題名:Java Diary-76章

五郎の 入り口に戻る

日付:2006/7/12

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Goromi-TV Part11 & Gards part6

今年のWISSは小豆島。小豆島といえば実は珍スポットの宝庫だったりするのだ(ここでいう宝庫とは面積の割合に妙なスポッ トが多いという意味だが)「宝庫」に来ながら、珍スポットに一箇所も訪問せずに終わらせることができようか、いやできない、というわ けで前日の夜から夜行列車に乗って高松に向かう。そこから船に乗り小 豆島についた私が何をしたか、ということはさておきとにかくWISSである。

案内によれば船着場から会場行きのバスが出るらしい。一番最初にバスに乗ってほれほれしているとWISS様ご一行と思しき人達が到 着する。その中に一緒の会社から来て いる人間もいる。あれ、どうやって来たのですか?同じ船に乗ってましたか?と聞かれるからごにょごにょと答える。いや、そりゃ一応会社の出張で来ているの に申請以外 の経路ってのはまずいのだよね、本当は。

バスに揺られることしばらく会場のホテルに着く。毎回恒例のながーい受付の行列に並ぶ。ぼんやりしていたが、そこで思わぬ人に出会った。未踏ソフトのPM である。あが、っと挨拶した後彼はWISSにいつも参加しているということを知る。なんということだ。ということは(最終日までいて、なおかつ会場にきて 目を開けていれば)去年の私のプレゼンも見ていたということか。WISSは水曜日から金曜日。そして土日は未踏ソフトの中間報告合宿なのである。私は「こ の後も引き続きお世話になります」と言った。

それと同時に「うーむ。PMが来ているとなれば、プレゼンを少し考えねば」と思う。一通り説明をした後「この手法はいろいろなデータに応用できると思いま す。例えば撮り貯めたビデオとか」と言った後にちょろっとGoromi-TVのデモを見せてしまおうか、などと半分考えていたのだがそれをあっさり没にす る。とはいっても仮にPMがいなかっとしてもそんなことをやる余裕があったとは思えないのだが。

さて、受付が終わると会場に入りいつものごとく席をみつけ電源タップを確保しLAN接続やらあれこれをやる。その間にも何人か知り合いに挨拶する。(考え てみれば初めて参加したときには驚愕ばかりして いた。そこからここまで来たのだ)ある人 に

「大坪さん発表されるんですよね」

といわれる。私はこう答える。

「いや。。みんな寝ててくれるといいと思うんですけどね」

みんなが机につっぷしてぐーすか寝ている 中私は静かにプレゼンを終え、「質問はないようですね。では失礼いたします」と言い席に戻る。それであってこそ厳しい質問やら罵倒やらから身を守ること ができるではないか。 そりゃ今から考えればこの返答が実に馬鹿げたものであることはわかるけど、そのときは本当にそう考えていた。

会話を終えると外にでて夕日を眺める。ここは本当に眺めがすばらしい。美しい夕焼けの海に向かって口のなかでぶつ ぶつと練習を する。えーっとえーっと。ああ、またつかえた。いや、ここであまり神経質になると返ってまずいのではなかろうか。うだうだうだ、と思っているうち発表が始 まる。まず最初は委員長の挨拶。今回私の発表は「実装」というカテゴリーに入っていた。そのことを知ったとき「実装って なんすか?」と思った。聞いてみれば従来ショートペーパーとして採録していたものを、実装、という名前に集めたとか。つまり「いまいち」ということなので あろう。それならば合点がいく。

挨拶が終わると発表が順次進んでいく。ぼんやりと聞いているのだが自分の番が近づくにつれあれこれ心配になってくる。今回はBluetooth接続のプレ ゼン用ツールを準備していた。手にもったリモコンのスイッチを押せばスライドが進んでくれ る、というものだ。これがあればプレゼン中前を向き、背中を曲げ ないでしゃべることができる。練習の時もそれを使って準備万端、と思っていたらかばんの中にそれが見つからない。うげげげ、と思いかばんをかかえトイレに 駆け込む。個室 の中でこころゆくまで探してみるがやっぱりない。ああ、何をやっているのか。

などとめげている場合ではない。だんだん自分の番が近づいてくる。前の人の発表が質疑に入ったところでPCを抱えて前のほうにいく。待つことしばらく。前 の発表が終わる。PCをセットすると無事画面がスクリーン上に映し出される。これで例によって抱いていた危惧の半分くらいは消える。しゃべり始める。2枚 目のスライドで「さて問題です。お昼に何を食べましょう」と言う。軽い笑いが起こる。これでとても安心する。
プレゼンは粛々と進んでいく。前の方に座っている人たちの顔も見える。幸いなことに顔をあげて聞いていてくれるようだ。後から気がついたのだが、私がやっ ているプレゼンテーションのス タイルだとスクリーンから目を離していると何が起こったかわからなくなるのではないかと思う。逆にスクリーンだけみていても何のことかわからないだろう。 重要と思われることは自分でしゃべっているのだから。
などとやっているうちあるスライドが近づく。私の緊張は更に高まる。プレゼンで見え見えの受け狙いをやるのは趣味でないし、すべるとひどく落ち込む。とい うわけで極力避けてきたのだが、今回一カ所だけネタを仕込んでいた。

「お昼に何を食べるかはその朝何を食べたかに影響され ます。例えば朝忙しくて牛乳一本しかのんでこなかったかもしれない。あるいは何かの理由により朝から 焼肉を食べてしまったかもしれない」


といったところで「朝から焼肉」という台詞をつかっていた芸人の写真を挿入したのである。とはいっても

「何をふざけておるか」


とお叱りを受けるのもなんなので、一瞬しか表示しない。あまりに一瞬すぎて誰も気がつかないといやだし、そもそもこの芸人の写真だけで「朝から焼肉」とい う意味を受け取ってもらえるだろうか。などと不安に思っているくらいなら入れなければいいのだが、そこが人間心理の矛盾したところである。社内の練習で笑 いがとれたので少し安心していたのだが、さて本番では、と思っていると礼儀正しい笑いをとることができ 一安心である。

プレゼンの内容は「こんなもの作りました」から「ユーザに使ってもらったらこうでした」に移る。最初に論文を書いたとき

「ほーれ。ユーザって気まぐれ」

というだけで満足していた。その後査読コ メントを読み被験者を追加して気が付いたことがあった。このシステムの使い方は二つのパターンに分類されるのだ。(以下興味のある方はこのページからムービーをダウンロードしてごらん 下さい)

一つ目は「だいたいのカテゴリーを決めその中でふらふらする」パターンである。最初に試験をした男はご飯付きの定食を いくつか選んだあげく、最後にいきなりそばを選んだ。その再現ムービーを写したところで穏やかな笑いがおこる。私は

「ここまできて”そば”かよ」

と言う。実際この男が使っているところを後ろから観察していた私は心中喜びの雄叫びを挙げていた。そうだよ。人間これくらい気まぐ れなんだよ。しかし私はまだ甘かった。6名中3名は確かにこのような使い方をしていた。しかし残りの3名はそうではなかった。

ある男が選んだ物を並べるとこうなる。

ハンバーグ

ロールキャベツ

ネギトロ丼

鰻丼

もうここまでで十分ジャンルも何もなくなっている。しかしまだ選択は続く。

鯛めし

ラタトゥーイユ丼

ここまではかろうじて「ご飯がある」という共通項がある。しかし次に彼が選んだものはその希望をも打ち砕く。

オードブルセット

そして最後に彼が選んだのは「鯛めし」である。鯛飯は3手前に選んでいるではないか、などと言うのは言いがかりというものである。 つまり彼を含 む3人はこのようにジャンルを全く飛び越え、彼らだけにしかわからない基準で次々候補を選んだのだ。ある男は「こってり こってり」とつぶやきながら選択 をしていった。それを後ろから見ている私の頭は

「こってりといいながら何故これを入れる/これを落とす」

という問いであふれかえる。そのとき私は悟った。私は人間の気まぐれさという物を過小評価していたと。そして敗北感にさいなまれ る。

またユーザ評価の結果をみているうち、もう一つ気が付いたことがある。今回6名に対して9回の試験を行ったのだが、そのうち6回で は「最後に選択した物が最終選択 ではなかった」のだ。平たく言えばユーザは「あれもこれも」と候補を揃え、あれこれ観た後に「是を食べる」と決定するのではなかろうか。つま りこういった問題に対処するためには「選ぶ可能性が高い物を推薦すればよい」と単純にはいかない。ある程度ユーザに探し回らせることも必要ではないかと思 うのですがいかがでございま しょうか。

といったところでプレゼンはおしまいになる。さてここまでは「馬鹿な事を言うな!」という中断もなく、なんとか無事に到達できた。 問題は Q&Aの時間。私は心して身構える。まあ最後までしゃべらせてもらったからい いや、と思い切ることができるほど私はさっぱりした性格ではない。座長が「質問は」と言うが最初は誰も手を挙げない。私は半分ほっとする。今から考えれば プレゼンが何の反響も呼ばない、というのは困ったことなのだが、とにかく罵倒されることを恐れている身としては少しご機嫌になる。

それからいくつかの質問が飛んできた。これはランダム選択との比較はやっているのですか?はい。被験者数1ですが、開発中にやっています。あまりにむなし いので(こういう表現はその日は使わなかったと思う)その後の検討から除外しています。ああ、しかしきっと美しい論文というのは意味がないとわかっていて もきっちりランダム選択と比較して「有意差があります」と述べねばならぬのだろう。別の人が質問をする。例えばその人の健康状態を勘案してよいもの悪いも のを識別してはいかが でしょう。私はこの問題についてはあれこれ考えたことがあったので少し考えた末、概略こう答えたつもりだった。

人間というのはとてつもなくわがままなので、下手にそ んなことを言うと逆効果になる可能性がある。よくても
「うるさい、このボケ」と言われるのが落ちではなかろうか、と。従ってそれ自体慎重に考えねばならぬことだと思います。


実際この類の「あなたのためを考えた情報推薦」を安易に語る人間は、誰が見ても太っている人に「あなたは太りすぎですから、これは食べないほうがいいで しょう」と言ってみるとよいと思う。客観的なデータから何かを推論するのとそれを相手に伝えるのは全く別の話である。こんなことは日常生活では誰もが言う までもなく承知していることだと思うのだが、こうした「情報システム」がからむと何故こうも無邪気になれるのか。

他にも「全部見たい、という要望にはどうすればよいか」という指摘があった。私は「試験を行ったところ、そういう要望を述べた人は居ませんでしたが。。」 と答えた。しかしこの点に関しては私の考えが浅かった。翌日ある人にコメントをもらった。確かに全部みたいとは思わない場合もあるだろう。しかし例えば 「外せないデート」とかの場合には可能な選択肢を全部チェックしたいと思うのではなかろうか。私はううむ、とうなるとともに指摘を感謝する。確かにその通 りだ。そしてGoromi-TVにおいてはこの「全部見たいときにはどうするの」という問題はより大きな形で明らかになってくるのだが、それは後の話。

他にもいくつか質問があったと思うが覚えていない。とにかく私はご機嫌のうちに自分の席に戻る。この「当面のご機嫌さ」というのは結構問題を秘めている場 合があり、私はものすごく鈍い人間なので「とんでもないことを言われている」場合でも当面はご機嫌だったりする。しかしこの日は本当にご機嫌になった。そ の後も発表は続いているが聞いちゃいない。発表が終わると各自部屋に戻りしばらくの後デモが始まる。普通の人はその後お風呂に入るのだが、私はとっとと 入ってしまう。去年は最終日に発表だったから最後まで緊張感が抜けなかったし、ご機嫌に酒を飲むなんてこともなかった。しかし今日は別だ。普段めったに酒 を飲まない私だが今日はほれほれである。風呂からでてデモ会場に向かう。そこで知り合いにこういわれた。

「全身から緊張感が消えてますよ」

私はへへへと笑う。緊張がなんだ。発表終わったもんね、ほれほれほれー。という気分なのだ。
といったところでその後の二日は完全にだらけきった気分のまますごすこととなった。いやー、初日に発表っていいなあ。などとだらけた言葉を並べるより、二 日目の朝私が某所に書いた文章を引用しておこう。

<<引用ここから >>
にゃんにゃにゃーん
わーい。発表おわったーい。レポート書くのは他人におしつけたわーい。

わーいわーい。

というわけで「回りの空気から緊張感が消えてますよ」と言われた私でございますがいいのです。わーい。

Face- to faceでコメントくれた方、ありがとうございます。「朝から焼き肉」のところで誰も気が付いてくれなかったらどうしようかと恐れていましたし、 Q&Aで罵倒されはしないかと恐れてもいました。

私にとってこのように思うとおりに発表ができる場というのはとても貴重なものなのです。それについて書き出すと長くなりますが。というわけで今はわーい わーい。にゃんごにゃんごー。
<<引用ここまで>>

しかし弛緩しきっている場合ではないのだ。家に帰ると翌日からは未踏ソフトの合宿だ。

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注釈