。中に入るとあれこれ挨拶が始まる。政治家と思しき人が「たくさん金を使って貴様らは何をやっとる」という 類のことを言う(と少なくとも私には聞こえた)その次にはドイツから来た女性が挨拶するのだが、名前をやたら並べるばかりで何の中身も無い。わけのわから ない事言っていないでとっとと飯食わせろ、な どと考えてはいけない。

そうした私の祈りが通じたかどうか知らないが、とにかく乾杯になりあれこれ食べたり話したりする。以前全く別の場所でお世話になった人に会い、あれこれ話 をする。最近優秀な人間はみんなGoogleにいっちゃいますよねえ。そうですね、そうした一極集中は問題だと思っているんですが、とかあれこれしゃべ る。そうしているうちに今日一日たっていたのが(結構座っていた時間も長かったのだが)響いてくる。というわけで適当なところで切り上げ平穏のうちに家路 に着く。やれやれ、何かとやることが盛りだくさんの日は終わった。家に帰ると「こんなものもらった」と盾を見せる。あらよかったわね、と言われる。

二日目は様子がわかっているので、だいぶ気がらくだ。おまけにあれこれの行事もないし。というわけで朝からぼんやりと座る。といきな り館内に体育系の
「押忍」
としか聞こえない声が響く。なんだこれは、と思って恐る恐る声のするほうを見に行く。するとなにやら競馬関連のものを扱っている(正確に何を扱っていたか は知らない)ブースらしい。世の中にはいろいろな会社があり、いろいろな「正しいやり方」がある。普通の海水浴客がたくさん居る中、空手の胴着を着て歌を 歌いながら行進させられた大学時代を少し思い出す。

昨日と同じく午前中は大変暇で、午後になると人が増えてくる。お手製の怪しげな配布物もなんとなくはけていく。ムービーを公開したりしてないんですか、 と聞かれるがそれをやるとたぶんあれこれの規制にひっかかることであろう。時々 画面を覗き込んでいるがこちらが”ご説明しましょう か ”と声をかけると足早に立ち去る人がいる。まあ世の中にはいろんなリアクションがあるものだし。人がこないなー。どっか見に行こうか なーと思 うと人が来たりするのはお約束か。「これすぐ欲しい」といったうれしい言葉も何度か聴ける。いやー、どうしたもんですかねえ。フリーで公開といっても、バ グレポートをもらうたびに私はとてつもない罪悪感にさいなまれるわけでして、、(もしこのJavaDiaryを最初から読んでいる人がいれば、私がここで こう答えた理由を理解してもらえると思う)うれしかったのは「おもしろいものがあるから、と聞いて見に来ました」という人が二人くらい居たことだ。翌日の 朝私は某所にこのように書いた

「疲 れた。。足が重い。。が、楽しい。。
昔は三日連続たちっぱなしでも翌日には残らなかったけどなあ。これが年というものか。

しかしいろいろな人と話のは面白い。高校の先生。出版社の人、有名企業の暇そうなおじさん、商店街のおにいさん、お寺の住職。

茂木君のお話ではないけど、脳には新鮮な刺激が必要だ、というのが実感できるここ数日である」

そう。確かに体はつかれきっていたが、普段の会社生活では決して得られないいろいろな人との会話に私はとてもご機嫌になっていた。さて、あと一日だ、とい うわけで会社からビッグサイトに向かう。
どのような違いがあるのかわからないが、最初の二日は招待客、最後の日だけは一般公開である。とはいってもWebから申し込めば(たぶん)誰でも招待券が もらえるし、私のところにはものすごい数の招待状が送られてきた。であるからこの二種類の日に何か違いがあるのかなあ、と思っていたら本当にあった。

この日やたら多かったのが「団体」である。何の団体かと言えば、一つは高校生の団体。大半はただ通り過ぎていくが、きちんと話をきい て的確な指摘をしてく れた人たちも居た。逆に立派な社会人(と思しき服装、推定年齢)をしていながらろくに話を聞かない、あるいはわけのわからない話を延々とする人もいる。か くのとおり人間をラベルで識別するのは難しい。
話がそれた。もう一種類の団体は「新入社員」である。なぜそう推定するかといえば、いかにも「ついこないだまで学生やってました」というスーツの似合わな さ。やたら集団で移動すること、それに必要以上の元気さからそうとしか思えないわけだ。幸か不幸か私のブースには立ち止まらなかったので本当のところは わからないが。

ラベル貼りの難しさを痛感したことその2は「お年寄り」である。普通の会社員にしては年がいきすぎているような、、きっとリタイアした人なのだろう、と 思って解りやすいであろうことだけ説明しようとするとずばっと指摘が返ってきたりする。ううむ。これはいかん、としばらくの間気を引き締める。3日目にも なると説明のしかたというのがだんだん固定化してくる。というかそれまでの説明でどこが共感を呼ぶか、どこでつっかえるかがなんとなく解ってくるのでそこ らへんをカバーした台詞が固まってくるわけだ。最初のつかみは
「最近ハードディスクレコーダーが普及して、たくさん映像を記録できるようになりましたが、皆さん録画するばかりで見てないんじゃないかと思うんですよ」 となる。ここで相手が「うんうん」とうなずいてくれれば話は簡単。首をかしげたら「いや、そうおっしゃる方が結構いらっしゃいまして。。」とつなぐ。

大抵の場合この出だしはうまくいくので「これは良い」と誰に対しても使い始める。ある年配の方にそういったところ
「ハードディスクレコーダーって何ですか?」
と聞き返される。えーっと最近ハードディスクに画像を記録できるようになってまして、昔はテープに録画したもんですが、、と説明を続ける。相手の胸を見れ ばどこかの会社の「コンサルタント」と書いてある。この「コンサルタント」という職業にもいろいろな種類があるのだろう。

といったように、説明に苦労することもあれば、こちらが思いもよらなかった使い方を提案してくれる人もいる。最初出展するための3万円は高い、と 思ったものだったが、これならば十分安いと思える。来年はどうしよう。出したいけど同じネタはいやだなあ。人に見せたくなるほど拡張できたら持ってこよう か、と考えながらも時間がたつ。そのうち蛍の光が流れ出した。どうやら終わりの時間だ。どこかに注意書きがあり「最終日展示会5時までとなっておりますの で、それまでは片づけをしないように」と書いてあった。最後の10分は暇だったのだが、手元の時計で5時になったところで片づけを始める。設置と比べて片 付けはらくだ。あれこれ箱詰めしたり袋にいれたり。大きなダンボールをつくると「宅配便の受付はどこだ」と思いながらうろうろし始める。ホールを一旦でた ところにそれらしき場所がある。そこで荷物を送ると一安心。さておうちに帰ろう。

最後にこのIPAXでの反響について書いておこう。二日目の夕方に某コンサルティング会社の人が回ってきた。なんでもこの未踏ソフトの見直しをした いので意見を聞いて回っているのだそうな。と彼が前口上を述べたところでお客さんが立っているのに気がつく。この人に説明してから、ということで一旦その 場を離れる。しばし後にまた来てくれた。あれこれの感想を述べる。その中でこんな質問があった。

「スーパークリエータに認定されて周りの反応とかどうですか。何か扱いが 変わったりしました?」

私は

「いや、会社にはまだ言っていないのです」

と答える。すると相手は驚く。いや、だってここまで来て「うそだ ぴょーん」と言われたら困るでしょ。でもって 言ったのはうちの奥様だけなのですが、彼女にとっては「旦那がスーパークリエイターとして認定された」ことより「近所のスーパーで安売りをやっている」ほ うが関心が高いのではないでしょうか、と付け加える。これはもちろん冗談でちゃんと喜んでくれたのだが状況を説明するにはこうした表現のほうがよかろう。

相 手はまだ驚いたような顔をしている、ということは他の人はスパークリエイター認定を受けると何かメ リットがあるのだろうか。ちなみに会社には翌週「かくかくしかじかでスーパークリエータの認定を受けました。ご理解、ご支援ありがとうございました」と メールで上司に連絡した。最初はだまっていようかと思ったのだが、(これはレセプションの時に有る人から指摘を受けたのだが)スーパークリエータを発表し たページには私が今勤めている会社の名前もでている。うちの会社の人間は誰もこんなところなど見ない、と思いながらも万が一誰かが見つけて「これは何だ」 といわれるのもいやだ。
というわけでメールを送ったのだが、一人の上司からは「あれ中身見てないけどなんなの」といわれた。いや、いつかお見せしたやつですよ、と答える。そう いっても相手が何の事か覚えているはずもないと思いながら。もう一 人の上司からはすごいですね、本業務もがんばってくださいと返答が来た。
さて、IPAXで展示したことによる反響だが、おおむね以下の通りであった。

・プレゼンの後メモを残してくれた住職さんにはメールを送り、返事が来た。京都に行く機会があれば訪問してみようかと思う。
・教育関係の教材を扱っている会社からは「映像検索システムに進展があればご連絡下さい」とメールが来た。「今のところ何も決まっていません」と返事を出 した。
・以前働いていた会社の友達から「知り合いのブログに大坪さんが載っていました」とメールをもらった。
・「メールを送ります」といっていた学生さんに論文2編(GoromiとGardsだ)を「ご参考まで」ということで送付した。一週間たってありがとうございます、と返事が来た。
・お願いした覚えは無いが「勝手ながらメーリングリストに登録させていただきました。」という言葉とともにある人のメーリングリストに登録された。そ れから時々メールが送られてくる。メーラーのフィルターを使って自動で削除している。
・某社から「弊社のブースにお越し頂きありがとうございました」と電話がかかってきた。「いや、御社のブースには伺って下りません。当方のブースに来てい ただき名 刺交換をさせていただきましたが。。」と答えると「すいませんでした」といわれた。

しかし後でわかったことだが、スーパークリエイターに選ばれたことの影響はこれだけではとどまらなかった。一つはまあ想定内の話。もう一つはまったく想定 外の話だった。

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注釈